第28話
突然の展開に、目を白黒している俺を置き去りに、百合さんはここぞとばかり甘え始めた。
しかも、すごい際どい服装で。
さっきから、下腹部に当たる柔らかいものに意識が持っていかれそうなのを必死に堪えていた。
「夏巳くん、夏巳くん、夏巳くん♡」
目を♡にして、俺の名前を連呼する百合さんの表情は、昔飼っていた犬の翠に似ていた。
翠可愛かったな。
「天堂、おい!しっかりしろ!!こら、ユリ!離れろ〜!」
じゃれつく子犬のような、百合さんを先生が必死に剥がしてくれた。
そうしてしばらく経つと、少し落ち着いたのか、百合さんが大人しくなった。と言うより、恥ずかしがっていた。
頬に手を添えて、やんやん言っている。恥ずかしいならやらないでほしかった。こっちも恥ずかしいし。
と言うよりーーー
「やっぱし、好きなんじゃねぇーか」
っと、俺の心の声を代弁して、先生がボヤき始めた。
ついでに、場所もリビングへと移していた。
頭を掻きながら、先生は何事かを呟いているかと思うと、チラッと名取さんへと目をむけて、口をへの字にした。
「名取って、ユリの気持ちに気づいていたんだろ?何でややこしくしてんだよ?」
「それは、話すと長かったり、短かったりと、へーと、そのー」
「煮え切らないなー」
「手早く言うと、ユリ先生は負の感情を題材にした作品が得意みたいで、今回でその感覚を掴んでいただいたらなーって、思いまして。それで、別れた状態が丁度よかったので、少しの間、ふくえを我慢してもらおうかなって、それでもし、本当に関係がダメになったら、私が夏巳さんを養ってあげようかと思った次第でして〜」
「て〜っじゃあねぇーーー!天堂とユリが迷惑してんじゃねえーか!何考えてんだー!」
そいう計画だったのね、名取さんの。
さっきの思ったより早いってのも、復縁する可能性が早まったと思ったから出た言葉だったんだ。
百合さんの言葉をそのまま鵜呑みにするなら、新作が完成する前に、俺と復縁したいって思ってくれたんだ。
名取さんの百合さんを見る表情には、罪悪感が滲み出ていた。
当の百合さんは、いまいち会話についてこれていない模様だ。
「ユリ先生、ごめんなさい」
「え?えーと、はい?わかりました?」
なんとも煮え切らない返事だった。
一連の事態が分かる俺と先生は、ため息を吐くしかなかった。
同じ作家なのに、こうも場の空気読めないのかっと、先生の目が語っていた。
事実、百合さんの作品は一人称視点で物語が進んでいるから、第二者、第三者の心情を読み解けみたいなのは向いていないのだろう。
先生も、それが分かっているからか、名取さんの心情を詳らかには語ろうとしていない。
百合さんのそういう、抜けた所も可愛いと思えてしまう。
名取さんは、下を向いているので百合さんの困惑した表情は見ることができない。
その為、顔上げた表情には、謝罪を受けいれてもらえたという安堵が滲み出ていた。
「・・・カオスだな(ボソ)」
「そうですね」
俺と先生は、呆れながら二人を見据えるのだった。
そして、百合さんは何かを思い出したのか、俺に向日葵の様な明るい笑顔見せてきた。可愛い。
「それで、夏巳くんは私とまた付き合ってくれるんだよね!」
「もちろん!むしろ、お願いしたいくらいです!」
「やったー♡」
これで当初の予定通り、見事、復縁成功だ!
これで、万事解決だったらよかったんだけどな。
俺は、鈍感系主人公じゃない!(仮 日ノ本 ナカ @kusaka43
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