第25話

 何故に、「婚約者」なんだろう?

 一千万歩譲って、ユリさんの代わりに付き合いますなら分かるけども。いや、わからないけど!


「あの、私ごとですが、両親に結婚しろと引っ付かれているのが面倒なのでこの機会にと思ったのと。私的に、どうせ付き合うなら結婚を前提にと思っての提案です」

「話しがぶっ飛び過ぎて、話に付いていけない」

「簡単です。婚約すると言って頂ければ、それで充分です。こちらに、ボイスレコードもありますし」

「準備が万端過ぎて、むしろ怖いです」


 この人、さっきから会話が平坦過ぎるから、冗談なのか本気なのか全然読めない。

 深掘りし過ぎると、地雷を踏み抜きそうで怖いし。

 どう扱えば、正解なんだ。


「何も難しい事はありません。ただ働き疲れた私に、食事と癒しを与えてくれれば問題ありません。端的に言うと、主夫になって下されば養ってあげます」

「うん。何かもう、色々と地雷だらけの人だ」


 眩しいくらい綺麗な人なのに、言っている事が残念過ぎる。

 あと、さっきからずっと無表情なんだよね。


「ああ、夜の営みですか?問題無いです。私の場合、有給もそれなりに取れますし、なんなら産休申請すればいいことです」


 既にそこまで、話が進んでしまっているのか!?

 ツッコミが面倒だから放置していたら、放置ゲーム並みに進んでしまっている。


「あ、あの!名取さんは、別に俺のこと好きでないですよね?」

「関係がありますか?今更、子供でもありませんので、私は、愛を求めませんけど?世間体を考慮して頂ければ、愛人をいくら囲ってもーー」

「そ言う事じゃないです!それに、もし付き合う様な関係なったら、浮気は絶対にしません!」


 俺の言葉を聞き、名取さんから剣呑な気配が立ち込めてきた。

 俺を射殺すように見つめてきた。


「失礼ながら、夏巳さん。貴方の今の発言を是とした場合、今の状況にはなっていませんよね?園田先生の新作から感じた心の機敏を感じ取れば、貴方の無神経な言葉や態度が女性から不信感抱かせてしまうのでは無いですか?そもそも、貴方の態度は、全て思わせ振りなのです。発言の一つ一つに責任が発生する場では、一切会話に参加しないの当然のレベルで危険です。そもそも、三十路越えた、私如きに優しい言葉をかける事事態、タラシのの表明になっていないですか?そんな態度だから、園田先生は身を引き、貴方の自由を尊重したんですよ!わかっているのですか!」


 息切れせずに、一気に言い終えると、無言で俺を睨みつけてきた。


「夏巳さんは、純粋過ぎます。だから、女性の感情の機敏を理解出来ないのです。愚直なまでの好意だけが感情の全てでは無いのです。嫉妬などの負の感情も感じ取れてこそ、最高のパートナーだと私は思います」


 それだけ言うと、名取さんは伝票を持ち「失礼します」と言って、立ち去ってしまった。

 晶と同じ長身の女性だけあって、その後ろ姿は、見るものを虜にするほど美しくてカッコいいものだった。

 一人になった俺は、先程、名取さんに言われた言葉を反芻するのだった。

 女性の機敏には、鋭いと定評(自称)がある俺からすると、ムッと思う所もあるが、確かに、紫の気持ちに気が付いていなかった事から頷かざる負えないのが現状だ。

 ユリさんは、もしかして紫の気持ちが分かっていて、尚且つ、俺の態度に不安を覚えたから、別れてしまったのか?

 そんな事を考えながら、空になったグラスに挿してあるストローを咥えながらボーッとしていると、肩を叩かれた。


「天堂、何してんだ?」


 ちんまい先生が現れた。


「ぶっ殺すぞ?」


 激おこだった。

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