第2話
*
私は、物心ついた時から小説が好きでした。
物語に出てくるキャラクター達の動きや、話の流れ、そう言ったものが好きで読んでいました。
高校に上がった時には、自分で小説を書いて読んでいたりしていたのですが、小説大賞の記事をたまたま見て、原稿を送って見たところ、受賞してしまいました。
それが、私のーー
流石に、本として売られるのに本名は恥ずかしかったので、慌てて『ユリ』って名前にしてもらいました。まあ、あまり変わっていませんがね。
そして、今回で十作目の小説が販売されたのですが、ネットではあまりいい評判を聴きません。
なので、変装をして本屋に向かったのです。
直接、私の作品の評価を聴きたくて。
ですが、着てから気づきました。
五月とは言え、立派な夏です。かなり熱いです!
なので、普段あまり着ない、キャミソールを着て、その上にトレンチコートを着込みました。
すごく恥ずかしいです。ですが、変装をしているので、誰にも私だと気づかれないでしょう!完璧です!
っと、思って、本屋に行き、
これが、あの時の一連のあらましです。
今でも、変装しようと思った私を殴りたい気持ちは変わりません。
あんな、余計なことをしなければ、もっと普通に出会えていたのに。
時間は現在に戻ります。
夏巳君の告白を聴き、夏巳君の幼馴染の
私は、生まれて初めての告白を聴き、それどころではありませんでした。
とても、心がポワポワしてます。
これが、嬉しいって気持ちなんですね!小説の参考になります!
頬の緩みが止まりません。
夏巳君は、しばらく早乙女さんの出て行った方向を見ていましたけど、手に持ってる箱を見て、部屋を出ていってしまいました。
今の内に、呼吸を整えねばなりません!
心臓が、バクバクの早鐘のようになって、このままでは確実に夏巳くに聞かれてしまいます!
スーハー、スーハー。深呼吸は、大事です。空気美味しい。
そうこうしてる内に、夏巳君が帰ってきました。
その手にはお盆があり、紅茶のお代わりと皿の上に乗ったロールケーキが来ました!
「わあぁぁ!美味しそうな、ロールケーキですね!」
「先生も、スイーツ好きなんですか?」
「はい!大好きです!甘いものには、目がありません!」
「じゃあ、食べましょうか?」
「はい!」
あー、幸せ。なんて美味しいでしょ。
「このロールケーキは、どこのお店で買えるのですか!?」
「?あっ、そうか。言ってませんでしたね。さっき来た幼馴染の
えー、高校生で、こんな美味しいケーキを作れるのですか!?
夏巳君も、こんな美味しく紅茶を淹れられるのに。
今時の若者は、家事ができないといけないんですね!?
「はい、とても美味しいです」
家事全般が大の苦手な二十五歳の私です。どうぞゴミのと罵ってください。
私が、心の中でシクシクと泣いていると。
「紫は、小さい時からパティシエールになるって言う夢があるんです!ユリ先生も、今の俺くらいの時に夢を叶えてるって思うと、俺も何か本気になれる物を探さないって思います!」
あー、眩しいです!
こんなキラキラした目の夏巳君は、とってもカッコいいです!
私の彼氏さんは、世界一カッコいいのでは、ないでしょうか!
「ゆ、ユリ先生?また顔赤くなってますけど?だ、大丈夫ですか?ちょっと大丈夫ですか!?ゆーーーーせーーー!?ーーーー!?」
その時、私は気絶してしまいました。
*
はー、どうしたもんなかな?
