第53話 同郷

馬車に揺られること3日。俺はアーガイア鉱山へ到着した。


道中、本当は逃げ出したかったが、出来なかった。



謁見の間の外でのやり取りを見た国王と教皇が、俺たちを危険と感じたのか、ビアンカを国家転覆罪の恐れありと捕らえ、俺が無事にアーガイア鉱山へ到着するまで、王宮の牢に入れることにしたのだ。


そして俺には、

『もし道中何らかの方法で逃げ出したら、君の最愛の人が死ぬことになるからね。大人しくしているんだよ。』


と言ってきたのだった。


逃げ出せるはずもなかった。


しかし、鉱山の中から逃げることに関しては何の言及もなかった。


恐らく、逃げられる筈がないと思っているのだろう。



俺も1人ならそうだろうと思うのだが、俺の服の中にはましろが隠れている。ましろが協力してくれたら、不可能ではないと考えている。道中も、ビアンカの事がなければ逃げるのは簡単そうだった。


しかし、あの時のビアンカの言葉がなければ俺は全てを諦めていただろう。今俺の生きる意味は、ビアンカの元へ戻ること。そして、ビアンカを幸せにすることなのだ。



アーガイア鉱山に到着すると、まず裸にされ、粗末な服に着替えさせられた。ましろはうまく移動し、バレずに済んだようだ。


その後、牢獄に案内され、

『リアム、新入りだ!年も近いお前が色々と教えてやるんだ!!』

とだけ言い残し、看守は消えていった。



リアムと呼ばれたのは、どう見ても俺よりも年下の超絶イケメン男だった。


『新入りね…俺はリアム!この牢に入れられるってことは、なかなかの要注意人物なんだね?』


『アランです。こんな場所に似合わない色男ですね?』


『アランもそういう趣味の持ち主?俺を見ると触れようとしてくる奴多いんだ…個人の趣味は否定はしないけど、俺に触ってきたら骨の1~2本は覚悟しといてね!?』


『あっ!いや、違う違う!俺はノーマルですよ!!そういうのは俺も勘弁です。』

俺は必死に否定する。


『アランは面白いね?そんなに必死で否定しなくてもいいのに?それで、何をやらかしてここに入れられたんだい?』


『何も…!ただジョブが特殊だったから、国家転覆罪だっていきなり捕まった。悪いことなんて何もしてないのにな…』


『何それ?俺もここには長くいるけど、そんなレアな罪初めて聞いたよ。どんなジョブを選んだらそんなことになるのさ?』

リアムは笑いながら聞いてくる。


『遊び人です!どうせ聞いたこともないでしょ?俺の場合は、成人の儀で選択肢がそれしかなかったから仕方ないんですよ!』


『遊び人?賢者でも目指そうとしたの?

あっ、そうか!選択肢がないから仕方なかったのか…』


(ん?今の反応は…)


試しに俺はこちらの言葉ではなく、日本語で聞いてみる。

『リアムさん?もしかして、ドラ○エ3を知ってます?』


暫くの沈黙の後、

『えっ!?アランはもしかして、俺と同じように元日本人なの?』

リアムも同じように日本語で返事をしてきた。


『やっぱりリアムさんも転生者なんですね!?』



こうして、俺はこの世界に来て初めて元日本人と出会ったのだった。


それから俺たちは、懐かしい日本語でお互いを紹介しあった。


『それで、何故遊び人だったら国家転覆罪になるのさ?


あっそうそう敬語なんて必要ないからね!

多分俺の方が年下だしね?


俺のことはリアムと呼んでくれ。まさか、この世界で同郷と会えるなんて思ってもなかったから嬉しいよ♪』


『分かった。リアムと呼ばせてもらうよ。よろしく!


で、国家転覆罪のことだけど、1000年前に遊び人のジョブを持っていた女が3世代に渡って王国の王族・貴族を支配して、この国を疲弊させたらしい。


その時の権力者たちが、その人物を恐れて遊び人のジョブを持つだけで大罪としたらしい。この法律は、現国王でも覆せないほど重い法律らしい…』


『何それ?それってアランは何も関係ないじゃん?アランはそんなふざけた罪を認めてここへ来たの?』


『そんなわけないだろ!婚約者を人質に取られたから、ここへ入るまでは、いうことをきいただけで、必ず抜け出してやるさ!俺は必ずビアンカのところへ戻って、幸せにしてやるんだ!


