第59話 魔石病
俺とヘレンは、食材を多目に買い込み、ヘレンの家に向かった。
ヘレンの家は、表現するなら、「普通の家」であった。平屋で小さなリビングがあり、寝室が2部屋、物置が1つのこの世界の平均的な子供のいない家庭の家の定番である。
『ただいまー。母さんいる?』
ヘレンさんが元気に言う。
『ヘレン、遅かったのね?何かあったんじゃないかって心配してたわよ!』
奥の寝室から出てきたのは、ヘレンの育ての親である「アルマ」である。アルマはヘレンの隣にいる俺を見て固まった。
俺は軽く会釈をして、普通に挨拶をした。
『お邪魔してます。ヘレンさんのご厚意で、今夜一晩泊めて頂くことになりましたアランです。よろしくお願いします。』
『あらまあ…!
あの人間不信のヘレンが男を連れ込んだわ!!今夜はお祝いよ!!』
バタバタバタと、何やら部屋に戻っていく…数分後戻ってきたアルマは、部屋着からお洒落な格好に変わっていた。
『待たせたわね!?私がヘレンの親代わりのアルマよ!ヘレンが欲しいなら私に言いなさい?
よし!許すわ!!結婚なさい!!!』
(これは…かなり勢いのある、かっとんだ性格のようだ。)
『母さん!
止めてよ…恥ずかしいわ…
アランさんも困ってるじゃない!
今日、私が悪い人たちに襲われてるところをアランさんが助けてくれたのよ。それで、お礼に今夜は泊まってもらって、夕食をご馳走することにしたの。
それだけなんだから、変な勘繰りは止めてよ!』
『悪い人たちに襲われるヘレンを命がけで救った王子さまなのね?運命よ!運命の出会いなんだわ!?』
『だから、違うって!!母さん、いい加減に落ち着きなさい!!!』
『・・・
結婚の挨拶じゃない?』
『ない!』
『・・・
運命の相手ではない?』
『ない!残念だけど、アランさんには既に婚約者がいるの!』
『・・・
残念なのね?やっぱり少なからず運命を感じてるんじゃないの!?私は妾でも、大事にしてもらえるならいいと思うわよ…
キャー!やっぱり今夜は祝いよ♪
あのヘレンが異性に興味を持つ日が来るなんて!!』
『止めてよ!そんなんじゃないって言ってるでしょ!!アランさんも困ってるからそろそろ落ち着いてー!』
話を振られ、俺は思わず呟いてしまった。
『あの~アルマさんってたしか病人なんですよね?』
『アランさんが疑問に思うのも仕方ないとは思うのですが、こう見えてかなり重い病なんです。
「魔石病」って聞いたことありますか?』
『魔石病!?あの病気ってたしか、魔力が高くて、魔力コントロールが苦手な人がかかりやすい病気でしたよね?
魔法を使う度に、身体に「魔力カス」が僅かに残り、それが蓄積して、気付いたら身体が魔石のように変質していく病気だと記憶してます。』
『詳しいですね?お知り合いにでもかかってる方がいましたか?』
『いえ…!
魔法に憧れて勉強をしまくってたときに覚えた知識です。
結局、調べたら魔法の適正なしだったんですけどね…』
『そうなんですか…それは……とても残念でしたね…』
『確かに残念だったのですが、魔法の変わりに手に入れた技もありますし、何とか乗り越えました。』
『技?もしかして、今日木の枝で使っていた技ですか?』
『そうです。俺は「魔法剣」と呼んでいるんですけど、皆には「魔力の剣」と呼ばれる技のようです。』
『魔力の剣を使えるですって!?』
俺とヘレンの会話を楽しそうに眺めていたアルマが突然俺に近づいて来た。
『私に見せてみなさい!』
『いいですけど、そんな見て面白い技ではないですよ?剣が紫に光るだけの技ですよ!』
俺は、両手にナイフを持ち同時に魔力を込めた。
ナイフはキレイに紫に光っている。
数秒したところで限界が訪れたので止める。
『俺は魔力コントロールは得意なんですが、魔力容量が少なめなんでこれくらいが限界です。』
アルマは目を見開いて固まっていた。
『あんた何者だい?』
先ほどまでとは、打って変わった真面目な様子で俺を見据えるアルマ。
『何者と言われてもアランです。としか…』
『その技は、私の昔の冒険者仲間が必死に開発した技なのよ!今では何人か使えるみたいだけど、あんたみたいな若い人間に簡単に覚えられる技じゃない筈よ!!』
(あー!俺の使ってるのを見て、あっという間に全身に帯びたとんでもない奴知ってるので、全然特別なことには感じないけど、確かジークハルトさんは、習得に10年かかると言っていたな…)
『もしかして、アルマさんはジークハルトさんとパーティー組んでたんですか?』
『やっぱり、ジークハルトを知ってるのね?
そう、昔一緒に馬鹿ばっかりしてたわ!』
『王都の冒険者ギルドで、この技を1度見せて頂きました。そのお陰で魔法の適正なしの事実を知って落ち込んだんですが、乗り越えることが出来ました。』
『あんた、ジークハルトに教わったんじゃないのかい?まさか、1度見ただけでこの技をマスターしちまったとでもいうのかい?』
『違います!見ただけでなく、これでも必死に努力したんですよ!?最初の2週間はこの技を使えるように集中し、今でも毎日魔力コントロールの修行は欠かさず行ってますよ。』
アルマは緊張を解き、ボソッと言った…
『ただの天才ってやつか…』
今度はヘレンが説明を始める。
『アランさんは、今日クーデターのことを知り、婚約者がおそらくラトル教育村にいるはずだと、明日の朝からアレフザック街道を抜ける決意をしたのよ。
私も途中まで一緒に行ってくるわ。
可能ならば、エリクサラマンダーの尻尾を取ってくるわ。』
『ヘレン、まだそんなこと言ってるの?危ないから止しなさい!私のために、あなたが危険な目に合うのは嫌なのよ…』
俺は親子の話に割って入った。
『そのことなんですけど、エリクサラマンダーのいる岩山って街道からどのくらいの距離なんですか?』
『街道から1時間ってとこですね…
でもあそこで出るモンスターは、さすがにアランさんの実力では、手に負えないので、街道を離れたら絶対に駄目です!!』
『そのくらいの寄り道なら可能か…
多分ですが…条件だけ揃えれば、俺だけでもエリクサラマンダーの尻尾を手に入れることは可能です。
その条件を満たすためには、ヘレンさんとましろの助けが必要になります。』
『呼んだかにゃ?』
『おそらく、ましろなら、エリクサラマンダーとタイマンしても勝てるだろうけど、今回は安全策でいこうと思っている。』
『ダーリンに任せるにゃ♪』
『っと、その前に、ペットのましろです。見た目はかわいいけど、強さおそらくエリクサラマンダーより強いです。』
『ましろだにゃん!よろしくにゃ。』
ましろは愛嬌よく挨拶をする。
『『キャー!かわいい!!』』
2人の親子は、ましろのかわいさにやられてしまったようだ。
その後、作戦の説明をしようにも、話を出来る状況ではなかったので、諦めて明日街道を移動しながら説明をすることを決意する俺だった…
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