第57話 クーデター

新しいスキルには正直ガッカリはしたが、ヘレンが薬草を摘み終えるまでに、またそれなりに稼いだ。


全部で250ルピーはある。これだけあれば、一通り必要な物は揃えられる筈だ。



ヘレンの街は、思ってたよりも近くにあった。徒歩で1時間もかからなかった。考えてみれば、ヘレンのような戦闘職っぽくない女性が、1人で来るような場所なのだ。当然であろう…


街は、王都に比べれば小さなものだったが、辺境にあるとは思えぬ立派な街であった。



これなら、王都への乗り合い馬車も頻繁に出てるかもしれない。買い物の後、乗り合い馬車の金額を調べないといけない!金額次第で、歩きで戻るより早く、王都へ戻れるかもしれないからだ…


街へ入るための正門に並び、入門税に10ルピー払う。冒険者の登録証を持ってれば、無料で入れるのに残念だ…結局冒険者登録して、一度も使わずに寮に置かれたままだ。



(あんなことになってしまったので、もう処分されているんだろうな…)



街に入ると、安物の服を3セットと靴、外套、水袋、タオルに使えそうな布を買い揃え、武器屋に寄る。先ほどの盗賊の武器で使わない物を売りに来たのだ。


『この斧と長剣を売るんだね?この斧は切れ味の付与付きで、なかなか良いものみたいだけど、本当にいいのかい?』


(リーダーの持っていた斧は付与持ちだったのか…

ただ、持っていても仕方ないしな。。)


『構わないよ。いくらで買ってくれる?』


『長剣は100ルピー、斧は付与はいいんだけど、木こりにくらいしか売れないからな…300ルピーってとこだな。兄ちゃんどうだい?』


(おお!そんなになるのか…ラッキーだな♪)


『あー、それで構わない。』



「付与」とは、「付与師」のジョブを持つものが、武器やアクセサリーに、必要な素材を消費することにより、属性効果や特定の効果を付けることができる。その時に、どの程度の効果が付くのかは運次第で、ランダムだと言われている。




俺は、ヘレンを色々と付き合わせて悪いとは思いつつも、乗り合い馬車の受付まで案内して貰った。


受付には、恰幅のいいおばちゃんがいた。

『どこに行くんだい?』



『王都に行きたいのですが、いくらかかりますか?』



『王都かい?こんなときに王都にわざわざ行きたがるのは、傭兵と商人くらいさね…あんた見えないけど、傭兵志望なのかい?


うちでは、今危険だから王都への馬車は出さないよ!』



『どういうことです?王都で何かあったですか?』



『あんた…!そんなことも知らずに王都に向かおうってのかい!?


1ヶ月くらい前に、ユリウス王子のクーデターがあってね…王様が殺されちゃったのよ。』



『なっ!?クーデターだって!?

あの王が死んだのか………それでどうなったんです?』



(俺が王都を離れた頃じゃないか…何があったんだ?)



『そのまま、ユリウス王子が王になると宣言したみたいなんだけどね…あまりに突然のことだったために、王都内も混乱しているみたいなのよ。


それにね…このクーデターの裏には帝国が関わっているみたいなのよ!クーデターの後、我が物顔で王都に帝国の人間が出入りしてるらしいわよ!?


噂によれば、そのことで、アリスト教や各ギルドと色々と揉めてるらしいのよ!帝国のやつらに仕事奪われて、失業した人も多いらしくて、みんなピリピリしてて、治安が悪いらしいのよ…


みんな言ってるのよ!「ユリウス王子が、王になるために帝国に国を売った!」ってね…そして、「売国奴を王として認められない!」ってね…』



(売ったというより、口車に乗せられたってとこだろうな…愚かな。。) 



『それで、他の王族はどうなったんです?』



『詳しくは分からないけど、クーデターの時にうまく逃げ出した王族は、今ラトル教育村に陣を構えて、睨みあってるらしいわよ。』



『ラトルに?そうか…王都に近く、牽制し合うにはちょうどいいのか?しかし、それじゃあ実質、この国は内乱状態にあるということなのか…』



(皆、無事だといいが…ビアンカ。。)



『そういうことさ!だから、今は好き好んで王都へ向かう者はいないのさ…いつ戦争が始まるか分からないから、危険なのさ…』



『状況は理解できました。説明して頂きありがとうございました。現状王都方面では、どこまで行けますか?』



『話を聞いても王都へ向かうの?それだけの理由があるのかい?』



『俺は、今話に出たラトル教育村の出身なんです。


おそらくラトルに家族も…

何よりも大切な婚約者がいるはずなんです!


話を聞いて、益々命を賭けても向かわないといけない状況なんだと分かったんです!!』



『そういうことさね…うちでは、半分の距離しかいけないね。


アッサムまででいいなら2~3日待てば出発できるはずよ!馬車で1日、そこから、歩いて6~7日でラトルまで行けるはずよ。』



(2~3日も出発までかかると、全部歩きと余り変わらなくなってしまう…それじゃ意味ない。)



『明日の朝出発するにはいくらかかりそうですか?』



『あんたが全部出すってのかい?それだと、少なくとも1000ルピーはかかるかもね!?』



(足りないか…どうする。。明日の朝出発して、全部走るか。。おそらくそれが一番早く着けそうだな。)



『全財産出しても、残念ながら足りそうにないです。


仕方ないから、明日の朝から走ります。毎日10時間も走れば、かなり早く到着するはずです。


おばちゃん色々と教えてくれたのに、馬車利用しなくてごめんね!』



『それは構わないけど、走るってあんた正気かい?』

おばちゃんは呆れてるようだ。



『婚約者と別れ際に、必ず迎えに行くって約束しましたからね。王都がそんな状況って知ったからには、余計に急がないと!』




『ちょっといいですか?』

今まで黙って俺たちの会話を聞いていたヘレンが、声を掛けてきた。


『あっ。たくさん待たせてすいませんでした。』



『そんなこと、恩人であるアランさんが気にされないで下さい。


それよりも、本当にアランさんが命を賭けても早く王都に戻りたいのなら、「アレフザック街道」を抜ければ、徒歩でも4日ほどで王都に抜けられる筈です。』



『!!…何てこと言ってんだい!?

あんた、この子を殺す気かい!?


あそこがどんな場所か知ってれば、そんな提案できっこないはずよ!!』


おばちゃんが取り乱した様子で、ヘレンを睨み付ける。



『アランさんはこう見えて、物凄くお強いんですよ!先ほど、盗賊4人を木の枝で瞬殺でした。しかも、木の枝で人の手をきれいに切り裂いたんですよ!


おそらく、あの動きを見る限りジョブレベルは30はとうに越えてます。アレフザック街道でも、何とか戦えるレベルだと思いますよ!』


おばちゃんは再び呆れ顔で、

『バカなこと言いなさんな!こんな成人して間もない子供がそんなにレベルが上がってるわけないでしょ?』



『ヘレンさん、先ほどの話は本当ですか?そのアレフザック街道を抜ければ4日で王都の方へ抜けられるっていうのは…?』



『ヘレン…ヘレン?あんた!?もしかして、「偽勇者ヘレン」なのかい?』

おばちゃんがとんでもない事を口走った…


『偽勇者!? 』



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