第19話 南面官
契丹は統治機構が二重構造となっており、すなわち漢人および
南面官の官署は皇帝の
「宋と我が国の貿易は
傍らで同僚の長広舌を聞きながら、半ばぼんやりと立っていた李朝慶ではあったが、次の言葉に耳がぴんとなった。
「一昨日、民家で契丹人の武官が三人、斬られていたというではありませんか。調べさせたところ、みな密貿易に関わっていたとの由。北面から報告も回ってきております」
「それはわかっている。だが、その事件は契丹人が関わっているゆえ、我らとしても慎重に事を運ばねばなるまい。北枢密院の出方もあろう」
――やはり、な。あの覆面の男たちが言っていた通りだった。そういえば、斬られたのは『後家さん』も同じだったはずだが……。
「さしあたり、榷場の管理をより強化することが第一歩だ。密貿易の摘発も重要だが……李はどう思う?」
突然に話を振られて目をしばたたいた李だったが、恭しく一礼した。
「榷場での宋との取引は、このところ順調に、品目や取引高の値を伸ばしております。密貿易に関しては、国境は長うございます。すべての国境を見張ることはできませんが、入境して市場に流れるところを押さえ、出どころをたどれば……」
「そうだ。以前よりその取り締まりをやってはいるのだが、密貿易は増える一方で……」
楊のぼやきに、李朝慶は数年前に亡くなった、ある人物を思い出した。いつも微笑みを浮かべていて、ひそやかに歩き、話し、そして智謀を巡らせ、並ぶもののない敏腕ぶりを発揮していた功臣。亡き父の親友だった方。
――朝慶。そなたはいまだに契丹が憎いか。契丹の都に住み、契丹に仕えながらなおも……。
――韓丞相、奴らは我が両親の仇です、どうして憎まずにはおれましょう。ですが、悲しいかな。私はただの一人の官人。「
――ふふふ、では朝慶はわしも憎いか。契丹に仕えてその国勢を盛り立て、あまつさえ、太后さまの情人でもあった私を。
――……いえ、そんな。
――わしの寿命はもう長くない、ゆえにそなたには、契丹に一矢報いる方法を教えて遣わす。冥途への置き土産と思って。
――冥途などと……。それはともかく、一矢報いる方法とは?
――そうだな、いちど一日かけて草原に行って、また都に戻ってくればいい。
――それだけで?答えなどわかるものですか?
――ああ、わかるとも。そのような、胡散臭い目で私を見るな。いや、聡明なそなたならばきっとわかる。馬や弓で勝てなくとも、別の方法で勝つ方法がな。
温雅で高齢な男の名は、
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