第2話 ルカの変身
五月九日木曜日。
高校生活も一ヶ月が過ぎ、登校ルートにもすっかり慣れた俺は、朝の惰眠を貪る割合が徐々に上がっていった。
今日もとっくに起きなくてはいけない時間なのに目覚ましを止めたまま布団にくるまっていると、
「おにーちゃーん! 朝だぞ! おーきーなーさ〜い!」
「……んあ? ああ……もうちょい……待ってくれ」
「駄目だよ〜。学校に遅れちゃうってママがカンカン! はーやーくー」
小学四年生の妹に掛け布団を強奪されて惰眠タイムは終わっちまった。最近母親の真似をすることにハマっているのか、ちっちゃいおさげ髪を揺らしながらズケズケと部屋に上がり込んでくる。勘弁してくれよな。にいちゃんはこれでも疲れてるんだぞ、遊ぶことに忙しくてな。
飯を胃袋に詰め込み、ダッシュで着替えと歯磨きを済ませ家を出る。最寄り駅でギュウギュウになりつつも何とか下車した後はまたしてもダッシュで坂道を駆け上り校門に向かう。
溢れんばかりに並ぶ一戸建ての真ん中に俺が通っている高校はあった。今日もHRギリギリに到着した俺は、安堵の溜息と共に午前中の授業をボーッとしながら聞き流している。
昼休みになって弁当を食い終わり、俺が机の上でCursed Heroesをプレイしていると、風邪で欠席になった前の席に誰かが座った。
「お前またそんなしょーもねえゲームしてんのかよ」
小学校時代からの友人である鎌田が、短髪のてっぺんを掻きながら溜息をついている。こいつは昔からよくも悪くもはっきり言うやつで、それが災いしてか小学生でも中学校でも彼女を作ろうとしては失敗を繰り返してた。
「しょーもねえゲームで悪かったな。俺には他に合いそうな奴がないんだよ」
「ったく。ゲームなんてしてねえで、そこらの女子生徒に話しかければいいじゃねえか! そっちの方がずーっと有意義だぞ。圭太」
「怠いからいい。お前みたいに節操のない真似はしたくないんだ。今は女と遊ぶのは遠慮しておく」
「俺だってやりたくてやってるわけじゃねえってーの! それよりさ、聞いたか? 俺達の街で、今月だけで行方不明者が二十人も出てるんだってよ」
それなら知ってる。最近ニュースでわいわい流れて来やがるからな。年齢も性別もバラバラな人達が忽然と姿を消してるってさ。
「まあ、確かに怖い話だとは思うけどさ。日本では年間8万人以上が行方不明になってるって話だぜ。それを思えば、二十人くらいでそんなに騒ぐか?」
鎌田はチッチと指を振って、足を組んで少女漫画に出てくる優男みたいなオーラを醸し出した。まあオーラだけで、こいつの場合は少女漫画ではモブにしかなれないだろうけど。
「この一ヶ月で、都内にしては田舎に位置している街中で失踪しているのが二十人もいるんだぞ。日本全土を視野に入れた統計でも、こんな短期間に同じ場所で失踪しているケースはないだろ。これには何かある!」
「まるでドラマの名探偵だな。何があるっていうんだよ」
「……きっと集団拉致だぜ。多分みんな地下の怪しい研究施設に連れていかれて、拷問と変わりない人体実験をさせられてるに違いねえ」
「へえー。そいつはおっかねえもんだな」
鎌田はサッカー部とかにいそうな快活で明るい奴だが、どうもオカルトを好む変な気質がある。超常現象とか未確認生物とか、心霊現象といった話題に熱中しているんだ。うちの高校にはオカルト好きな同好会も多い。
「あんたもそのうち拐われるかもしれないよ」
「うおあっ!」
突然後ろから両肩を掴まれて俺は飛び上がりそうになった。いや、ちょっとだけ飛び上がったね。振り向くと、鎌田と同じくらい付き合いの長い沙羅子だった。
「脅かすなよ。ビックリすんだろこの男女」
「はあ? 失礼ねえー。これでもあたしは今モテてんのよ」
沙羅子は小学校からずっとテニス部で、関東大会でそこそこ勝てるくらい活躍していた奴だが、それと男にモテることは全くの別問題だ。ちなみに今はガラッと変わってサッカー部のマネージャーをしている。
