第26話
先生は、当たり前のように俺のいるボックス席へと入ってくるなり、手早く注文を終わらせていた。
「どうしたんだ?彼女と復縁、失敗でもしたのか?」
つい先程、相談に乗ってもらったばかりの俺が、窓際のボックス席で放心状態でいたから心配して声を掛けてくれたらしい。
気づけば、太陽は沈みお月が現れいた。
時刻は、午後八時過ぎになっていた。
多分夕食も含めて何だろうな。
「いえ、あの、それどころか、余計に面倒な事になりました」
今しがた起きた事を掻い摘んで報告した。色々と相談に乗ってもらってるしね。
「協力要請した、担当編集の名取さんには断られた挙句、求婚&主夫になる提案をされ、最終的に叱られてしまったと。そりゃそうだ。だって、お前、物凄く鈍感だろ?」
薄々、気が付いてしまった事を断言されてしまった。
でもさー、好意あるんじゃね?って勘違いして引かれるより、鈍感って蔑まれる方がよっぽどマシだと思うのだけど。
ナルシストってキモいし。
「っで、名取さんの主夫になるの?」
「いえ。やっぱり、百合さんのこと忘れられないし、それに」
「それに?」
「まだ、諦めたくないんです」
「そうか」
先生は無言になり、運ばれて来たステーキやパスタを黙々と食べ始めた。
女性の食事姿をマジマシと見るのは、かなり失礼だと言われた事があったので、俺は追加でホットコーヒーを注文した。
横目で、先生も完食寸前に見えたので一緒に注文しておいた。気づかいのできる俺。
「はあー。そのドヤ顔、腹立つな」
俺の脛を蹴りながら、先生は受け取ったコーヒーを口に含んだ。
そして、決心した表情で俺を見つめてきた。
「よし、私の秘密を一つ教えよう」
「先生の秘密ですか?すりーーーー」
無言の右ストレートが、俺の鳩尾を射抜いた。
呼吸が一瞬止まり、目が白黒している間に痛みが脳に届いた。
「痛った!マジで痛いですよ先生!」
「下らん事を言う口は、いらんだろ?」
目が全然笑っていない。
「私にその話を振るな。スリーアウトで責任を取らせる。いいな?」
責任って何!?とは思ったが、口には出さなかった。命は惜しい。
無言で、赤ベコよろしく、頭を縦に振り続けた。
それに満足したのか、先生は鞄からタブレット型PCを取り出した。
それを起動しながら、とんでもない事を言い放った。
「お前、小説家の『親指姫』知ってるか?あれは私だ。そしてユリとは、同じ事務所の後輩先輩であり、担当も同じだ」
「えええええ!?」
「同い年だが、作家としてはユリの方が先輩だ」
(胸もじゃない?)ギロ「何でも無いです」
「お前、表情はうまくなってきたが、目線でバレバレだ。そして、ツーアウトだ」
目線かー、気おつけよ。
何気に怖いな。そのカウント。
「だから、私がお前達の間を取り持ってやる。だから、ちゃんと話し会うんだぞ?」
「お願いします!」
こうして、先生をお供に、もう一度決戦へと赴くのだった。
弱気にならず、玉砕覚悟でもう一度告白しよう。
そして、今度こそ、ちゃんとしたお付き合いを始めよう。
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