俺は、鈍感系主人公じゃない!(仮

日ノ本 ナカ

第1話


 どうして、こんな感じになったんだ?

 リビングには、ソファーに座る真っ赤な顔をした小柄な少女と、俺の隣に立つ青い顔をした長身の少女の三人だ。

 現状を理解しようと頭を働かせて、考え始めた。


 そう、事の発端は、正午を少し過ぎた。頃だった。

 何気なく立ち寄った本屋で、少女というか女性に出会った所から始まる。



 …



 俺は、都立の高校に通う高校生である。

 ある日、突然異能に目覚めたっと言った、ラノベあるあるな展開は勿論なく、高校生兼小説家という感じでもない。

 勿論、姉妹もいなければ彼女もいない。

 本当に、普通の高校生なのである。

 そんな俺の名前は、天堂てんどう 夏巳なつみである。

 俺が産まれたのが、巳年の夏だからだそうだ。だからって、女っぽい名前にするなよな。

 ただでさえ、男の平均身長より十センチくらい低い百六十センチなんだからさ!

 そんな俺は、いつも通りの日課で、本屋に来て小説を物色していた。

 いつもの事なので、目的のコーナーに向かい新刊を見てはニヤニヤしていた。

 はーーーーー。二カ月、長かったな。もう、次巻が出ないじゃないかとヒヤヒヤしたぞ。この作者の文法は物凄く好きで、どんなジャンルでも必ず買っているのだ。

 独特なストーリー展開や言い回し、主人公とヒロインの絡みなど、それだけでニヤニヤがとまらないのだから、依存と言っても過言ではないだろう!

 楽しみだなー!

 そんな感じで、新刊を胸に抱えレジに向かおうとした時、トレンチコートにサングラス、帽子、マスクと五月中旬なのに暑苦しそうな、もっと言えば不審者のような人が俺を、俺の持っている小説を凝視していた。

 背丈は、俺より小柄で、何処か女性らしいフォルムである。

 そう感じたのは、胸囲の部分に膨らみを感じたからである。

 勿論、彼女などいなかった俺には女性の知り合いなどいないので不審者には心当たりがない。

 不審者も、俺と言うよりは小説の方に視線が行ってたので、俺にはなのんの興味もないのだろう。

 そう思っていると、不審者は意を決したように俺の方へと歩き始めた。

 何事だ?っと思っていると、不審者は俺の目の前までやってきた。


「そ、その、その小説を、か、買われるのですか?」


 思ったよりも、可愛らしい声にドッキっとしたが、見た目にによってすぐに消え失せた。


「はい、好きな作者の新刊なので」


 俺が、とりあえず返事をすると不審者は、驚いたようにワタワタとし始めた。

 見た目も相まって、すごく怪しい不審者の出来上がりである。

 取り敢えず、そっとしておくか。

 不審者は、ワタワタしていたかと思うと、頭から湯気みたいなのを出して止まってしまった。

 なので、そーっと気づかれないように、俺はレジへと向かい会計を済ませて、その場を後にしようとした。のだが、、、

 我に返った不審者は、俺の元へと走ってきた。

 何故か分からず、俺も逃げるようにその場から走り出した。

 何で追いかけてくるんだよ!