「嘘つけ! 聞いたことないぞお前がモテてるなんて」
「ふん! あんたが知らないだけだっつーの。いつも冷めた目で周りにも無関心だから気がつかないんでしょ。っていうかさ、今度相談にのってよ。ジュース奢るから」
「えー……めんどくせ。そんなの鎌田に聞けばいいだろ」
「鎌田じゃダメ。全然ダメ」
沙羅子は吐き捨てるように言うと、黒板近くの女子達のグループに混ざりに行った。手厳しいな、おい。ショートカットの後ろ姿を鎌田が恨めしそうに眺めている。
「ふん! 分かってねえんだよなアイツ。この俺がどれほど経験豊富なのか。百戦錬磨の恋愛帝王に向かってなんて失礼なこと言いやがる」
お前は百戦連敗だろ。
体育会系か文化系か、又は電波系なのかよくわからない軟派野郎の戯言を聞きながらCursed Heroesをプレイしていると、ふと昨日届いていたお知らせが気になった。
現実世界にアップデートされました……っていう意味の分からないお知らせはやっぱり残っている。まあいいや。気にするのはやめておこう。作ってる過程でデカイミスでもあったんだろうよ。そのうちお知らせもしれっと消されるに決まってる。
午後の授業はあっという間に終わり、用事など微塵もない俺は鎌田と一緒に下校した。自宅の最寄り駅で鎌田と別れた後、商店街のライバルだったショッピングモールをダラダラと歩く。不甲斐ないことに、この街のショッピングモールはあっけなく競争に破れ、今や建て壊し前という有り様だ。
「あー……怠いなあ。本当に……?」
本来ならショッピングモールなどさっさと抜けて、俺はバイト先である喫茶店に向かうところなんだけど、ちょっと気になることがあった。普段なら人が通らないようなシャッターだらけの通りに、妙な人影がちらりと見えたからだ。
きっとサラリーマンに違いない。ゆっくりとした足取りで、薄暗いシャッターロードを歩いている姿は、何となく哀愁のようなもんを感じる。不意に彼のシャツの裾辺りから、何かがパタンと地面に落下していく。
気がついてないみたいだから、声をかけてあげないとな。そう思って俺は確実に聞こえるであろう大きな声で言った。
「すいません! なんか落としてますよ」
後ろ姿を見るにおっさんっぽいが、立ち止まる様子もない。聞こえてないみたいだ。小走りで落し物を確認すると、使い古されたような財布だった。これは渡してあげないと寝覚めが悪くなりそうだ。
「すいませーん! 財布落としましたよ!」
今度は応援団さながらの大声を出してみたが、彼は一向に気がつく気配がない上に、何故かさっきよりも足早にずんずんシャッターロードを進んでいく。
何でこんなとこ歩いてんだろ。
「ちょっと! すいません、財布落としてますって!」
面倒くさいことこの上ないが、俺は拾った財布を渡そうと彼を追いかける。走れば直ぐに追いつくと思っていたが、何を急いでいるのか不明なグレーのスーツが、これまた誰も入らないような路地裏を曲がって行く。俺はとうとう全力で追いかけることにした。
「待って下さいよ! ねえ!」
ここまで手間を掛けさせたんだから、できることならジュースくらい奢ってほしいもんだ。そんな考えをよぎらせていた俺は、サラリーマンに続いて入った路地裏に奇妙な違和感を覚える。
「何だこの臭い……マジでくせえ」
例えようのない悪臭が鼻をついて、ちょっとだけ吐き気がした。もしかしたら肉が腐ったらこんな感じかもしれない。マジで勘弁してくれ。
埃にまみれた廃墟の中心には俺たち以外誰もいない。都会の中にポッカリできたゴーストタウンに寂しさを感じつつ、ようやく追いついた背中に声をかけた。
「あの〜。この財布、あなたが落としましたよね?」
「……」
無視かよ。随分な態度じゃねえか。しかも全然こっちを振り向かないところもイラっとする。もうちゃっちゃと手渡して、いつもより早いけどバイト先の喫茶店に行こうと思っていた時、グレーのスーツがゆらゆらと震えているのが分かった。
