第24話

 紫に啖呵を切られ、颯爽と歩き去られ、屋上に取り残される俺。

 アイツ本当に帰りやがった。

 普通の告白って、バトル展開になったり、告白した相手を置き去りにしたりしないよな?

 アイツの好きって、本当にLOVEの好きなのか?本当はLIKEの好きじゃないのか?

 それだと、告白の意味が変わってくるけど。

 LOVEだと、俺が他の人に取られるのが嫌だから、嫉妬して、俺と付き合いたいって気持ちになったっていう意味になる。

 けど、LIKEだと俺が紫にかまってあげないからかまってくれって意味になるぞ?

 この二つには、大きな違いがある。

 まあ、紫だったら後者だろうけど。

 アイツの好みって、男らしい感じの、自分より背が高い人だって前に言ってたしな。

 友達多いくせに、俺にかまって欲しいなんて、とんだ寂しがり屋だな。

 まあ、幼馴染みだししょうがないか。

 って、そんなことは置いといて、手取り早く、復縁する方法を考えないと。

 先に、彼女の担当編集さんにアポイントを取ろう。

 彼女の名前は、名取 公久きみひさという。

 ショートヘアーの黒髪で、眼鏡が似合う麗人だ。

 名取さんの連絡先を知った経緯は簡単で、百合さんが名取さんに彼氏が出来た事を声高に自慢し、それを嘘だと断じり、その時に証拠として召喚されたのがきっかけだ。

 何かあった時の連絡先として、交換したのだ。

 名取さんへの初メールが、こんな内容になってしまった事を心からお詫びしながら文面を考えた。

 あまり、話した事がない相手へのメールなので、初対面の時より緊張している。

 相手の顔が見えない、今の方がかなり怖い。

 相対している時は、表情を読む事ができるが、メール越しだと全く何を考えいるのか分からないので、非常に気を使わざるおえない。

 って、あの人、基本無表情じゃん!変わりないじゃん!

 とりあえず、初対面では無いから軽い挨拶から入って、硬くならずに素直に送ろう。


「送信っと」


 手早くメールを送ると、数秒で返信が返って来た。


『夏巳さん。お話があります。駅前のカフェに10分で来なさい』


 っとだけ書かれていた。

 文字だけなのに、かなりの圧を感じる。

 そして、10分って短過ぎません!?

 俺は、そこから猛ダッシュで駅前のカフェへと向かった。

 うちの『四葉学院』から駅までは、徒歩で20分程かかるのに、かなりの無茶振りだぞ。

 汗だくでカフェの中に入る俺を見て、店員さんが嫌そうな顔をしていたのは、ご愛嬌だバカヤロウ!


「夏巳さん、お久しぶりです」

「ぜぇー、ぜえー、は、はぁー」

「あのー、荒い息をかけられても困るんですけど。あと、汗くさいですよ?」


 あんたのせいで、馬鹿みたいに全力疾走したんだよ!っと、声を大にして叫びたいが、生憎と肩で息をしている為、人語を発することができないのだ。

 あと、汗くさいって思っていても、声に出さないでください。心が折れてしまいます。


「とりあえず水を飲んで落ち着きましょうか?」


 席に促され、椅子に座り水の入ったコップを受け取り、飲み干した。

 水を飲んでる最中に、色々と言われた気がするが今は置いておこう。

 俺が呼吸を整えたのを見計らって、名取さんは話し始めた。


「単刀直入に言わせてもらうと、作家としての園田先生は復縁すべきではないと思っているわ。作家抜きにしても、現状では心のバランス保たれているので、諦めていただく事を推奨したいと思っています」


 そして、今日


「代わりに、私が夏巳さんのになって差し上げます」

「えぇええええ!?」


 眉一つ動かさず、平然と言ってのけるその姿は、本当に人形かと見間違える程平坦としていたのだ。

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