第21話
目が覚めた時には、昼の12時を少し過ぎ頃だった。
最初に目にしたのは、雪咲さんだった。
おっとりした瞳で、俺の顔を覗こき込んできた。
「もう、起きて大丈夫?二人に、かなり痛めつけられたみたいだけど」
あれー?この物語って、バトル物だっけ?何それ、怖。え?怖。
って、そんな現実逃避してる場合じゃない。
百合さんとの約束の時間が、早く行かないと。
「俺、約束があるんで、もう行かないといけないんです。だから、その、、、」
「でも、その格好で会いに行ったおら、相手がビックリするでしょ?」
格好と言われて、自分を見下ろすと、少女のような服装だ。下を見る時に、首筋にかかったものはあのウイングの先の部分だろう。
そう、絶賛女装中だ。
これは一旦、家に戻り、着替えを撮 取りに行かないいけない。
「また、あの子達に邪魔されない様に、お家に送ってあげるわ」
雪咲さんは、いつもの考えが読めない表情をしている。
彼女は、悪戯好きで、この表情の時いつも何かしでかす。
楽しい事や困らされる事、騙されて泣かされる事もあるけど、中々嫌いになれないのが雪咲さんの魅力なんだろう。
夫の瑛太さんは、そんな彼女だから、結婚したのかもしれないけど、かなりアグレシッブな女性だ。
正直俺は、苦手意識が拭えない。
「まあ、怯えちゃって可愛いわ♡」
ある意味、紫や昴よりもラスボス感がある。
仕方なく、雪咲さんに連れられ早乙女家を出た所でる事にした。
暴力的な幼馴染みや従姉妹よりは、幾分かマシだ。
そんなこんなで、外に出て、俺の家へ向かうと、俺の家の玄関に一人の女性がいた。
百合さんだ。
「あれ、、、夏巳くん?」
なんで、一発で分かるの⁉︎服装にメイク、ウイングまで付けてんのになんで、そんなに簡単に⁉︎
「約束の時間よりいつも早く来るから、今日は遅いなって、、、思って。私から、来ちゃったけど、、、やっぱり、迷惑だったかな?私、すごく重たいし、夏巳くんには、無理をさせてたのかな?」
百合さんは、瞳に涙を溜めながら聞いてきた。
どうして、こうなったんだろう?
なんで?
なんで、彼女をこんなにも悲しませいるんだろう?
俺は、彼女を幸せにしたかったのに。
言葉が出ない。
何かを言わないと、誤解が解けなくなると分かっていても、彼女の表情を見ると、何も言い出せなくなる。
「ごめんなさい。別れましょう」
そう言って、彼女は駆け出してしまった。
最近、彼女の心情を考えてあげる事が出来なかった。
ただ憧れの先生として見ていた。
だから、彼女の疑心感や辛さを感じとる事が出来なかった。
前の勉強会。勉強会後も、テスト勉強で彼女と会う機会が少なっていた。
多分、先月はそれ程彼女に辛い思いを与えてきたのだ。
どんどん、遠ざかる彼女を見て、俺は、一歩も踏み出せなかった。
その隣では、何かを思案する様に雪咲さんは俺をただただ見つめてくるのだった。
ユリ先生の新刊は、最初の予定と違い悲恋物語に変更されていた。
つまり、俺が、彼女の幸せな物語を悲恋物語に変えてしまったのだ。
その新刊は、彼女のデビュー作と同じくらいの売れ行きでヒット作になったが、俺はどうしても喜ぶ事ができなかった。
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