「こんなところで突っ立って何しているんですか? はい、これあなたの財布でしょ! ほら」
「……」
何だよ! 返事くらいしろよな。俺はイライラして、無理やりでも彼に財布を握らせようと近づいた。俺より頭一つ分くらい大きい男の肩をチョンチョンとつつく。
「聞こえてますか? あの……」
きっと俺は間抜け面だったろう。肩を小突かれて振り向いたリーマンの顔は、同じ日本人でありながら全く親近感を得られないものだった。
おっさんは本当に灰色の顔をしていた。コンクリートみたいに見事なグレーと、薄っすら青みがかった色が混ざっていて、ついでにいうと蝿が集っている。
このおっさんの顔、まさか腐ってんじゃねえか? 数秒ほど時間が止まったような気がした。頭が空っぽで何も浮かばなかったけど、徐々に恐怖感が募ってきたのは覚えてる。
「……フゥゥ……ウゥウウ」
「う……うわ。うわあああ!」
「ハァアア!」
そいつはいきなり俺の両肩を掴み、ハンバーガーでもこんなに開けないだろうってくらいの大口を広げて噛みつこうとしてきやがった。
勘弁してくれよ、何が起きてんだ? 全く理解できないが、きっと今人生の窮地に立たされていることは実感している。
「は、離せ! うわあー」
おっさんが何度も空気を噛むように口をパクパクさせてきて、俺は必死で噛まれないように押し返そうとしていた。完全な揉み合いになった末、噛みつかれる寸前で掴んでいた手が滑り、狂気じみた顔がバランスを崩して地面に激突する。
「く、くそ! 何なんだよお前」
でも蝿に纏わりつかれている不衛生度120%超えの男はのそのそと立ち上がってくる。一介の高校生の手に負える状況じゃなかった。俺は真っ白な頭で走り出す。
「ヘアア、アアア」
「だ、誰かー! 変質者がいますー!」
明らかに変質者どころじゃなかったけど、他に言葉が見つからなかったんだ。背後から聞こえる唸り声はぴったりと俺から離れない。頭の中は雪みたいに白く、心臓が太鼓みたいに音を立てている。パニックになっている俺は、気がつけばどんどん人気のないところに逃げてしまっていた。
「は……はあ。はああ! ち、畜生! どうなってんだー」
廃墟を走り回っているうちに、とうとう俺は行き止まりに来てしまった。振り向くと不審者を通り越している化け物サラリーマンが、ヨダレを垂らしつつ歩いてくる。これは一般の人を対象にしたドッキリか? いや、それにしては本格的過ぎる。
「ま、待て! 待てって。俺は何も」
「グウアア」
駄目だ! 全く言語が通じそうにない。そうだ、こんなルックスの化け物を俺は知ってる。勿論現実ではないし、映画の世界とも違う。漫画でもなければおふくろが煎餅片手に見入っているドラマでもない。それはゲームの中だ。
Cursed Heroesに出て来る雑魚キャラのゾンビが、今俺を食い殺そうとしている。
嘘だろ。そんなことがありえるのか。
躊躇っている時間もなく、野獣より飢えた腐敗野郎が走りだした。
「ブエアアー!」
「う、うわああー! あああ!」
断っておくが、これは食い殺されている断末魔の悲鳴じゃない。屁っ放り腰になりつつも俺はさっきの揉み合いを再現していたんだ。砂漠より何も無くなっちまってる頭ではこれが精一杯、マジで。俺は閉じたシャッターに押し込まれてしまい、いよいよ逃げ道が無くなる。
殺されんのか俺? 嫌だっていう心の声が脳内で無限リピートされ始める。逃げようにも力が強すぎて、茶色い歯に俺の首筋の距離が狭まってくる。あまりの恐怖にもう悲鳴すら出ない。おっさんに噛みつかれる寸前に、俺は右手で顎を掴み精一杯の力で押し返す。右手に集った蝿が何匹か止まった。
夢だよな? こんなこと。でも残念ながらこれは現実だった。そう教えてくれるものはいつだって、痛みしかないのかもしれない。
「ぐあっ! つうう……」
右手に鋭い衝撃が走り思わず引っ込める。汚い歯に手の甲を噛まれちまって血が吹き出していた。大した怪我でもなさそうだが、怖くてもう力が入らない。死ぬ? こんなところで俺が?