そう別れ際に約束したからな。』


『お~!アラン今の格好良かったよ♪惚れてまうやろー!!』


『おー!なんか懐かしいな?そのフレーズ!若い頃に流行ってた気がする…


それで、リアムはずいぶんここにいるような口ぶりだったけど、何をしてここへ入れられたんだ?』



『2歳の時に父親を殺した罪だよ!父親の父、つまりは祖父に奴隷にされて、ここを抜け出すのを禁止された。それから約8年もここに閉じ込められている。』


そう言って胸をはだけた。そこには、うっすらと奴隷紋が刻まれていた。


『どういうことだ?2歳で父を殺すってのも大概だが、その胸の奴隷紋…なんだか消えかけてないか?俺の知識では奴隷紋は一度刻まれると心臓と同化して生涯消えることはなかった筈だが…?』


『アランはよく知ってるな!?俺はここへ入れられてから、ずっと呪耐性を上げる特訓をしてるんだ。見ての通りようやくその成果で、奴隷紋もほぼ無効化してるんだ。


あと少し、あと少しで俺はここから外に出れる。



そして、2歳の時に離ればなれになった母を探すんだ。生きていてくれたらいいのだが…』



『魔法は異世界に来てから憧れだったから色々と勉強したんだが、その時に呪術についても少しだけ学んだんだ。


だからこそ分かるが、リアムのそれは異常だぞ!?耐性を上げて、無効化…


それが、出来るのなら奴隷は誰でも自らを解放出来るのではないのか?』


『普通の人にはおそらく出来ないよ。俺の場合は、転生の際に自らの才能を創造してこの世界に生まれてきたんだ。俺の場合は、もし才能を全て開花させれば、神とでも互角以上で戦えるはずだ…


おそらく、今の時点でも一対一なら、この国では誰にも負けないと思う。』


『リアム?2歳の頃からずっとここにいたんだろ?それなのにどうして、この国の人間の強さを知ることが出来るんだ?流石に誇張し過ぎだと思うぞ?』


『俺の場合、気配感知で、この国の全ての生き物の気配を感じることができるんだ。そして、その生き物のおおよその強さも分かる。例えば、アランの服の中にいる、とても強く小さな生き物の気配とかもね。』


『驚いた。そんなことまで分かるのか!?紹介するよ。俺のペットのネズミのましろだ。ましろは、こちらの言葉は理解してるが、日本語は分からないから、言葉を戻そう。』


俺は言葉を戻してましろに声を掛ける。

『ましろ、服の外へ出てリアムに挨拶をしてくれ。』


『ビックリしたにゃ!突然ダーリンが不思議な言葉を話し出したと思ったら、リアムも同じような言葉を話し出したにゃ!?そしたら、いきなり私に声を掛けるんだから、ビックリするにゃ…』


『ビックリさせてごめんな。あれは、俺とリアムの故郷の言葉なんだ。リアムが気配でましろの存在に気づいてたから紹介しようと思ったんだ。』


『故郷の?リアムもラトルの出身にゃ?私はダーリンのペットのましろにゃ。よろしくにゃ。』


『うおー!アラン!!

何だ、このおもしろかわいいネズミは!?何でネズミなのに語尾がにゃーなんだよ?』


そう言ってましろを撫で始める。



(移動したのが見えなかった…)



『やめるにゃ!私を愛でていいのはダーリンだけにゃ。』


『この忠誠心もいいな!?ましろちゃん…最高だな!?』

リアムはましろのかわいさと触り心地にノックアウトされたようだ。


『こんなに可愛くて、この国では2番目の強さを持ってるなんてまじエンジェルだな?』


『2番目にゃ?1番はリアムなのかにゃ?』


『そうだね。ちょっとだけ試してみるかい?いつでも俺に攻撃して来ていいよ。本気でいいからね。あっ、出来るだけ物は壊さないように頼むね。申請が面倒なんだよね…』


『ほんとにいいのかにゃ?』

ましろは、恐る恐る攻撃を仕掛けてみる。しかし、リアムにあっさり捕まえられ触られまくることになる。


解放され、今度はましろも本気で動くことにしたようだ。



(全く見えない…)


リアムはニコニコしたまま、ましろの攻撃を右の人差し指1本で弾いてるようだ。



『駄目にゃ…どんなにフェイント入れても対応されてしまうにゃ。リアムは本当に私より遥かに強いにゃ。』


『ましろちゃんも、とてもネズミとは思えない強さを持っているよ。そして、まだ覚醒してないみたいだけど、そのうち今よりずっと強くなると思うよ。』



『ましろが全く相手にならないなんて、リアムは本当に強いんだな?』


『強さ自体に何の価値もないよ。大事なのは、自分の大事な人や自分自身がピンチの時に守れるだけの力、もしくはアイデアがあればいいのさ。


俺は2歳の時に頑張ったけどそれが不足していた。転生して、知識はあったはずなのに、油断してしまったんだ…俺は、そのせいで、こんなところに8年も閉じ込められている。


アランは本当に大事な瞬間に後悔しないように、大事な婚約者のところへ早く戻らないとな!?


そうだ!アランも俺たちと一緒に外へ出ないか?

おそらく、後1ヶ月もかからず俺の奴隷紋の呪いは克服できる。


そうしたら、俺は仲間たちとここを出るつもりだ。


ましろちゃんの協力があれば1人でも不可能ではないだろうけど、1人で行動するよりは遥かに可能性は高いと思うよ。』



『それは俺にとっても助かる申し出だ。是非協力してくれ!』



この出会いも、遊び人の運の良さによるものなのかもしれないが、俺はたまたま運良く、まもなく脱獄することになっていた、同郷のリアムと同じ牢獄に入れたのだった。





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