 本屋から出て、交差点を走り抜けると、近所の公園たどり着いた。

 ここまで、全力で走ってきたので、息が切れ切れである。

 呼吸が上手く出来ず、ベンチにもたれかかるように座っていると、さっきの不審者が俺の元へと走って来た。

 俺の手前まで来たかと思うと、小石に躓いてその場に倒れた。しかも、顔から。


「だ、大丈夫ですか?」


 いくら不審者でも、これは如何なものでしょう。


「う、うぅぅぅ。い、痛い」


 不審者は、転んだ拍子に帽子とサングラスが落ちて、涙目の顔があらわになっていた。

 さ、流石にこれは、可哀想になってきたな。

 とりあえず、俺の家までダッシュして、救急箱を持って不審者の所に戻ってきた。

 とりあえずベンチに座らせ、手当を始める事にした。

 頬の擦り傷と両膝を擦り剥いただけみたいだな。

 脱脂綿に消毒液を少し含ませて、頬の擦り傷を拭ってあげ、傷跡が残らないように、高めの絆創膏を貼ってあげた。

 これは、傷跡が綺麗に消える優れ物である。仮にも女の子?なのだから、残ったら大変だろう。

 両膝の擦り剥いた所にも同じように、処置をしたのだが、こちらを治療している最中、終始トレンチコートの裾をひたすら伸ばし中が見えないようにしていた。

 こんなに、丁寧に治療しているのに、すごい警戒心だな。


「二、三日したら、綺麗に傷跡が消えると思うよ」


 そう言うと、彼女は、頭縦にブンブン振りだした。


「あ、ありがとう、ございます」


 小声で聞き取りずらいけど、感謝している気持ちは、伝わったので、まあいいだろう。

 そう思って、その場を後にしようとすると、彼女は、ワイシャツの裾を摘み、引き止めてきた。

 なんだろう?、、、って、そうだ!この人さっきまで俺を追いかけてきた、不審者だった。

 そう思って、冷や汗をかいていると、彼女は口を開いた。


「わ、私の、『』の本が好きって、ほ、本当なのですか?」


 私?『ユリ』?

 ユリと言えば、俺がさっき買った新刊の作者である。勿論ファンであるけど、、、え?えええぇぇぇぇぇっ!?


「えっ!?ほ、本当に『ユリ』先生何ですか!?」


 そう言うと、彼女ーーユリは、黒曜石のように綺麗に光る瞳にジワッと涙を溜め始めた。

 すると、何を思ったのか、俺に抱きついてきた。

 ふにょんふにょん。

 俺が、生涯感じたことない柔らかい感触が胸の辺りに押し付けられた。や、柔らかい。じゃ、じゃなくて!?


「おっ、おおおお落ち着いてください!?」


 ユリは聴こえていないのか、離れようとしなかった。

 そうこうしていると、トレンチコートのボタンが外れ、正面が開いた。

 すると、薄いピンクのキャミソールがあらわになった。

 俺は、思わず、鼻血が出てしまった。

 その表情を見て、ユリは、我に返った見たいだった。

 最初は、鼻血を出した俺を介抱しようとしていたが、トレンチコートの前が開いている事に気づきその場にしゃがみ込んだ。


「す、すいません!!で、でも、わざとじゃないんです!!」

「わ、わかっています!お見苦しい物を見せてしまい、申し訳ありません!!」


 何を混乱したのかわからないけど、お見苦しいなんて事はない。とても綺麗だった。って何を考えているんだ俺は!?

 そんなこんなで、お互い口を噤んでしまう。

 は、恥ずかしい!って、彼女の方が恥ずかしいだろうに。


「と、取り敢えず、俺の家に来ます?」

「は、はい」


 消え入りそうな声で彼女はそう言うと、俺の後に付いてきた。


「た、ただいまー」

「お、お邪魔します」


 お互い緊張しながら、リビングに入った。

 俺の家は三階建ての一軒家である。

 一階は、リビングとキッチン、風呂場、トイレ。

 二階は、ほぼ書斎である。俺も両親も本がとにかく好きなので、本棚が全て埋め尽くしている。小さな本屋と比べると家の方が多い程度くらいはある。

 三階は、各自の部屋と客室がある。

 と言っても家は、三人暮らしなので客室は、二つほどある。もっと言えば両親は、今イギリスにいるので、この大きな家には

 だ、じゃねぇよ!?

 ファンである作家とは言え、女性を家に上がらせるとか何を考えてるだよ俺は!?

 俺は、現状に気づき慌て始めた。

 と、取り敢えず、お茶を出さないと!

 キッチに向かい、客用のティーカップと自分用のやつを取り出し、紅茶を入れてリビングに戻った。

 ユリは、革張りのソファーに座っていたかと思うと、いきなり飛び跳ね出した。

 まあ、家のソファーて、ふかふかだから、やりたい気持ちもわかるけどね。

 そんな子供っぽい所を見て、和んでいると、こちらに気づいたユリは、顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「はう、二十五歳にもなって、は、恥ずかしいでよね?」

「え?二十五歳?」


 思わず聞いてしまった。

 え?だって、こんなに可愛らしい容姿をして、これで、二十五歳なの?しかも、すごい童顔なのに。


「そ、そうですよね。二十五歳に見えないですよね。もっとおばさんに見えますよね。すいません」


 何を思ったのか、ユリはそう言って落ち込み始めた。

 なんか、喜怒哀楽が顔に出すぎたな。って、そんなこと思ってる場合じゃないな。訂正しないと。


「あっ、いや、そうじゃなくて!同い年くらいに思えたのでつい。それぐらい、可愛く見えたので、、、」


 言ってる途中で、恥ずかしくなってきた!

 ほら、ユリ先生だって、めっちゃ恥ずかしいそうになってんじゃん!