首筋に奴の大口が迫り、パニックの余りもう一度悲鳴を上げようとした時だった。
不意に奴の両腕から力が抜ける。
「……グ……ム……エア……」
「あ? ああ……な、何だ? 何だ?」
ゾンビ野郎は前のめりに崩れるように倒れ込み、電池の切れたラジコンばりに動きが止まってしまった。後頭部に深く突き刺さっているのは、飾り気など全然ない真っ黒いナイフ。
「な〜にしてんのよお。せっかく高ポイントGETのチャンスだったのに」
「え、ぽ、ポイン……? あ! お前は」
薄暗い路地の奥から歩いて来たのは、こういう場には全く似つかわしくない100W以上の笑顔と、あのお嬢様高校の制服だった。こいつがナイフを投げたっていうのか? ぜんっぜん信じられない事態が続いて、頭の中はスノーホワイトを超えて宇宙空間を飛んでいる気分だ。
「ちょっとアンタ。あたしの名前はこの前教えたはずよ。お前なんて呼び方じゃなくて、ちゃんと名前で呼びなさい。それからー」
「ま、待った。後ろ……後ろだ!」
路地裏にある幾つもの細い通りから、今は動かなくなったサラリーマンの仲間みたいな奴がノソノソと歩いて来る。一体何匹いるのか分からないが、まずもって俺達は肉の塊になる可能性が高くなっている。
勘弁してくれ。死にたくないんだよっていう声が、ハマっちまったアーティストの歌みたいにずっと脳内再生されてる。
陳腐なことは言いたくないが、俺はまだ彼女だって作ったことないし、他にもいくらか現世に未練はあるんだぜ。震える足が絶望を予感する中、ゾンビどもを背にして女……ルカは笑ったままだ。
「大丈夫だって! あたしに任せておきなさいよ。これで貸し二つね!」
いや、貸しとか言ってる間に、後ろの奴ら近づいてるって。この狭い路地に囲まれちまってるし、逃げられそうもない。どうすればいいんだ……どうすれば。しきりに俺を急かす何かを恐怖というべきなのか、絶望って表現するべきなのか分からないが、きっとどっちも当てはまっているんだろう。
「心配しないでよ。今からインストールするわ……」
「へ? な、何言ってんだ! 来てる……来てるって!」
彼女は一言つぶやいた後、学生用鞄から取り出したスマートフォンを蝶が舞うような手つきでタップする。誓って言うが、俺は幻覚を見るほど頭がおかしくなったわけじゃない。肩と水平に伸ばした右手にあったはずのスマートフォンが、ひとりでに宙に浮いていた。
「ギイアアア!」
ルカの白い首筋に触れようとしていたゾンビの体が硫酸を浴びたみたいに溶け始める。アイツの体から徐々に大きくなっていく光が、腐った肉を焼き払ったように見えた。気のせいか? いや、俺はまだ正気なはず。多分。
「どうなってるんだ? 体が……光って……」
「あれ? やっぱアンタまだインストールしてなかったんだ。もう! あたしが来なかったら死んでたわね」
インストールという単語に疑問を感じているが、今はそれどころではない。全身から立ち込める赤い光が柱のように大きくなると、ルカは眩しすぎて全く姿が見えなくなった。何てこった、ここまで来るといよいよ幻覚としか思えないぞ。
眩しすぎる赤い光が収まった時、目の前にいたのはルカじゃなかった。
「ビックリした? でも驚くのはここからよ。あたしの雀も斬り落とす剣捌きを見せてあげるわ!」
違う……やっぱりルカだ。でも外見はさっきまでとはまるで別人に見える。ルビーで作ったんじゃないかと思うような赤い鎧、煌めくような長い金髪、緑色の瞳。Cursed Heroesで見たソードナイトが目の前にいた。
俺にとって憧れの存在、誰にも言ってないけど幻想の世界で彼女にしたいと思い描いていた女の子が。
「ソードナイト……。う、嘘だろ……何で」
ルカは振り返ると走り出した。腰の付近に置いていた右手がキラキラと光り出し、いつの間にか剣が握られている。
今の状況を動画に撮ってネットに流しても、多分よく出来たCGだとかコメントされて終わりだろう。
