転校生は人気者④
その日、瑚白は休み時間の度にクラスメイトに囲まれていて、蒼はそれを遠くからいじましく見ていることしかできなかった。どこかで瑚白が一人になるタイミングがあったら話しかけることができるのに、と思っている内に、放課後を迎えていた。
せめて帰りに一緒のバスに乗れたら、と蒼は淡い希望を捨てきれずにいたが、気づいた時には瑚白の姿は教室になかった。
蒼が初めて好きになった人とは、会話をするどころか、目を合わすことすら出来ないまま一日が終わる。
こんな切ない日は、帰りにファストフードでも寄ってポテトとアイスクリームを交互に食べたい、と思い蒼は樹を誘ったが、「ごめん、今日は無理」とあっさり断られた。きっと女の子と会う予定があるのだろう。
空中浮揚やテレポーテーションを使って帰る一部のクラスメイトを羨ましく思いながら、蒼は諦めてバスに乗り、揺られて少し気分が悪くなりながら帰った。
「ただいま」
家に帰ると、玄関に女の子用のローファーがたくさん並んでいる。
廊下からまっすぐ先のリビングのドアが半分くらい開かれて、遥がその隙間からひょこっと顔を出した。
「お兄ちゃんおかえり。悪いんだけどさ、いま友達来てるから、ちょっと外で時間潰してきてくれない? 十八時頃には皆帰ると思うから」
「えー、そんなぁ」
傷心で帰宅早々追い出されようとしている状況に、蒼は半ば泣きそうになる。
遥が廊下側へ来て、後ろ手でリビングのドアを閉めてから、両手を合わせた。
「お願い。お兄ちゃんいたらちょっとびっくりしちゃうんだよ、みんな。今度アイス奢るからさ」
「……わかったよ」
そうまで言われて、妹の邪魔をするのも本意ではないし、蒼は靴も脱がぬまま、今入ってきたばかりの扉から外に出る。
うまくいかない日は何もかもうまくいかないものだ、と蒼は実感しながら、あてもなく歩く。
気づけば、いつもの通学路沿いに歩いていたようだ。家をでて十五分ほど経っただろうか。橋が見える。ここを渡れば遥が通う学校、超能力がなければ蒼が通うはずだった学校が並んでいる。
「一般学校に通えていたら、また違った人生だったんだろうなあ」
蒼は、誰にともなく呟き、深く息を吐いた。
一般学校はLIMITと比べると生徒数が四、五倍多いので、もしもあそこに通うことができていたら、例え見た目が派手でなくても女の子と付き合うことができたのではないか、と蒼は考える。
LIMITでの地味扱いは、能力的な部分も大きく関わっているからだ。
バスに乗っているとほんの数秒で通り過ぎてしまう橋だが、徒歩だと雰囲気がゆっくりと味わえる。橋の柵に手をついてもたれかかると、蒼の眼下に川が流れていた。ぼんやりと水の流れる音を聴く。
「よし、降りるか」
橋の両側から、河川敷へ降りることができる階段があった。蒼は水の音を近くで感じて癒されようと思い、階段を下った。
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