第55話 脱獄

その日は、俺がアーガイアに来てからちょうど30日目の朝だった。


朝から、緊張のためかリアムですら、ピリピリしているのが分かる。



(2歳から、この鉱山しか世界を知らないんだもんな…


外の世界に出ることは、俺なんかよりよっぽど重いことに決まってるよな。。


生き別れた母親を探すって言ってたけど、当てはあるのかな?)



俺は、リアムのこれからを思い、色々落ち着いたら、同郷の友として、会いに行こうと決心するのだった。



鉱山での労働の時間になると、リアムの言っていた仲間たちと合流し、素早く行動を開始する。




向かう場所は、いつもリアムが入っていた毒ガスの充満する洞窟だ。


リアムが、毒ガスの洞窟の奥から、外へ繋がる横穴を掘ったそうだ。


さらに前日から、毒ガスが洞窟内に、ほとんど漏れ出さないよう、ガスの通り道を防いできたそうだ。


『洞窟内の毒ガスは、かなり薄くなってるはずだ。布を濡らして、それを通して息をしろ!


出来るだけ短時間で抜けるぞ!俺について来るんだ。』

リアムが、指示をしてくる。



俺たちは、あっという間に、リアムの掘った横穴にたどり着いた。


『後は、ここをまっすぐ一本道だ。


みんなは、そこを駆けて外に出てくれ!出口付近には誰もいない。俺は気配で、皆が安全な地点に出たところで、毒ガスを再び洞窟内に流れるようにする。


それで、追っ手は絶対に来れなくなる。

よし、行け!』




この作戦は、正直リアムがいなければとても実現出来ない、無茶苦茶な作戦だった。


しかし、逆を言えば誰にも想像もできないだろう。


誰が入るだけでも命の危険がある毒ガスの充満する洞窟の奥から、かなりの距離のある外まで横穴を掘るだろう?


俺たちがいなくなった後、この脱出経路に気づける者がいるのかすら怪しいだろう…


リアムは最後に、横穴の出口まできれいに壊して見つからないようにしていた。完璧だ。


戦闘どころか、誰にも気づかれることなく、脱獄は成功した。




俺は何もせず、何も考えもせず、リアムと出会っただけで、この脱獄という難題を、いとも簡単にクリアできた。


この幸運を無駄にしないよう、必ずビアンカのところへ無事にたどり着くことを改めて誓うのだった。




俺は、まずはリアムにお礼をしなければと声を掛ける。

『リアム、ありがとう。お前のお陰でアッサリと脱獄できた。本当に助かった!


これで、婚約者を迎えに行けるよ。俺はこの国の王都へ向かうが、リアムはこれからどこへ向かうんだ?


母親の居場所の検討はついてるのか?』



『どういたしまして。

無事に予定通り成功して良かったよ!


俺の母の現在の居場所は分からない。

だから、先ずは原点である、祖父に会いに行ってみるよ。


帝国アルデバラン内にある、商業都市フィオーレという街だね。』



『リアムは、帝国の出身だったのか?

それじゃー、なかなか簡単には会えないかもな…


もし婚約者と会って、国外に逃げることになったら、俺たちも帝国へ逃げればいいのかもな?』


『大丈夫!そんな遠くない未来に、きっとまた会えるよ。

…何となくそんな気がする。


アランの気配はともかく、ましろちゃんの気配は分かりやすいから、近くにいるようだったら、俺から必ず会いに行くのは約束するよ!』


『あー!絶対にまた会おう!!』

俺は拳をつき出す。


『同郷の友との約束だ!必ず又会おう!!』

リアムは俺の拳に合わせた。




俺たちは、それから、それぞれの目的のために別々の道を歩み出した。


出会いから1ヶ月…期間は短いが、本当の親友との出会いだと思った。この出会いに感謝し、この恩に報いるためにも、今はビアンカの元へ向かうことにした。


『リアム、いいやつだったにゃ!ダーリンの次に気に入ったにゃ。』


『それ、リアムに言ってあげたら、超喜んだだろうに…』


『嫌にゃ!揉みくちゃにされるだけにゃ…』



『よし!俺たちも王都に向かうぞ!?


しかし、どうやって向かうかだな…

全部歩きだと、急いでも10日以上は最低でもかかりそうだ…


近くの街で、乗り合い馬車で向かうにしろ、金も物も武器さえもない。どうやって、金を稼ぐかだな…』


『それは簡単にゃ。私がモンスターを倒したら、ルピー落とすにゃ。私なら武器もいらないにゃ!』


『じゃーお願いできるか?』


『任せるにゃ♪』



こうして、無一文、ぼろ服1枚からの新たな旅が始まった。


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