第60話 アレフザック街道
『フゥファー』
盛大に欠伸をしたのは、俺だ。
今、俺とヘレンは、アレフザック街道の入り口を歩いている。
昨夜は、大変だった…
ヘレンの手料理は予想以上に美味しく、久しぶりに家庭の味を味わえた幸せな時間だった。
問題はその後…
アルマは、俺の魔法剣を見て、俺がヘレンの力を利用しようと近づいたどこかの組織の人間と怪しんでいたようだが、その誤解は確かに解けた…
俺を認めてくれたのはいいのだが、その方向性が困った…
『ヘレンとあんたは、ヘレンのベッドで寝なさい!』
『今夜私は、母さんと寝るの!』
『私は病気だから、一人でゆっくりでないと寝られないよ…アランもそれを理解して、ヘレンと一緒に寝てくれるよね?
大丈夫さ!間違いなんて起きてもらって全然構わないからね!!あんたを逃したら、人間不信のこの子が気に入るような優良物件そうそう現れそうにないから…
妾でいいのさ!安心してお抱き!!』
『何、勝手なこと言ってるのよ!?そういうのは、お互いの気持ちがないとしちゃダメなの!!』
『そんなもん、やっちゃえば生まれてくるもんよ!そんなことばかり言ってたら、あんたも私と一緒で行き遅れるのが目に見えてるから言ってるんじゃない?
あーいう男はね、一度手を出したら、結局その女を捨てられないのさ…
何だったら、あんたから襲ってあげなさい!』
『ほんと…何言ってるのよ?』
この後、ヘレンとアルマの言い合いはいつまでも終わらず、寝る時間はどんどん遅くなった。
結局どうしたって?
ヘレンの部屋で1人で寝させて貰った。俺が、「俺はリビングの床でいいのでもう寝ましょう」と提案したので、仕方なくアルマが引き下がったのだ。
しかし、時既に遅く、睡眠時間はかなり少なくなってしまっていたのだった。
『アランさん、ここからはいつ襲撃があってもおかしくありません。警戒はしておいて下さい。』
俺のあまりの緩んだ顔に、ヘレンは微笑ましくなりながらも注意をする。
『はい。気を付けます。』
ここに来るまでに、俺とヘレンはパーティーを組んでいる。
話を聞くと…
ヘレンは、成人してから最初は一緒にエリクサラマンダーを倒してくれる仲間を求めたが、徐々に人間不信に陥り、他人に頼らず自らの力でアルマを救うと誓ったそうだ。
それから10年。
一人でアレフザック街道だけでなくもっと強いモンスターもいる場所でも戦えるほどに成長したそうだが、10年ぼっちで、パーティーを組んだこともなく、連携は難しいとのことであった。
『それにしても、ましろちゃんがそんなに強いなんてアランさんを疑う訳ではないんですけど、とても信じられないです。
こんなに小さくて、柔らかくて、モフモフなんですよ?』
『最近いろんな人に触られて困るにゃ…』
『いいんじゃないか?俺もましろをモフるの好きだよ。みんなましろのことが好きなんだよ!』
『ダーリンならいつでもいくらでも触っていいにゃ!』
『ありがとう。まあ、今日から街道を抜けるまではましろに、かなり頼ることになりそうだ…よろしくな!?』
『任せていいにゃん♪』
そんなことを言ってると、前から大きめの犬のようなモンスターが3匹走ってきている。
『フレイムドックです。口から火を吐いてくるので気をつけて下さい。』
ヘレンの言った通り、フレイムドックはある程度の距離まで詰めると炎の塊を吐き出してきた。炎の速度はそんなに早くはないので、驚異ではないが、当たったら熱そうだ…
『ちょうどいいから、1匹づつ倒しましょうか?ましろもヘレンさんに実力を見せてやれ!』
俺は、炎を避けながら言った。アレフザック街道のモンスターの実力を測りたかったのでの提案だ。
『分かったにゃ!』
というと、ましろは残像のように姿を消し…
ほぼ同時に一番手前にいたフレイムドックが弾けた。
まるで花火でも見ているように真っ赤なものがとびちったのである。それは血だけでなく、肉も骨も粉々に砕け飛び散っていた。
『っな!?何が起きたのですか?ましろちゃんが消えたと思ったら、フレイムドックがあんなことに…ましろちゃんがあれをやったんですか?』
ヘレンが驚きのあまり固まってしまっている。
『そうですよ!ましろはこの国でも上位の実力者なんです。ヘレンさん、そろそろ俺たちも動きましょう!』
ヘレンは、ハッとなり、自分に向かってきているフレイムドックに意識を向ける。ヘレンにとっては、それほどの驚異とはならない存在とはいえ、舐めてかかれるほどの雑魚でもない。
ヘレンは綺麗な長細い剣をフレイムドックへ構えた。斬るのでなく、突くことをメインにした剣のようだ。構えもどこかフェンシングを思わせるような構えである。
『エレキ!』
ヘレンが唱えると、剣の先端が「バチバチ」と音を立て始めた。雷を得意としていると言っていたが、これは…俺のなんちゃって魔法剣ではなく、ほんまもんの魔法剣ではないのか?