マジでやる気なのかとビビリ顔が露わになっていたであろう俺は、いつの間にか脳内を占めていた恐怖が、驚愕に追い出されていくことが分かった。
「ブゥアアー!」
この声は二十人以上はいたゾンビの誰かが発した。でも分かりようがない、なぜならみんな破竹の勢いでソードナイトに四肢を切断されていったからだ。ルカはゾンビの血を撒き散らしながら踊っているみたいだった。まるでミュージカルのように。
「遅い遅い! アンタ達そんなんじゃ、亀と競争して負けた兎にだって負けるわよ」
よく分からない例えを言いつつも、前から後ろから掴みかかってくるゾンビ共を滅多斬りにする姿は、凄いという表現ではとても追いつかないほどだ。
「ギィアアアー!」
今度のは断末魔の悲鳴って奴だ。でも俺達じゃなくて、剣を振り回してルカに挑みかかったおっさんゾンビのもんだった。胴体を真っ二つにされてバタバタしてた後、脳天に一突きされてピクリとも動かなくなった。
一分もしないうちに、デカくて凶暴なゾンビ達は皆殺しにされた……ということで間違いないと思う。
気がつけばルカの右手にあった剣が無くなっていた。どういう仕組みなのか分からない。でもとにかく言えることは、俺は殺されずに済んだということだ。
「……終わった終わった。こんなところかしらねー」
「何者なんだ? お前……」
気がつけば周りは死骸の山だ。ホラー映画なんか比べものにならないほどエゲツない地獄絵図は、あまり時間を待たずして黒煙と共に消え去っていった。なんで?
誰かがドッキリでーす……とか言ってカンペ片手に出てきてくれないものかと思ったけど、ただただ周囲は静かで冗談の気配など一欠片だってない。
「何者って? 見たまんまじゃん。あたしはただの高校一年生よ」
ただの高校一年生には全くもって見えないけど、もう面倒だからこの際置いておこう。
Cursed Heroesのソードナイトだが、よく見ると顔や体に妙なラインが入っている。しかもさっきまで気がつかなかったが、鎧は鋭角的で近未来のSFモノにありそうなデザインだ。剣もゲーム内とは多少デザインが違うんだろうな。
「……一体何がどうなっているんだよ。アイツらは何なんだ?」
「全然飲み込めてないって感じね。じゃあ説明してあげてもいいわよ。これからアンタも関わるんだし」
「な、なんで俺が関わるんだよ!?」
「何でって? それをこれから説明するんじゃない」
グイグイ引き寄せてくるこの感じは何なんだろう。
まだ知り合ってから一日しか経ってないんだけど、どうもこいつは普通と違う感じがする。
赤い鎧と金髪は少しずつ消えていき、あっという間に元のお嬢様女子高生に戻っていた。
「ちょっと待った! まずは今軽くでもいいから説明を、」
「あーはいはい! とにかく先ずはお話しましょうよ。あたしハンバーガー食べたい! 助けてあげたんだからアンタの奢りよ」
「い、いや。まあ助けてもらったんだろうけどよ! もちろん礼は言うけど、俺はこれからバイトに行かなきゃいけないんだ」
「へえー。アンタ今からバイトなんだ? 何のバイトしてんの?」
俺はよろける足を鼓舞して少しずつ歩き出すと、ピッタリと横にルカがついて来る。まるで状況が飲みこめないんだけどきっと今日は厄日だ。
「喫茶店のバイト。チェーン店とかじゃなくて、おじさんが道楽でやってるような店」
「ふーん。結構変わったバイトしてんのねアンタ。じゃあそこでいいわ!」
「え? 嘘だろ、ついて来んのかよ!」
「何度も言わせんじゃないわよ。Cursed Heroesについて、アンタにちゃんと教えてあげる。今あたしが教えてあげないと多分死んじゃうよ」
さらっと怖いこと言いやがる。
「ま、マジかよ〜。この際仕方ねえか。よく分かんねえけど……とにかくありがとな! 助けてくれて」
俺は噛まれた右手の痛みを我慢しつつ、近所の小学生ばりに元気な女をバイト先に連れていくはめになった。
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