カワウソの身代金

新月

第1話

夢の中で、私は知らない街にいた




両側には高い壁

夕日を受けて、橙色に染まってる




足元には石畳


ヒビが入って割れた破片を、青い雑草が持ち上げている




「この袋が気になるかい?」




目の前に男が立っている


焦げ茶色の大きな袋を、大事そうに抱えてる




「この中身が気になるかい?」




艶々した毛皮で出来ている


中には水でも入っているのか、はみ出した部分は、重そうに脇へ垂れている




「持っていくがいいさ」




何も言わないうちに、男は袋を差し出した


予想に反して、それはゴツゴツとして固かった




「誰にも渡してはいけないよ。これは君が持つべきものだ」




男は笑った


影になった顔の中で、白い歯だけが光って見えた




「これは君が持つべきものだ」




言い終えると、男の姿は消えていた


後には小さな川がさらさら音を立てて流れている




私は川を覗きこみ、男が袋を寄越した訳を理解した

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カワウソの身代金 新月 @shinngetu

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