フレイムドックがヘレンの剣を警戒して、距離をとったまま後ろへ回り込もうと動いている。その後ろからは、俺を無視してもう1匹のフレイムドックがヘレンに飛び込もうと向かっていた。2匹で同時に責めるつもりなのだろう…
『お前の相手は俺だ!無視するな!!』
俺はそう叫んで、後ろからヘレンに向かってるフレイムドックの目の前に飛び込み、その目を斬ろうとした。
しかし、フレイムドックは流石に反応し、逆に俺のナイフを噛もうとしてくる。だが、当たる瞬間俺がナイフに魔力を込めると、フレイムドックの牙もろとも、体の右半分は真っ二つになり、地面にその内臓がぶち撒けられた。
俺はそれでもフレイムドックが動いてることを確認し、止めの一撃を警戒しながら入れる。動かなくなったことを確認して勝利である。
(魔法剣がなかったら、ナイフを1本奪われていたかもしれないな…ちょっと不用意にいきすぎたか…反省だな。)
俺はヘレンの方を見ると、予想通り既に終了していた。様子を見る限り、突きを食らったフレイムドックが感電して、中から黒焦げにされたようだ。
火には強いのだろうが、電気で中から焼かれるのは耐えられなかったようだ。
『おつかれさまでした。ヘレンさんの剣ってもしかして【ミスリル製】ですか?』
『おつかれさまでした。確かにミスリル製です。よく分かりましたね?』
『魔法との親和性があるのがミスリルだと勉強をしました。
ヘレンさんの先ほどの戦い方だと、普通の剣では、直ぐに劣化しそうだったんで、そうではないかと…
といっても俺も初めて見たんですけど。』
『そうなんですよ!この剣を手に入れるまでは、いざという時以外あの技は使えなかったんです。
今では、いつでも使えるようになったので便利になりました。雷に耐性があるモンスター以外には、当てられれば、ほぼ一撃で倒せるんですよ!ほとんど魔力も使わないですし、使い放題です。』
(うおー!勇者のスキル便利過ぎるだろ?
遊び人も戦闘用のスキルおくれよ!!)
『それにしても、ましろちゃん凄かったですね!?あんなにかわいいのに私より確実に強そうでした…』
『頼りにしてもいいにゃ!』
嬉しそうにましろが呟いてた。
その後も、色々なモンスターに襲われたが、正直余裕は余りないが、俺でも戦えないことはないと思える程度の敵ばかりだった。
倒したモンスターの魔石や、高値で売れる素材は解体し、ヘレンの持つマジックバッグに入れてもらっている。
そう、マジックバッグを持っているのだ。ミスリル製の武器といい金持ちである。
それもこれも、エリクサラマンダーの尻尾を手に入れるために、ずっとソロで腕を磨き、3年前にはこのアレフザック街道を抜けられる実力を持つようになった。
アレフザック街道を抜け、王都で、街道で得た素材を売りに行く。それを繰り返すうちにお金が貯まって、剣やマジックバッグを得るまでになったそうだ。
自分の暮らす街では、高価な素材は売ったりしたことは無いそうだ。そんなことをすれば、益々世界のためには動かないのに、自分の利益のためには頑張るのか?などと黒い噂を流されるのがオチである。
『ヘレンさん、昨日のアルマさんかなり元気そうにしてましたが、病気そんなにヤバイんですか?』
夜営の準備をしながら俺は尋ねた。
『薬草を飲んでいたら、ある程度は進行を遅く出来るんですが、それでも運動や魔法を使うとあっという間に進行して、全身が魔石のようになって死んでしまうんです。
母さんは病気になって13年の長い間、魔法も使わず、運動もしてません。生活に必要な最低限の動き以外は極力体を休めてます。
あんな性格なんで、本当は外に出て色々なことをするのが好きなんです。私はどうしても、また昔みたいに元気で自信に満ち溢れた母さんに戻って欲しいんです!』
『そうですよね…それは早く何とかしないとですね。。おそらく俺の持つスキルを利用したら、エリクサラマンダーの尻尾は手に入ると思うんです。』
『昨日も、そんなこと言ってましたが、正直まともに戦闘したら、アランさんの今の実力では…戦いにすらならないと思います。。』
『勿論まともに戦う気は一切ないですよ。スキルを利用してズルするんです。俺のジョブは戦闘用のスキルは1つも持たないのですが、強さに関係なく無力化する方法があります。
もし俺が思ってる通りにいけば、驚くくらいアッサリとエリクサラマンダーの尻尾は、手に入るはずです。。』
(俺の思惑通りに事が進めば良いのだが…)
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