第27話

「さっきまでの勢いは、どうしたんだよ。天堂」

「そんな時も、俺にはありました」

「ついさっきだろ!」


 百合さんの家が、目前へと迫った所で、不安が募ってきたのだ。

 嫌悪感を与えないか。通報されなかい。等々。

 カフェを出るまであったやる気が、ここに来て薄れてしまったのだ。

 好きな人に嫌われるとか、考えただけで、吐き気が。


「お前は乙女か!腹括ったなら、バシッと決めろよ!」

「フラれたらどうするんですか!」

「しらねぇーよ!てか、早乙女とか浪川とかにも、付き纏われてたろ!」

「・・・・・俺は百合さん一筋だから」

「今の間はなんだよ。一瞬考えただろ?」

「いえ。全然」

「目ぇすげー泳いでんぞ?はぁ。今から告白って時に、ぐらついてんじゃねーよ」

「すいません」


 晶は、男子制服を着ていて分かりづらいが、目鼻立ちがハッキリしているし、クールな表情や時たま見せる年相応の乙女な表情も彼女の魅力だ。

 紫は、自他共に認める完璧美少女。

 家事全般は得意で、中でも洋菓子はプロ顔負けの腕前でもある。

 そんな二人から、好意を寄せられていると思うとそりゃあぐらつくよ。

 だって、男の子だもの。

 でも、先生の言う通りだ。

 二人には、ちゃんと後で伝えよう。

 今は、百合さんだ。


「それにしても、ユリのやつ良い部屋住んでんな。家なんてもっと安アパートなのに」

「名取さんの紹介らしいですけど、部屋の契約は両親がしたらしいですよ」


 自動ドアの近くにあるタッチパネルに向かい、暗証番号とカードキーを入れるとドアが開いた。

 エレベーターに向かい、いつもの調子で九階へのボタンを押した。


「お前、手慣れてるな。何度も来たことあるみたいだ」

「いやー、まあ」

「不純異性交遊は、ダメだぞ?」

「まだ、してませんよ」


 キスは、セーフだよな。

 そんな事を思いながら、百合さんの住んでいる角部屋へと着いた。

 これから、百合さんにもう一回告白するんだ。


「失敗しても、私がいるからな」

「怖い事言わないでくださいよ」


 緊張感が少しは抜けた。先生なりの気遣いだったんだろう。

 よしっと、決意してインターホンを鳴らすのだった。


「はい。は?」


中らは、何故か名取さんが出てきて来た。


「あれ?名取さん?」

「夏巳さん!?えっ!?大分早い!?」

「へ?」


名取さんは、取り乱しかのように、後ろを向いたり、こちらを見たりしていた。

明らかに、挙動不審だ。


「名取?どうしてお前がいるんだ?」

「うわ、しかも親指姫先生も!?どうして居るんですか!?」

「私は、こいつの担任だ」

「だとしても!」

「天堂が、ユリに告白するのに勇気がいるからって言ってたから、私が付いて来たんだ」

「あぁ、が・・・」

「計画?」


名取さんは、何事かを呟きながら崩れ落ちた。

その姿を見た先生は何かを察したのか、バツが悪そうに、又は、憐れむような表情で名取さんを見た。


「名取さんまだー、夏巳くんとの復縁計画、早く練ろーよー」


奥からは、百合さんの気の抜けたような声がして来た。

懐かしい気持ちよりも、言葉の方が気になった。

先生は、「やっぱり」っと呟き、遠い目をしていた。


「名取さんの言う通り、前の作品すごく頑張ったからー」


泣き言のような、百合さんの声に、さっきまであった緊張感が霧散して行く。

と言うより、名取さんと居る時って、こんなに子供化するのか。

俺のとは、甘えん坊みたいだったけど。

痺れを切らしたのか、奥の部屋から百合さんがこちらに向かって来た。


「名取さーん。まだー?・・・っ!??」


タンクトップに、股下ギリギリのショートパンツといった。女性同士の安心仕切った、際どい服装の百合さんが現れた。

隣の先生は歯軋りをし、百合さんは己の痴態に顔を真っ赤に染めていた。

そして、名取さんは抜け落ちたような表情で床に座っていた。


「・・・本物の夏巳くんだ!」


恥ずかしさより、俺には会えた方が嬉しかったのか、その表情には喜びが浮かんでいた。

そして、そのまま僕の胸へと飛び込み、キスして来た!?


「百合さん!?」

「ユリ!?お前は、痴女か!?」


名取さんだけは、無反応だった。

と言うより、俺の思ってた展開と大分ズレてるんだけど。


「夏巳くん、だーい好き♡」


そのまま、俺を押し倒してながら抱きついて来た百合さんは、告白しながらまたキスをして来たのだ。

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