転校生は人気者③
さて、いざ休み時間となったところで、瑚白の周りには人だかりが出来ていた。
中心には王子、前の席の双子、王子の親衛隊三人組と集まっており、王子はハーレム状態だ。そのさらに周囲には様子を伺う男子たちがいる。こちらの視線は、転校生の瑚白が気になる気持ちと、王子を妬む気持ちが入り混じって不穏な空気をはらんでいる。
なにせ、六歳からこのコミュニティで過ごしてきて、とある事情で仲間が一人減ったことはあったが、人数が増えるということは今までに一度もなかった。その上、新しく参入してきた一人が美少女ときている。皆が興味を示さないはずがない。
幼い頃から一緒に過ごしてきた仲間に、人見知りも気遣いももちろんないが、
王子の穏やかな話し声と、女子たちの楽しそうな笑い声が聞こえる。
「はあ……。休み時間がどんどん過ぎていく」
蒼は机に突っ伏して嘆く。ちらりと顔を右に向けると、樹が小指でほじくった自分の鼻くそを眺めていて、げんなりする。
「樹は興味ないわけ? 初めての転校生」
樹と一緒になら、話しかけにいきやすいのにな、という甘えた気持ちで蒼は隣に座る友人に問う。
「んー? 別に。見た目はタイプじゃねえし、遊べそうな感じもないしなあ」
「……樹は本当に、そればっかりだね」
樹が言う遊ぶの意味は、ずっと過ごしてきただけにもちろんわかる。ふと、彼はいつからこんな風になったんだっけ、と蒼は考えるが思い出せない。
「そんなことより蒼ちゃんはさ、恋愛経験値上げるかコミュ力つけないと、さすがにチャンスないんじゃね? 見た目もださい上に女の扱い方も知らないんだから」
「し、失礼すぎる!」
ケラケラと笑う樹に、蒼は絶句する。
「友達として心配してんだよ? だって、あそこの輪に蒼が入れたとして、転校生と距離が縮まる会話ができるとは思えないし、あの場で口説くことも、連絡先聞くこともできないよね? できる?」
言われたことは全て図星で、蒼に返す言葉はない。
教卓のほうへ向けて鼻くそをぴっとはじいた樹を観察する。すっと通った鼻筋に、シャープな顎のライン。長い前髪の隙間から少し覗いている目は切れ長だ。肘をついた手は筋が浮いていて男らしいし、上半身の引き締まった筋肉は、制服の白シャツの上からでも見て取れる。
そう、常時エロのことしか考えていないこの下品な友人は、見た目は文句なしのイケメンで、ただそれだけの理由で女が途切れることがないのだ。
対して蒼はといえば、もう十八歳になる年だというのに、身長は一六五センチしかないし、筋肉だって全然つかない。髭が生えてくる気配もないし、女性に言い寄られたこともない。二人で出かけたことがある女の子は今までに一人だけだし、その一回の相手は妹の遥だったため、なんの自慢にも経験値にもならない。
時々見栄をはって、デートくらいはしたことがある、と妹の存在を伏せて話すこともあるが、あとに残るのは虚しさだけだ。
男らしさもなければ、女性を喜ばす方法も知らないということを、蒼は自覚していた。その上、能力さえ地味ときている。
「ああ、どうして神様は、僕に何一つ与えてくれなかったの?」
蒼は窓の外に目をやり、どこかにいるのかもしれない神様を恨む。
蒼の超能力は、皮膚知覚。視覚を閉じていても、触れたものが何かわかったり、そのものが持つ表面的な色や、性質の色を感じ取ったりすることができる。
発動条件は、体表面積の十パーセント以上がその物体に触れ合っていること。ソファや床や布団などの家具以外で、その条件に当てはまることはほとんどなく、対人間に関して言えば、ぎゅっと抱き合いでもしない限り発動しようがない。そして、発動したところでわかることは色だけだ。
つまり、蒼はほとんど一般人なのだ。そうであるにも関わらず、その使いどころのない超能力のせいで、通学にも不便なLIMITに通わざるをえず、更にその中では地味扱いされているという状況で生きているのだ。LIMIT内部では、派手な能力を持つ男が人気になる傾向にある。
家では、家系で初めて生まれた超能力者の蒼は、異質なものとして見られ気味悪がられているふしがあるし、超能力があって得をしたことなど、これまでに何一つない。
「やっぱり、童貞捨てたら、なんか勇気わくんじゃなーい?」
樹がなんの根拠もないアドバイスを蒼に送り、「ああ、ヤりてえな」と呟いたところで、休み時間終了のチャイムが鳴った。
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