OP③:キミ達はあの日、あの子を殺そうと…また、見届けようとした。

キミはあの日、あの子を殺そうとした。


彼女は非常に危険な存在であり、このままでは破滅をもたらすという。

UGNの研究所に到着したときには、彼女は既に連れ去られていた。

彼女を追跡し、破滅を食い止めなければならない。


 夜闇に溶けるような紫の着物、腰には日本刀を差した女性、華道 咲(かどう さき)はその瞳に決意を宿し、UGN研究所の入り口にいた。

 彼女はUGNエージェントとしてある任務を受け、蘇芳 花(すおう はな)が収容されている研究所に来ていた。


 深夜の研究所の様子は彼女の想定外で、警備員はみんな気絶し倒れていた。異常事態が発生している事に警戒しながら花の病室へと向かって歩みを進める。

 入り口の惨状から想像できた通り病室には目的の人物はおらず、もぬけの殻となっていた。


 咲は警戒して抜きかけていた刀を鞘に収め、つい独り言で違和感を口に出す。

 華道「少し……遅かったですか。しかし、この研究所にはもっと警備員がいたはずなのに、今日は不自然に少ない気がしますね」


 何もなかったはずの病室の天井から、何の前触れもなく漆黒の雫が咲の目の前に落ちて地面に波紋を広げる。その波紋の中から上品なスーツとコート、シルクハットを身にまとった褐色肌の男性、ドクターエリシャが姿を現した。


 思わず身構えた咲だったが、顔見知りの人物が出てきた事で警戒を解いて声をかける。

華道「ドクター・エリシャ……フリーランスの貴方がなぜここに?」

ドクター「バロールに関するレネゲイドの技術提供で来ていたんだけど、物騒な音がしたので見に来たわけさ」

 緊迫した様子の咲とは違い、いつもどおりの穏やかな口調でエリシャは答える。エリシャがそう言うとほぼ同時、病室の外、それも少し遠くの方からバイクのエンジン音が聞こえた。

 エンジン音のした方を窓から眺めてみると、バイクが2台、チェイスを行っているようなライトの明かりが見えた。


華道「この病室の人物、もしくはそれを連れ去った人物がバイクで逃走したという事ですか?」

ドクター「そうかもしれないね。僕のバイクが盗まれていないといいけど」

 と、エリシャの答えどこかズレており、咲は煙に巻こうとしているのかと疑いの感情を込めてエリシャを見つめる。

華道「まさか貴方が……いえ、ドクターは蘇芳 花についてなにかご存知のように見受けられますが」

ドクター「蘇芳 花くんね……大変なのは知っているよ」


 エリシャがそう言った直後、「あぁ、間違えた」といった様子で訂正の言葉を続けた。

ドクター「ごめんごめん。600年前のあの娘と混ざってしまった」

ドクター「花さんについては知っていると言えば知っているが、何を知りたいのかが分からないなぁ」

 それは、常人には想像もつかない人生を歩んできた、古代種として数千年の時を生きてきた彼らしい答えだった。


 エリシャの事情を知っている咲は、エリシャの言葉に疑問を抱かずに続ける。

華道「いえ、蘇芳 花に関しては機密事項なところもありますので。失礼しました」

ドクター「そうなんだ。これからどうする? 追いかける?」

 エリシャのその言葉に、咲は頷く。

華道「そうですね。もしドクターに協力して頂けるなら私としても助かります」

華道「ご協力頂けるのであれば、念のため”上”に相談し、後ほど蘇芳 花に関する情報共有をさせて頂きますが」

ドクター「”上”の事はよく分からないけど、それでいいよ」

 余裕のある優しさを含んだ声でエリシャそう答えた。


 エリシャの操るディメンジョンゲートで研究所の外に出て、二人はそれぞれ乗ってきたバイクの準備を始める。先に出発の準備の整った咲は手の止まっているエリシャに声をかけた。

華道「ドクター、どうされました?」

ドクター「あぁ、なんでもないよ、すぐに追いつく」

 エリシャは手で先に行ってくれというジェスチャーを行い、咲を先行させた。


 咲の背中を眺めながらエリシャは呟く。

ドクター「若いっていいねぇ」

 少し遅れてエリシャの跨るバイクもエンジン音を上げ、追う者と追われる者、両者の正体を知るために夜の森へと消えていった。


キミはあの日、あの子の死を見届けた。


起きてしまった破滅。辿り着く事のない未来。

結末はわかっている。結局あの日、彼女は死んだ。

それでも何かを変えられたとしたら、彼女は最期に――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る