「そ、そんなこと、言われると、嬉しいじゃないですか!!ありがとうございます!」


 なんか、すごい喜ばれた。


「あ、えーと、粗茶ですけどどうぞ」

「ありがとうございます。お構いなく」


 それから数分、二人無言でお茶を飲み始めた。時折、「美味しい」や、「熱っ」っと言う可愛いらしい声が聴こえてきてすごく和む。


「あっ、そうだ。本当にユリ先生なんですよね?俺、天堂 夏巳って言います!五年くらい前に、先生のデビュー作を読んで以来ずっとファンだったんですよ!」


 デビュー作というのは、『月から来た私に、優しくしてくれたあなたへ』という題名の小説である。

 内容は、十八歳の青年と謎の少女出会う所から始まる。

 少女はボロボロの姿で道端に倒れていて、行き交う人達は、それを見て見ぬふりをしていた。まるで最初から、そこに人がいないようなそんな感じである。

 たまたま通り掛かった青年が、自分のアパートに連れ行き、手当を始めた。冷え切った少女には、それだけでも暖かい気持ちになり、それから二人が惹かれ合って行き、、、って言う恋愛物語である。

 確か、ラストは少女と青年が月に向かって終わった。

 どことなく、拙い感じがするのに、何故かその世界のめり込むような、そんな感じのストーリーだった。


「お恥ずかしい文章で、すいません!でも、君にお世辞でもそんなこと言ってもらえて嬉しいです」


 どこまでもネガティブだな、この人。


「自分の作った作品何ですから、もっと自信を持ってくださいよ。先生」


 ついつい、諭すような感じで言ってしまった。ファンの先生に。


「天堂くん。あっ、ありがとうございます」

 また、ユリ先生は、顔を赤らめていた。

 意を決したように、ユリが口を開けた瞬間、ピンポーンという、チャイムが鳴った。


「ん?誰だろう?先生、ちょっと待って下さいね?」


 そう言って、リビングを出てから玄関に向かい、ドアを開けると。夕陽の光を浴び、黄金に煌めく金髪に、アイスブルーの瞳を持った長身の少女が白い箱を右手に持ち立っていた。

 少女ーー早乙女さおとめ ゆかりは、日本人とフランス人のクオーターで四対一の割合で、血が混ざっているのだ。

 両親は、純日本人みたいな容姿なのに、彼女は、何故か先祖返りではないかと思うほど、フランス人の祖母に似たような容姿だ。

 文武両道、容姿端麗、品行方正、成績優秀に、さっき上げた容姿である。

 本当に絵に描いたように美少女なのである。

 何より、羨ましいのが、百七十センチもある身長だ。

 家がお隣同士の幼馴染なのだから、俺にも身長を分けてくれよっと、泣きたくなる。

 ちなみに、五年ほど前から両親がイギリスにいるので、俺の保護者代理もお隣さんの紫のお母さんーー早乙女 雪咲ゆささんが見てくれている。


「ナツー、ケーキ持って来たからお茶、淹れなさい」


 この見下ろされながらの上から目線というのが、非常に腹立たしい。

 いつか、絶対追い抜いてやる!


「いや、ありがたいけど、自分家で食えよ。こないだ、雪咲さんがお前のケーキ食いたいって泣いてたぞ?」


 そう言ってやると、


「別にいいでしょ?」


 っと、バッサリ切られた。


「早く、お茶を、、、」


 紫は、目線を下に向けて止まっていた。

 あー、先生の靴か。


「ああ、今、お客さんがいるんだよ」

「へっ、へー、女物っぽいけど?」

「ああ、女性だよ」


 そう言うと、ケーキの入った白い箱が、紫の手から滑り落ちたので、急いでキャチした。


「おいおい、食べ物を粗末にするなよな?」


 っと愚痴を言ったのだが、聴こえていないみたいだ。

 靴を脱いで、玄関に上がり込んでから、「お邪魔します」っと言いながらリビングのドアを開け始めた。

 いやいや、上がってから言うなよ。

 中から、「天堂君?」っと言う、俺と紫を勘違いした先生の声と、「あんた誰?」っと言う紫の声が聴こえてきた。

 俺は急いで、リビングに向かった。


「ユリ先生、こちらは、幼馴染の早乙女 紫です。紫、こちらは、俺の作家のユリ先生だ。」


「「だ、!?」」


 …


 って言うことがあり、回想終了である。

 振り返って見ても、全然分からん。

 大ファンの先生って言うことは、紫には前に言ったことあるので知っている筈だし。

 先生には、ファンだってことは伝えたし。何も間違ってないよな。

 先生は小声で、「相思相愛」とか、「名前で呼ばないといけないのかな?」っと何か呟いている。

 一方、紫の方は、血の気が引いたような青い顔で「そんな」とか、「私が素直をなれないから」と呟いてる。

「ねえ、ナツ?彼女とはいつから?」

 ん?先生とはいつから?

