ぷるるんは大人の印?

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前回、ぷるるんについて、あのようなことを書いたのですが、実は、こんなことがありまして…。

今日は、2010年にヨソに書いたものの転載です。

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子供って、すごくヘンなことに憧れるもんだ。


私が(なま)クリームというものを食べられるようになったのは、17歳くらいのころだったと思う。それまでガリガリに痩せていたので、娘らしい体を作るために、私の中のホルモンがそれを要求したのかもしれない。


そして、ホルモンのその企みは大成功だった。

徐々に徐々に脂肪を蓄えていった私の肉体は、20代の前半までにピークを迎える。しかも、それまでの私は、人と同じ意味では自分のスタイルというものに興味がなかったというか、考えたことがなかったので、全体的に若干丸くなっていることに長い間気づきもしてなくて、今思えば、あのまま危険な水域に足を踏み込んでいてもおかしくなかったかもしれない。実際は、「健康的な」領域にかろうじてとどまっていたようだったけど。


周りの人の言動などから、自分が少なくとも以前のように痩せているわけではないのだということにうすうす感づき始め、やがて自覚するようにはなった。それでも、どうにかしなくてはと真剣に考えた記憶はあまりない。


そのころに私と初めて知り合った人たちは、今でも久しぶりに会ったりすると、「あれ?やせた??」と言う。つまり、彼らのイメージの中の私は、永遠に、私の人生史上最もお肉を蓄えていた時代の私なので、今となってはいつでも「(イレギュラー的に)やせた」ように感じるらしい。


私が肉体の危機を脱したのは、肺炎という生命の危機と引き換えだった。それを機に、自然と痩せた。というか、元に(?)もどっていった。

当時の人生の先輩に言わせると、そういう年頃なんでしょということでもあったみたいだけど、仮に本当に「太らなくなる年頃」というものがあったとしても、痩せない人もいる。とにかく、私の肉体は、自分なりの摂理とも言うべき感じで、自然とそこそこの状態に落ち着いていった。


で、このような私が、子供のころに憧れたことの一つが、「太ももぷるるん」だった。

マセた女子なんかは、小学生のころから「痩せたい」「この肉をなんとかしたい」などなど言ったりする。その感覚は当時の私にはまったくわからなく、でも、とても大人びて聞こえたので、自分もそんなふうに言ってみたいと思っていた。

そんな話をする時は、たいがい、外側に見えてる肉体の中で太ももがよく注目されたりした。肉をつかんで見せたり、ぷるるんと震わせて見せたり。今思えば贅沢なのだけど、あのころの私は、自分のつかめない太ももとか、ぷるるんとならない太ももが、とても子供じみたものに思えて、ガッカリしていたのだった。


17歳ころクリームを食べられるようになって、ムシャムシャと体内に取り込んで、ついに私にも太ももぷるるんがやって来た時、すごく誇らしい気持ちになったのを覚えている。そして、紆余曲折の末、今現在、違った意味でも全身的にお肉が上乗せされたり、あるべき位置から若干ズレたりして、以前の状態に戻したくても、戻せないでおるところ。。。

クリーム類を食べると頭が痛くなるという子供のころのヘンな体質も、戻ってきていない。時にケーキ2個とか食べられる体質に乗っ取られたままだ。



ずいぶん前に読んだ江國香織さんのエッセイに似たような話が書いてあって、子供ってみんなそんなふうなんだなぁと思った。


それは「あぶらとり紙」の話で、江國さんは子供のころに、あぶらとり紙にいくらでもベタベタと顔の脂をつけることができた父親がうらやましかったと書いている。

自分は全然脂がつかなくて、子供は脂がないんだなと父に言われてガッカリしていた江國さん。

私はと言えば、大人になるまであぶらとり紙の存在すら知らなかった。しかも、大人になって周りの女性があぶらとり紙を使ってるのを初めて見て、おもしろそうだと思って借りてみたけど、子供のころから超乾燥肌だったせいか、脂はつかなかった。周りは驚いていたけど、私はつまらないだけだった。そういえば、青春のまっただ中にいたころも、私には、これまた憧れのニキビというものがほとんどできなかった。少しできるようになったのは、二十歳を超えてからだったと思う。


というわけで、あぶらとり紙初体験から何年も何年も経ってやっと、私もあぶらとり紙がバッチリ透けるようになってきて、それはとてもやりがいのある楽しい作業になっていったのだけど、やはり太ももと同じ、楽しいのは一時期だけで、今となっては…なのである。。。

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