第20話
日は、昼過ぎに百合さんを迎えに行く予定。
そして、時刻は朝9時。
百合さんの家までは、2、30分で着くので、今から行くとかなり早くなる。だけど、早く会いたい。
そんな葛藤は1分で終わり、俺は、出かける支度を素早く済ませて、玄関へと向かった。
丁度その時、ドアが勝手に開いた。
勿論、家のドアは自動ドアでは無い。
玄関の先にいたのは、紫だった。
甘い香りが漂うケーキ箱を両手に持ち、そこに立ち塞がっていた。
「あの、紫さん?なんの御用で?」
俺が、恐る恐る聴いて見ると、笑顔を向けてきた。ニコニコして、一言も発しない。
あの鬼の様な幼馴染みが笑顔、、だ、、と、、。
一体何が起きているんだ。俺はもしかしたら、死んでしまうのか?
いやいや、冷静になれ。俺は人の機敏に鋭い筈だ。
そうだ、昔、同じような事があった。アレと同じなんじゃないか?
「もしかして、お前も百合さんの家に遊びに行きたいのか?でもダメだぞ。相手に確認してからじゃないと」
さっきまでのニコニコしていたのが、ひび割れたかの様に固まった。
何故だ?俺の後に付いて来て、俺の知り合いと遊びたいからじゃないのか?
昔は、よく俺の後ろに付いて色々な所に行ったことがあるから、てっきりそうだと思ったけど、、、なんか地雷っぽい。
どんどん、瞳孔が開いて来て、ハイライトが消え始めた。
いつ爆発してもおかしくない状態だ。
前に爆発した時は、48の殺人技から52の関節技で止めを刺された事がある。良い子は、マネしちゃダメだぞ。確実に死ぬから。
まあ、そんな事があったから、この状態がかなり危険だ。
「そうだ、私、妹が欲しかったんだ」
その謎発言を聞いた後、俺の意識は霞んでいった。
意識を取り戻した俺がいるのは、紫の家だった。
周りには、紫、昴、雪咲さんがいる。
あと、俺が出かける時に着ていた服が散らばっていた。
俺、何されての?
近くに姿見が置かれていて、俺の全身がどうなっているのかを教えてくれた。
まず、頭にはウイングを被せられ、黒髪のサラサラのロングヘアーになっていた。
衣装は、真っ白なワンピース。しかも、至る所にフリルが付いている。
爪には、キラキラなネイルもされている。
顔には、ファンデーションやアイライン、リップと好き放題に弄られていた。
そう、俺は女の子なっていた。
「ええええええええ!なんで⁉︎何故に⁉︎どうして、俺はこんな仕打ちを受けないといけないんだ!」
「可愛いわよ」
「とても可愛らしいよ。なっちゃん!」
「まあまあ、なんて可愛いでしょう♡紫と夏巳くんが結婚したら、いつでもやり放題かしら?」
三者三様の言葉を送られたが、納得のいく事が返ってこなかった。
昴は、俺の着替えを持つとリビングから出て行った。
ちょっと待て!
俺が追いかけると、昴は洗面所に向かい、そこにあった洗濯機の中に俺の服を入れるとスタートボタンを押しやがった。すぐさま、俺の服には洗濯水がかけられびしょ濡れにされた。
つまり、俺は、この女装姿で外に出ないといけないわけだ。鬼かこいつら。
「さー、お姫様?その格好でお出かけになりますか?」
昴は、戯けた様にそう言ってきたが、冗談じゃない。
後ろには、紫も立ち塞がり、妖しく笑っている。
約束の時間まで、それ程猶予がない。
しかし、この格好で彼女に会って、愛想を尽かされないか?
もし、これでフラれでもしたら、俺は立ち直れないぞ。
こいつらは、どうしてここまでの事をするんだ?
もしかて、、、
「まさかだけど、、、」
二人から、息を飲む声が聞こえてきた。
今の反応で、確信に変わった。
「二人の気持ちに、気づいてやれずごめんな。お前達そんなふうに思ってたなんて気づかなくて」
「やっと、わかった」
「やっと、スタートラインに立てるんだね」
「まさか、二人ともそんなに百合さんが好きなんだなんて知らなかったよ。俺も気がついてやれずごめんな?」
「「はあ、、、死ねばいいのに」」
その声を聞いた後、また意識がなくなりました。
♡♥︎♡♥︎♡♥︎♡♥︎♡♥︎♡♥︎♡♥︎♡♥︎
「こいつ馬鹿なんじゃないの?」
「だよね?鈍感じゃないって言って奴ほど鈍感なんだよね」
「「期待して損した」」
二人してガックリしていると、母さんがゆっくりこちに向かってきた。
「大きな音がしたから何かと思ったら、また、夏巳くんに痛いことしたの?そんな事ばかりしているから、思いが伝わらないじゃないの?」
母さんの言葉により、私達二人はその場に崩れ落ちるのだった。
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