トレンチコートがはだけて、薄いキャミソール姿が露わになったユリ先生。
コレは、女性的に見られたらアウトな格好だよな。気絶してるとは言え。
しょうがない。取り敢えず、三階の客間のベットにでも寝かせるか。
先生の背中と膝の裏辺りに腕を入れ持ち上げて見た。所謂、お姫様抱っこだ。
それにしても、かなり軽いな。
それに寝顔もすごく可愛いくて、なんか緊張してきた。
階段使うのも良いけど、このままだと俺の理性もやばそうだし、たまにしか使ってないエレベーターでも使うか。
前にも言った通り、ウチの家は根っからの読書好きで、本棚や本を大量に買うことが頻繁にある。
それも家のワンフロアー全部を使うくらいに。
二階は、主に書斎となっている。
窓が少なく、あまり日光とかを浴びて本が傷まないようにという配慮がされている。
なので二階にいると、平気で時間の感覚が無くなってしまうのだ。
はー、天国だ。
暗い所でも読めるように、デスクライト付きのテーブルは三つあり、それに腰掛けながら読むのは、至福の時である。
って、そんな話ではなかった。
三階には六部屋あり、内二部屋は俺と両親の寝室である。残り四部屋は客室になっていて、親戚からもらった家具とかをそれぞれの部屋に適当に配置してあるのだ。
なので急な客が来ても、快適に過ごせるのだ。
まあ、客なんてあんまし来ないけどな。
昔はよく紫が泊まりに来てたくらいかな?後は、従兄弟のアイツくらいか。
最近あんまし顔見てないけど。
取り敢えずそんな四部屋もある内の一部屋にユリ先生を寝かせることにした。
「し、しめ、締め切りは、ちゃ、ちゃんと守りますので、、、ど、どうかー」
何かにうなされてるみたいだな。
締め切りって言ってるし、担当さんとかかな?
俺は懐から、今日買って来た新刊を取り出した。
ユリ先生が、起きたら直接感想を言ってあげよう。
ベットライトをつけ、ユリ先生が寝ているベットの傍らに椅子を持ってきて読み始めた。
『終わりのわからない、トンネル』それが、新刊の題名だった。
主人公が昔、親の車で長い長いトンネルに入り、暗くて怖い所が苦手になったっていう話から始まった。
でも、それは人生も同じだと主人公は気づき、どんどんやさぐれて行き、絶望していった。
そんな主人公を、影ながら見守る人の存在が絶望して氷付いてしまった主人公の心を溶かして行く話だった。
この影ながら、見守ってる人がすごく健気で、読みながら涙が出てきた。
人によっては陳腐で、在り来たりな作品なのかもしれないけど、俺にとっては心に響く良い作品である。
「っん、、、みたことのない、、、てんじょう?、、、こ、こ、、は、どこでしょう」
ユリ先生が、目を覚ましたみたいだな。
「ユリ先生?目が覚めましたか?」
「!?っひー!お、男の子!って、な夏巳?君?さっきのは、夢じゃない?現実?」
「どうしたんですか?気絶した時に、頭でも打ちましたか?大丈夫ですか?」
ぼーとした、ユリ先生は、そのまま慌てたかと思うと今度は赤くなったりしてるけど、本当に大丈夫なんだろうか?
でも、すごい首が外れるかもしれない勢いで、首を縦に振っているし、だ、大丈夫だよな。
ユリ先生の視線が、ある一点に釘付けになっていた。
それは、ハンガーに掛けられたトレンチコートである。
流石に、今の季節にこんなものを着ながらベットに入ったら、熱にやられること間違いなしなので、ユリ先生は薄いキャミソール一枚しか着ていません。
同然それに気づいた、先生の顔がみるみる内に赤くなり、今度は蒼白になり始めた。
「私は、一体どこまでやってしまったのでしょうか?いくら、初めての彼氏さんだからといって最後までやってしまったのでしょうか?だとしたら、夏巳君に軽薄な女だと勘違いされ見捨てられるのでしょうか?」
なんか、小声で何かを言っているが、いかんせん小さい過ぎで、所々しか聞き取れない。
「それよりも、ユリ先生。この部屋、紫がたまに使っているので、着替えとかもありますし、汗をかいているのでしたら、この部屋の隣にシャワールームがありますよ?」
俺の言葉通じたのか、ユリ先生は僕の方にダラダラと汗をかきながら質問をして来た。
「まだ、私達は清いままですよね!」
「え?まあ、多分。でもユリ先生は、少し汚れいる(半日は過ごしたので、女性的には)かもしれないので、シャワー浴びてきたらどうですか?」
「よ、汚れ(初体験は終わっ)ているんですね、、、」
なんか、ユリ先生の目が遠くをみているんだけど、大丈夫だったかな?
それとも、汚れているっていい方が悪かったのかもしれないな。
「ゆ、ユリ先生は、綺麗ですよ!」←フォローしたつもり。
「!?ん!?⁇!?ん!!」
最早言葉にすらなっていない。
「シャワー、お借りします」
ユリ先生は、それだけを言い残しシャワールームへと去っていった。
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