歩道島

 中央分離帯あるやろ?めっちゃ広い幅の車道の真ん中に続いとる、すれ違いの車がぶつからんようにするアレな。んで、中央分離帯には少し歩道ついとる時もあるやん。横断歩道長過ぎて、渡っとる内に赤信号ならんようにな。

 やねんけど、あの横断歩道の真ん中にある歩道のエリアで止められるん、めっちゃ恥ずかしないか?横断歩道着いてまだ渡っとらん奴らに、赤なっとる間、ボーっと突っ立っとんの見られんねんで?ややな、俺は。

 そう思っとっても、ホンのたまーに捕まってまう時あるやん。急いどる時とかな。普通やったら赤なっても、ええわ、渡ってまえ言うて反対の信号の車来ない内に行ってまうねんけどな。初めての場所で、しかも信号が意外と短いとかやと、勝手が分からんねんな。え?ここらの話ちゃうで。なんば行った時や。分かるやろ。

 しかもやで、自分と反対側に渡ろうとしとった奴おってみ?赤なって、あれ、オタクもやらかしはったんですかーってな。あーれは気まずいでホンマ。そこのスペースが小っさかったりしたら、もうあかんな。

 あん時は俺も急いどったしそんな暇無かったんやけど、まあ気になるわな、斜め後ろに人おるんは。まあでもしゃあない、目的地までの道もう一回確認しとこ。スマホのアプリを立ち上げつつ、反対側の信号が青なって前を車ビュンビュン行ってんの見つつ、あーこれどのくらい掛かんねんやろなあ思てたんやけど、なんと、そこで降り始めました、雨。


 うあーホンマか、マジか。俺傘持ってきとらんぞ。家出る時めっちゃ晴れとったやん。ツイてないわー。え?天気予報?見とる訳無いやん俺が。

 とりあえず、まだそんなザンザカ降ってへんから、まあちょい濡れはしゃあない、ええわこれくらい思っとったねん。そしたら、後ろの方でガサゴソ言うて、見たらカバンから折り畳み出しとんねんな。うわ、俺とはちゃうな、ちゃんとしとんなー思て。でもそん時向こうが視線に気付いたっぽくて、傘差しながらチラっと見られて慌てて前向きました、ええ。


 こら益々気まずいわ……どないしよ……って前の横切る車見とったんやけど、同時に、あれ?こいつどっかで見たことあんな?そんな気ぃしつつ、そ-っと後ろ向いたんやけど、なんや、あっちも同時に振り返っとったらしくて。はい、もっかい目ぇ合ったー思て、また逸らしたんやけど。間違いない、どっかで見たことあるわって。どこやろ?って考えとったら、


「たくちゃん?」

「え?」

「卓ちゃんでしょ。聖ヶ丘幼稚園の」


 そうや、幼稚園の同級生や。名前出てこうへんけど。


「ごめん、顔は憶えてるんやけど…」

「あ、ごめんね。住田だよ」

「あー、何か思い出したかも!」


 住田さん。正直ピンと来ぉへんけど、たまに幼稚園の帰り、母親達ともども途中まで一緒に帰った気がせえへんでもない。


「ところで、ひょっとして傘忘れたの?今日は午後から雨だって言ってたじゃん」

「天気予報見てなかった」

「あー……卓ちゃん、変わってないね……。そんなイメージ。先生の注意聞かないで遊んで、怪我してた気がする」


 思い出した。住田さんは父親の転勤で横浜から大阪に来とって、小学校に上がるタイミングで向こう戻る言うて、お別れパーティーやったんや。何故か俺ん家で。段々思い出してきて、俺らはそこで話をした。何回か信号が青んなって、何回か人が横断歩道を渡っとったけど、気にせんかった。あと、雨が強くなっとったけど、住田さんの傘に入れてもらったから濡れへんかった。


「……へー、なるほどな。でもやっぱり、あの有名な建設会社に就職なんて、すごいなー。住田さん、ちゃんとしとる感じやもんなー」

「だから、そんなことないって。で、大阪が本社だから新人研修はこっちなんだよ。研修も3か月って長いんだけど。今は社員寮に住んでる」

「大変やな。その後にどの支社行くか分からん言うんは」

「まあね。ところで、卓ちゃんは友達との待ち合わせの時間、大丈夫?」

「あ、そろそろ行かんと……」

「ふふふ、土砂降りの雨の中、友達に会いに行く……そんな可哀そうなあなたにお恵みをあげましょう。実は、折り畳みもう一本あるけど要る?」

「え!ええの?!……ってか訳分からん。なんでもう一本持っとんねん」

「なんかさ。カバンの中に忘れないように入れてたのを忘れて、もう一本入れてきちゃう時あるんだよ」

「ちゃんとし過ぎやろ。いや、ちゃんとしとらへんのか……?」

「そんなこと言うと渡さんぞ」

「すんません。謹んで頂きます」

「良い態度だ」

「後で返すから、連絡先教えてくれへん?」

「あー……いいよ、それあげる。私も忙しいし」

「え?」


 それに……、って住田さんが言うねん。連絡先交換したら、偶然が無くなっちゃうじゃん、ってな。多分特に接点無いからもう会わへんやろなとか、SNS交換しても傘返した後に1回メッセージ交換して終わりそうやなとか、俺も心のどっかで思っとったんやな。


「だから、それあげるから、無くさないで。憶えとけるでしょ、今日のこと」

「努力します」

「そこ素直にハイって言うとこだぞ」

「ハイ!」

「よろしい。……多分もう会わないと思うけど元気でね」

「また会ったら返すわ」

「頼んだ」


 そんで俺らは別れたんや。で、俺は益々天気予報見なくなったって訳やな。

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