第17話

 原稿用紙30枚。

 一枚400文字だとしても30枚。

 400×30だから、12000文字。

 単純計算でも、かなりの文字数になる。

 これが書けないと、新刊は一生読めない(買い直せばいい等の野暮な事は言うな)事になる。

 確かに、作文等の文字数を埋める作業は得意だ。

 文字数の把握、述べたい事を起承転結に纏めればいいだけの話。

 それを、どれだけ読み応えのある文に作れるかが肝となる。

 のだが、肝心な事を思い出して欲しい。

 俺は、現在、期末試験勉強中の身である。

 それに、反省文を書く作業を増やすのは、成績の低下に繋がる。

 そうすると、折角、認めてもらえた今の生活を無くす結果になると知りながら、反省文を書くのは愚行中の愚行であって、本末転倒である。

 一時の感情に流され、視界を曇らせ事は、その後の未来を失う事になるは、これまで読んできた書籍に随所に描写されていた。

 長々と語ったが、言いたい事は一つ。

 本を返して下さい。お願いします。

 そう言って、土下座をする高校1年生、天堂夏巳。

 そして、それをゴミを見るような目で睨み付ける女教師、猩々夜々先生。


「いや、罰則は伝えた筈だけど?何?不満なの?期末試験近いんだから、後にしてくれない?」

「そこをどうにかお願いします!」

「はあー。別に返しても良いけど、お前、それじゃあ勉強しないだろ?学校サボって本屋行くような馬鹿だし。ただでさえ文系以外は、パッとしない成績なのに。このままだと、夏休み補習漬けになるぞ?」


 痛い所ばかり突いてくる。口は悪いし、性格も悪い。

 こういう、心根の悪い所が後々、婚期を逃すきっかけになるんだ。絶対そうだ。間違いない。


「人の内面ディスる前に、テメェの学力を上げろボケ。口に出してなければ、大丈夫とか寝坊けたこと言ってるケツの穴に手を突っ込んで奥歯ガタガタ言わせんぞ!」

「いや、口悪すぎだろ!というより、何で、そんなにピンポイントで心の声分かんだよ!怖すぎですよ!」


 怖!マジで怖!

 もう、占い師かエスパーの領域だよ!


「わかりました!期末試験後にちゃんと返して下さいよ!どうせ中身見られたんで言いますけど、今回買った中で、親指姫先生の『幼馴染みの妹vs姉の勝利者は、通りかかった美人教師だった件』は中々の、名作になる筈ので、絶対に汚したりしないで下さいよ!」


 俺は、泣きながら生徒指導室を後にする事にした。

 ぶっちゃけ、このままだと俺の心は折れてしまうからだ。

 というより、もう、涙目である。

 逃げ出す事に意識が向いてしまったことで、先生が小声で何かを言っていたのだが、それを聞き逃してしまった。

 後々、もっと早く気づけていればよかったのにと思うんだけど、この時の俺は、、、ダメダメだった。


 ♡♥︎♡♥︎♡♥︎♡♥︎♡♥︎♡♥︎♡♥︎♡♥︎


「普通言うか、面と向かって」


 私のその声は、彼には届かなかった。

 私の作品を褒めてくれたのに、しかも名作とまで言ってくれたのに、泣かしてしまった。

 というより、豆腐メンタルなアイツが悪いし、何なら悪口(声には出していない)を言ったアイツが悪いんだ。

 私は悪くない。悪くは無いけど、少しは、優しくしてやってもいいかな?

 何というか、私もチョロいよな。

 こんな、小さな賛辞に心を動かされるんだから。

 あっ、そうだ!私のサイン書いてやろう!

 サイン会とか面倒だけど、教え子の一人にするくらいだったらいいか。

 でも、サインってどう書けばいいんだろ?

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