第54話 気力
アーガイア鉱山へ来て、今日で1週間となる。
この1週間でリアムの凄さがよく分かった。
まさに規格外。
これが、物語によく出てくるような転生者の姿なのだろう…
リアムは、鉱山での仕事を普通の人間では入れない、毒ガスが充満している洞窟に潜り作業をする。毒耐性を鍛えたから平気なんだという。
更に、その作業もたまにしか行わず、短時間の作業で鉱石を大量に掘り起こして、毒ガスの中に隠してるそうだ。しかも、鉱石を掘るのも、全て素手で行っているという…
あとは毎日ノルマの分だけ持って出て、納品しているようだ。
では、残りの時間は何をしているかというと、毒ガスの中で、必死に修行をしているそうだ。ストイック過ぎて俺には真似出来そうにない。
俺はというと、それなりに順調にこなしている。
持ち前の器用さと、鉱石を掘る際に使うピッケルに魔力を帯びさせることで軽い力でも難なく掘り進めることが出来るのだ。やり過ぎず、少し余裕を持った感じで作業を行っている。
近衛兵の研修の時に学んだことだが、一度本気でやってしまうと、ずっと本気でやり続けねばならなくなるだろうと予測出来たので、適度にこなすようにしている。
ましろはというと、日中は自由に鉱山内を探検させている。ある程度の地理を把握しておいてもらった方が何かに役に立つかもしれないからである。
リアムは、俺の魔力をピッケルに帯びさせる様子を1度見ただけで、
『面白いことしてるね?』
といって、素手の両腕にアッサリと魔力を帯びさせる。更に次の瞬間には、全身に魔力を帯びさせる。
魔力のコントロールは、俺も褒められていたが、上には上がいることをまざまざと見せつけられた瞬間だった。そして、驚くべきなのは、全身に魔力を纏ったままいくら時間が経過しても平気そうに、
『何か紫色だから、悪魔っぽくない?』
なんて冗談まで言えるほど余裕なのだ。どれだけの魔力量を持ってるのか…
リアムは、お返しにと言って、今度は青色のものを全身に纏った。
『これは、気の鎧だよ。この状態なら、さっきの魔力を帯びさせた武器で攻撃をされても、ダメージはまず負わないはずだよ。』
『気?気功のようなものなのか?何かドラゴン○ールみたいだな?まさか、カメ○メ波なんて放てたりするのか?』
『懐かしいね♪正確にいえば違うものだけど、似たものは出来るよ。見た目は、見えないから手加減して、アランに放つね。』
リアムは、ノリノリでカメ○メ波の真似をしてから、見えない何かを放ってきた。
それは、サッカーボールのような大きさのものに、お腹にぶつかられる感覚だった。放った後もコントロール出来るようで、ゆっくりと引きずられ、方向を変え空中に持ち上げられてしまった。
『気功波って技だけど、他人には見えないから奇襲には最高に便利なんだ。今ならこれで、誰にも俺がやったと気づかれずに城の門くらいは粉砕できると思うよ。
この世界には気は、存在してるはずなのに誰も知らないみたいなんだよね!?もしかしたら、アランなら使えるかもよ!?』
こうして、俺はリアムから気のことを教わりながら、ここアーガイア鉱山での日々を意外にも平和に過ごすこととなったのだった。
全てリアムと出会ったおかげなのだが…
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『そうそう、それが気力だよ。気力は魔力と真逆で体の中では扱うのが難しく、外では扱いやすいんだ。
そのまま、体の表面に纏わせるイメージで動かして!
そうそう、上手だよ。いいね。』
リアムの教え方は、非常に上手だった。誉め上手な感じだ。
気力の存在を理解するのに少しかかったが、それさえ分かれば、魔力操作と同じで、感覚の訓練だけで、みるみるうちに扱えるようになった。
そして、気力を理解出来るようになると、リアムの気の流れや気功波も見ることが出来るようになり、お手本を常に見ながら教えて貰えるので効率も上がる。
『ここに来て、気力を何人かに教えたけど、アランが初めての習得者だよ!もしかして、気功の概念を知ってるから理解出来るのかな?
アランなら器用だから、それなりに使いこなせるようになると思うよ。』
リアムは嬉しそうに、貴重な技術を教えてくれる。
『ここへ来て、リアムには世話になりっぱなしだな?ほんと頭上がらないよ…』
『気にしないでよ。俺もアランが来てから楽しいんだから♪こんなとこに長くいると、大した楽しみなんてないんだから…
ましろちゃんを触れる楽しみも増えたしね♪』
『ましろも最初は嫌がってたけど、今じゃ身を任せてるもんな?』
『それは違うにゃ!逆らっても敵わないから、諦めてるだけにゃ…それにダーリンが世話になってるお礼もちょっとあるにゃ。』
『やっぱりましろちゃんは、かわいいな!』
会話にましろが入ってきたことにより、リアムはましろを愛で始める。
ましろを愛でながら、急に真面目な顔になり、
『そうだ、アランにましろちゃん…明日の鉱山での仕事の時間に作戦決行だ!とうとうここから出るよ!!』
『それじゃー、奴隷紋は消えたのか?』
リアムは、胸をはだけて見せてくる。そこには、奴隷紋の跡は跡形もなく消えていた。
『やったな!おめでとう!!』
俺とリアムは拳同士をぶつけ合った。
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