 それは、五年前に小説を読んでからだよな。


「いや、五年前(デビュー当時)だけど」


「そ、そんな前から、私を」っと、顔をますます赤くする先生。

「私は、そんな前から」っと、顔をますます青くする紫。

 どう言う反応だコレは?

 なんか、話しが噛み合って無いような気がするんだけどな。


「ケーキどうぞ」


 っと言って、紫はリビングを出て、そのまま帰ってしまった。


「どうしたんだ、あいつ?それより、お茶、新しいの淹れてきますね」


 紫の持ってきたケーキも一緒にキッチンに持っていき、葉を蒸らしている間に、お皿に取り分けてからお盆に乗せて、お茶と一緒にリビングに戻った。

 先生もなんか落ち着いたみたいだし、良かった良かった。

 今回、紫が作ってくれたケーキは、ロールケーキだった。

 焼き目が外側に向き、クリームが二層になっていた。一層目はカスタードで、二層目が生クリームと手の込んだ品だ。

 今日も美味しそうだな。

 何を隠そう、俺は無類のスイーツ好きで、お金の使い道が小説かスイーツの二択になるくらい好きなのだ。


「わあぁぁ!美味しそうな、ロールケーキですね!」


 っと、ユリもすごいテンションだ。


「先生も、スイーツ好きなんですか?」

「はい!大好きです!甘いものには、目がありません!」


 っと、食い気味に言われた。

 年上とは言え、ここまで素の可愛さが見られるのは嬉しいな。


「じゃあ、食べましょうか?」

「はい!」


 そんなこんなで、二人で紫のケーキを食べ始めた。


 *


「大好きな先生ってなんだよ!」


 私は、さっきのことを思い出し、枕を四、五発殴りました。

 枕の中心には、ナツの写真が貼られている。

 複製した五枚の内の一つなので、少しボロボロになってもーーーって、やり過ぎたー!

 瞳いっぱいに涙を溜め、私はベットの上でもがき苦しみました。

 そんなことをしていると、部屋の外からドアをノックして、中に入って来る者がいた。


「紫、どうしたの?ナツくんと何かあったの?」


 おっとりしたような声に二十代前半のような見た目の麗人が入って来た。

 どことなく、紫に似ている。母の雪咲だ。


「ナツくんだって悪気があるわけじゃ無いのよ?少し鈍感なだけだから、許してあげなさい?そして、早く、お母さんの息子にして」

「って、途中から何言ってんの!?てか、最後の何!?わ、私は別に、ナツのことが、す、好きな、わけじゃ、な、ないし!?勘違いしないでよね!?」

「本当に、ツンデレなんだから。そんなとこ、お父さん似ないで私に似れば良かったのに。そんなんじゃ、ナツくんわよ?」


 グサっ!


 ピンポイントで、急所を打ち抜かれた気分だ。

 確かに、私、早乙女 紫は、天堂 夏巳のことが好きだ。

 小さい頃に、たまたまお母さんと一緒に作ったケーキをナツが美味しそう食べて、「将来、お菓子屋さんになれば」って言われたからパティシエールを目指したくらいだから。相当好きなのだ。

 だが、何故か、本人にを目の前にすると足が竦み、どうしても本音を口に出すことができないのだ。

 彼には、ナツだけには嫌われたくないのに。


「紫も誤解を生みやすい言動をとるけど、ナツくんも、語弊を生みやすい言葉で話すから、勘違いしたんじゃないの?」


 そう言われると、何か引っかかる。

 五年前と言えば、ナツの両親がイギリスに渡った頃だ。

 というより、ナツも私も十歳じゃないか。

 そう言えば、確かナツは、すごい作家を見つけたと言っていた。確か先生だった。

 ユリ?確か、さっき紹介されたのもユリって名前の先生だった。

 てことは、大好きなっと言う意味ではなかろうか。

 あの野郎、紛らわしい言い方をするな!っと、さっきまでの醜態を思い出し、また悶絶することになった。


「何やら、解決したみたいね」


 っと言って母さんは出っていた。

 明日もう一回、ナツに問い正そう!

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