第4話
どうして、先生は、俺の部屋にいるんだろう。
しかも、なんで俺のワイシャツを着ているんだろう。
「せ、センセイ?ナンデ、オレノヲキテイルンデスカ?」
日本人なんのに、何でこんな片言になってんだよ俺!緊張し過ぎだろ!
「えっえーと、部屋が、わからなくて、取り敢えず入った部屋に入って、ハンガーに掛かっていたワイシャツを拝借したのですけど、、、その、胸の辺りのサイズが、合わななくて」
本当だ、俺のワイシャツが結構限界まで引き伸ばされてる。これはもう、着れないな。
「えっ、えーと、部屋案内しますね。一応、この部屋の向かいの部屋ですね」
「本当にすみません!」
「だ、大丈夫ですよ!」
取り敢えず、明日にでも新しいワイシャツ買うか。
先生を部屋に案内した後は、外で待機です。
着替えを覗かない為ってのもあるけど、タンスの中には、幼馴染の
部屋の中で、女性が着替えてるって思うと、なんか気恥ずかしい感じがするな。
ガチャ。
「あの、お、お待たせしました。あ、あまり、その胸の方は、あまり見ないようにお願いします。付けていないので」
付けてないって何を!?
黒色の無地のTシャツに藍色のスキニージーンズだった。
なんか、元が可愛いらしいと何着ても様になるって、本当羨ましいな。
俺なんて、何着ても普通なのに。
「あの、似合っていませんでしょうか?」
「え!いや、その、似合ってますよ、、、」
沈黙が一番きついなー。
「あっ、そうだ。先生、さっき着ていた服は洗濯機に入れて、乾燥って掛けていいんですね?」
「えーと、出来れば手洗いの方が良いですね。型くずれしてしまうので」
、、、、って、俺はなんてこと聞いてんだよ!先生にそのまま持って帰ってもらえば良いじゃん!
「あ、えーと、そのまま、持って帰った方が良さそうですね?」
「そっそうですね!」
あははは。うふふふふ。
、、、、、また、沈黙。
「そういえば、先生が寝てる間に、『終わりのない、トンネル』読みましたよ!今回も面白かったですよ!」
「そうなんですか!?ありがとうございます!」
出会って、数時間の間柄でも、この、笑顔が一番好きだな。
「暗い所が苦手な主人公が絶望して、どんどん暗くなっていくんですけど、その後現れた人達が、主人公の心の氷を溶かして行って、最後には、幸せにる所がとても好きです!」
「よっかたです」
、、、、、そして、また沈黙かー。
でも、先生が緊張した表情から、少し嬉しそうな照れくさそうなそんな表情がとても可愛く見えてた。
と、思っていたら、どんどん暗くなってきたな。
「どうしたんですか?」
「次回作が、書けないんです。今回も思ったようには出来なくて。私なんかが、スランプとかおこがましいのは重々承知してますけど」
うーん、先生って何でこんなに自分に自信を持てないんだろう。
ストーリーの内容や展開は独特で、人によって選り好みするかもしれないけど。
でも、好きな人には特別な作品だと思うだけどな。
「先生、俺個人の意見を言わせてもらうと、人によって物語の見方はそれぞれだと思うんですよ。一見、テンプレな内容のストーリーでもその人の個性を感じられる作品って、やっぱそれだけで特別に見えると思いますよ。だから、先生は自分の作品に自信を持っていいんですよ?」
「私の個性?」
「そうですよ。他の人にとっては数百数千の中の一冊の小説かもしれません。でも、俺の中では特別で大切な中の一冊なんです」
先生の大きな瞳の端から小さな雫が溢れ落ちた。
雫は頬を伝い、床に落ちていった。
俺は何か、おかしなこと言ってしまったかな。
先生が泣き始めてしまった。
俺はどうしたら、良いのか分からず右往左往することしかできなくなった。
俺は、どうして、こういう時に相手の気持ちを分かることができないんだろう。
昔、紫にもやってしまったんだよな。
あの時、何って言ったのかは覚えていないけど、それでも涙の止まらない彼女を、小さな女の子を泣かせてしまったのに、俺はどうす事も出来なかった。
また、今回も何も出来ないのか?
そう言えば、あの時、雪咲さんが紫のことを抱きしめてたような。
そしたら泣き止んだし。
女の子って、そうしたら泣き止むもんなのかな?
取り敢えず、抱きしめてみるか。
そう思った俺は、ユリ先生を優しく抱きしめた。
すると、彼女は俺の胸に顔を埋め、さっきよりも強く泣き始めてた。
あれ?これって逆効果だったのか?
それにしては、腰回りをガッチリホールドされて、離れなれないんだけど。
まあ、このまま少し様子をみるか。
それから、数分後、目の周りを赤く腫らした先生のが下から俺を見上げてきた。
思わず、そんな先生を"可愛い"っと思ってしまった。
年上の、それも憧れだった作家の先生に。
「胸を貸して頂きありがとうございます。私も、少し自分の作品に自信を持つことができました。いつも、誹謗中傷を受けていて、どんな作品が受け入れられのだろうか考えて考えて作って、いつしか、私は何を書いているのかわからなくてなってしまったんですよ」
先生の暗い部分の話たな。
どんなに頑張って、万人に受け入れられる作品を作ろうって頑張っていたら、立ち位置が分からなくなってしまったのだろう。
「だから、今回はトンネルの話を作ったのです。私は、暗い暗いトンネルの中で一人ぼっちなのだと思い、答えの見えない暗い世界で一人なだと。でも、
目の周りは赤く腫れて、いたけどそれでもその表情にドキッとしてしまった。
これが、俺の初恋なのかな?
「これからも、私のことよろしくお願いしますね(彼氏彼女として)」
「そうですね(先生の作品が好きなファンとして)」
この気持ちは、バレないようにしよう。
俺なんかに、好かれても先生も嬉しくないだろうしな。
この、笑顔がずっと続くと良いな。
*
(あわわわわわ!夏巳君の胸であんなに泣いてしまうなんて!)
あの後、朝方まで夏巳君の家でお泊りしました。
その後、夏巳君に私のアパートまで送ってもらい、私の部屋。←これが今の状況です。
(でも、そんなことはどうでもいいのです!)
問題は、付き合い始めたばかりの日に彼氏の家にお泊りし、あまつさえ、その彼の胸で泣きじゃくる姿を、醜態を晒してしまったと言う事実!
「嗚呼ー!どうして、あんなことをしてしまったですか私はーーー!」
また今度、夏巳君の家にお邪魔する時は何か菓子折りでも持って行こう。
って、今着ている服って、夏巳君の家にあった服じゃない!
早く、クリーニング屋さんに行って返しに行かないと!
『不在着信ガ三件ゴザイマス』
固定電話の方から、音がしたので、覗き見て、不在着信を開くと、、、
『一件メ。ユリ先生?気を落としてしまったかもしれませんけど、次がありますよ!だから自信を持ってください!』
『二件メ。ユリ先生?現実逃避したい気持ちもわかりますけど、新しい作品書きましょ?』
『三件メ。そろそろ、プロットくらい書きましたよね?』
透き通るような、女性の声が固定電話から、流れてきた。
、、、、、担当編集者です。
しかも日付を見ると、私が出かけた後からの五時間毎に入ってる。
そう言えば、昨日、打ち合わせの日だったような、、、、。
これはやってしっまたようね。
取り敢えず、今日は、この幸せな気持ちのまま寝よう。まだ、昼下がりだけど。
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