カンゲキ

笹師匠

傍観者の戯言

時代という名の劇の幕が降りる


この劇を振り返ってみたのだけれど


喜劇か悲劇か、それが分からない


多くの人が笑った 多くの人が泣いた


傷付いた人がいた 傷付けた人がいた


一頻り考えて、考えない様にした


非常に馬鹿らしい区切りなのである


何故に劇を区切って人を囃したのか


猿真似の間隙に意味があったのだろうか




思えば


この間隙に役者は【次】を用意している


無味たる劇の続編を拵えているのだ


『明日』という憶測の産物に


根拠の無い希望を見出したり


『未来』という不明瞭な存在に


身勝手な責任を感じたりして


今日も人々は偉そうにネクタイを締めるのだ




もし明日があるのならば


もし未来があるのならば


もしそこに希望があるのならば


もしあると証明出来るのならば


証明してからやり玉に上がれば良い


科学的根拠の無い事に


人は価値を付加しないのだろう?




ブザーは未だ鳴らない


観客は私1人だけ


現実とも幻とも取れるこの劇場に


役者はスーツ姿ばかりで


繰り広げられる群像劇の


何とつまらない事か!!


所詮綺麗事塗れのセリフを


無感情に述べ上げるだけの主役達


唯一感情のある私はそんな大根共を嗤う


けたたましい声で嘲笑う


酷く掠れた声で罵詈雑言を浴びせる


自らの身の程もよく理解もしないで


劇を捏造する役者を侮蔑するのだ




気が付けば私は舞台の上


何も出来ぬまま檜の板に乗っかって


棒立ちになって無感情に声を発する


先程までの役者は皆観客席にいて


三流の私を軽蔑しているではないか


私は恥のあまり自らの顔を毟って


どうしようもなくぐちゃぐちゃになった


そうして溶け出した黒い感情を掬い上げて


また彫塑して私を捏造する


私は劇の舞台装置の一部になって


無感情に無機質に


捏造劇に加担する罪人となるのだ


舞台は私には檻に感ぜられる


役者は、舞台装置は、観客は


檻にぶち込まれた囚人服達だ


脱獄は出来ない


逃げる【外】はこの監獄にはないからだ


そんな事を知りもしない哀れな囚人達は


獄中で滑稽に藻掻くのである


そう、これはどう転んでも悲劇


現実という、如何なる脚本をも超越した


世界そのものを捏造した原罪の悲劇だ




さて、劇の幕はまた上がる


観客が誰も来なくなろうとも


この劇は終わらない


全てが潰れ壊れても


転がり出した歯車はもう止まらない


歪にゆがんだそれは世界を軋ませて


元々間違った贋物を更におかしくしていく




ブザーが鳴り響く




ブザーが鳴り止んだ


劇は終劇へ向かって進み、永遠に終わらない

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カンゲキ 笹師匠 @snkudn

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