第16話

重役出勤って、いい言葉だなって今日程思った事はない。

生まれて16年、遅刻をした事の無い俺は、絶賛パニック中である。

常なら、隣の家の幼馴染みが朝起こしに来てくれるラノベ主人公みたいな生活をしているのだが、例の事件で三人から少し距離を取られてしまいこのザマである。

情けねぇ。高校生になっても、未だに起こして貰えないと起きれないとか、本当に情けない。

本当に、高校生か俺。

それに、懸念している事がある。それは、我がクラスの担任、猩々先生である、『怠惰な姫(暴君)』の怒りメーターだ。

先生は、クラス担任と生活指導を兼任しており、服装、生活習慣、勉強態度に凄く厳しい先生らしい。

何でも、生活指導室から出てきた生徒達は、皆、泣いていたという噂を聞いたのだ。

その後、先生の指導を受けた者は、遅刻をしていないらしい。

本当か嘘かは分からないが、とてつもなく厳しい指導が待っているっという噂に恐怖しか無い。

普段から、物騒な言動の教師である。

何があっても、おかしく、、、ない、、、。

幼児体型でも、女教師。言葉使いは汚いが、美人女教師。

いやいや、俺には百合さんがいるんだぞ!

昴の件で、かなりの誤解(個人的には)を与えてしまったのだ。

これ以上、彼女にそんな心配をかけないように頑張らないといけない。

それはそれとして、現在、校門前。

女鬼がそこに立っていた。

はあはあ。ちなみに、この息使いは興奮ではなく、走った事によって息を切らした結果である。

決して、性的に興奮した訳ではないことをご了承下さい。

それに、俺にはマゾの気は無い。

はあはあ、はあはあ。マジでお腹痛い。


「走ったか?天堂?額の汗を見るに、校門からさほど遠く無い所から全力疾走した程度の汗のようだが?ここから、お前の家は徒歩約30分程。そこから、走って来たにしては、ちと、遅過ぎないか?」


現在、午前の授業が終わったばかりの時間で、つまり、昼休憩である。

当然、軽い寝坊をしただけなら、遅くても2限には登校してこないとおかしい。

残念なことに、ただ寝坊した訳ではないのだ。

急げば、2限には間に合う。

だが、見てしまったのだ、新刊のニュースを。

百合先生のとは別に、親指姫という小説家の新刊が本日販売という文字に踊らされ、登校途中で、木葉書店に向かってしまったのだ。

無事新刊を見つけたのだが、書店に入ると1時間は外に出ない俺である。

右往左往しながら、結局パニクった俺は書店で1時間以上入り浸り、大遅刻で登校して来たのだ。

なんなら、両手に、新刊の本を両手のビニール袋でぶら下げているのだ。

完全に舐めた状態である。


「で、その袋は?昼飯って訳じゃ無さそうだが?てか、それ、本だよな?」

「すみませんでした!欲望に負けてしまいました!どうせ遅刻するならと思い、本屋に向かいました!」

「素直に話せばいいって、訳じゃねえんだぞ!馬鹿が!問答無用の生活指導室送りだ!さっさと付いて来い!」


俺と身長があまり変わらない、猩々先生は襟足を掴みずるずると俺を引きずりながら、校舎へと向かい始めた。



生活指導室に入ってまずした事は、手に下げていたビニール袋の中身の開示だった。

中には、ライトノベルが7冊、一般書籍が3冊の合計10冊だ。

ライトノベルの中には、親指姫先生の新刊『幼馴染みの妹vs姉の勝利者は、通りかかった美人教師だった件』という、幼馴染み姉妹が取り合いをしていた主人公が、美人教師に取られると言う話のラブコメだ。

この話の肝は、幼馴染み姉妹が自分を取り合い喧嘩を始め所に、校内でも有名な美人教師が「私と付き合う事にしてしまえば、喧嘩は収まるはず」っと言う言葉に乗り、教師と付き合う事になるのだが、実はその教師も主人公に好意を寄せていたって話だ。

他にも、話題の書籍が9冊ほどある。

期末試験間近で、買ってしまった。


「お前の文系の成績がいい事は、中間の成績を見れば分かる。書籍を読み、心情をよく読む癖をつける事で、成績向上に繋がるのも分かる。が、それが、遅刻をしていい理由にはならんぞ」

「はい。反省しています」

「私だってな、こんな面倒なのはやりたくないんだ。私だって、やる事が、、、」


書籍を見ながら説教していた先生が、ある一点で視線が止まった。

そのまま、俺をキツく睨みつけてきた。


「お前、、、いや、その目は、、、そうか」


何かを納得したように先生が頷いた。

何を考えているか分からないから、より一層怖い。

そんなに、罰則がキツいやつなのかな?

それだけは、勘弁なんだけど。


「とりあえず、小説好きの天堂には、短編小説分の原稿用紙30枚。反省文で今回は不問にする。尚、この文庫10冊は反省文との交換だ。以上、さっさと出て行け」


襟首を掴まれたかと思うと、指導室の外に放り出された。

俺の本ーーーーー!(号泣)


♡♥︎♡♥︎♡♥︎♡♥︎♡♥︎♡♥︎♡♥︎♡


アイツのあの目を見るにまだ、バレていないはず。

ボロを出さなければ、大丈夫。

はあー、ババアに教師やれって言われ、無理矢理押し付けられただけでも面倒いのに、天堂め。

私にだって、本業があるんだぞ?

まあ、知られないように隠してやっているんだけどさー。

アイツには、要注意だな。気をつけよ。

はあー。ダルい。

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