第52話 理不尽な罪
謁見の間で俺を待ち受けていたのは、国王と教皇だった。
実質国のトップ2人といっても過言でないすごい人たちから見下ろされ、俺は静かに固まっていた…
(俺は国のトップに裁かれるようなことを何かしたのか?)
静まり返った謁見の間に国王の声が響き渡る。
『我はヴェルサス・ルイ・クリスタリアである。
アランよ、主は何故ここへ連れて来られたのか理解しておるまい?』
『はい。私はこのように捕まるような理由が思い浮かびません。一体私は何をしでかしたのでしょうか?』
『それについては、この者が説明をする。
我個人は、お前の活躍に期待してたのだがな…残念だ。』
説明をするのは、アリスト教の教皇ロメロだった。
『お久しぶりですね?私のことは覚えてくれているでしょうか?成人の儀で話した君が活躍していると聞いて、喜んでいたんですが、非常に残念です…』
『勿論覚えてます。あの時はお世話になりました。
しかし、今の状況が全く理解できてないのですが、教えて頂けないでしょうか?』
『そうだろうね…
今日、君をここへ招いたのには大きな理由がある。君のジョブが「遊び人」だということです!
この王国には、限られた人間にしか閲覧を許可されていない、文献、歴史書、資料などを保管する図書館があるのです。
そこで記された、約1000年前の歴史の秘密を、私は読んだのですよ。そこに記されていたのは、1人の魔女の話…
3代にも渡ってこの国の裏側で王族や貴族を支配し、贅を極め、民を苦しめ、国を疲弊させた女。その名を【エメラルド】という。
…その女の持つジョブが「遊び人」だったのです。』
(俺より前に遊び人のジョブを持つ者がいたのか!?
…しかし、それと今回のことと何の関係が?)
『私以外に、遊び人のジョブを持つ者が過去にいたことには驚きましたが、それと今回のこと何の関係が?』
ロメロは、静かに再び語りだす…
『遊び人というジョブを持つ者が王国内にいるということ自体が大きな問題なのですよ!
その不幸な歴史の後、この国を建て直すため、当時の者たちは力を合わせ、再びこの国を復活させた。そのリーダーの者が、そちらにおられる国王の祖先となるのです。
その偉大な祖先たちが残した、記録と法律にこう記したのです。
ジョブ「遊び人」を許すな!ジョブ「遊び人」を国の権力者に近づかせてはならない!ジョブ「遊び人」は異性のいるところへ置いては危険だ!ジョブ「遊び人」の危険を感じたら、即殺せ!
とです…これがどういうことか分かりますか?』
『っな!?私自身何も悪いことをしていないのに、ただ遊び人のジョブを持つというだけで、私は殺されねばならないのですか?
私には、成人の儀の際にもお伝えしたように、他のジョブを選ぶ選択肢すらなかったのです。
それにジョブの能力をどう使うかは個人の問題ではないでしょうか?同じジョブを持つものでも善人もいれば、悪人もいます。
ある者は、その力で罪もない人間を殺すでしょう。しかし、ある者は、同じその力で、たくさんの人間を救うでしょう。
過去に同じジョブを持っていた者が、この国に対し、酷い行いを行ったことは非常に残念です。しかし、私は短期間ではありますが、この国のために、これまで尽力してきたつもりです。
決して、国や王族に対して謀反の意志はありません。教育を発展させ、この国全体の学力向上させ、皆に幸せに暮らして貰いたいとの思いで奮闘してきました。
最後にもう一度…決して私に謀反の意志はありません!』
俺は、精一杯今の流れに抗おうと述べたのだが、結果は変わらなかった。
ロメロが本当に残念そうに言う。
『流石に天才と言われてるだけありますね。とても12歳の少年の弁とは思えない、しっかりとしたものです。
それだけに本当に残念です。私も王も君のことは嫌いではないのです。むしろ、救えるものなら救いたいと、今も思っています。
しかし、先ほど話した記録と法律とは、王族やこの国の一部の権力者に残されたもので、この国の司法や王の意見ですら無視して優先されるものとして存在しているのです。
私や王であっても、君を無罪とする手立てはないのです。』
『そ…そんな……。。私は、その1000年も前にいた同じジョブを持った者のひどい行いのせいで、何も悪いこともしていないのに、このまま殺されるのですか…?
そんなのあんまりです。慈悲はないのですか?』
俺は、あんまりな無慈悲な状況に絶望するしかなかった。
ロメロはそんな俺に歩みより、優しく肩に触れると、
『安心して下さい。君を殺しはしません。法律に記されてるのは、ジョブ「遊び人」の危険を感じたら、即殺せ!です。
私たちは、今のところ君とそのジョブに対して何の危険も感じていません。しかし、だからといって放置もできないのです。まして、君は現在、時期国王候補上位3名の直ぐ側にいる。
それが許される筈がないことは理解出来ますね?』
俺は無言で頷いた。
『よろしい。では、君への罪状と刑を宣告しましょう。
アラン。君を、「国家転覆罪」の重大犯罪人として有罪とする。刑として、【アーガイア鉱山】にて、一生国のために労働するものとする。』
こうして、俺の嘘のように幸せな日々は、突然に壊れてしまったのだった。
謁見の間を出る際に、ハリーから話を聞いた皆が駆けつけていた。ロメロの慈悲で、一定距離離れたままの短時間の別れの挨拶は許可された。
『アラン、一体何をしでかしたんだ?』
エリスが聞いてくる。
『俺は何もしてません!
ただ、俺のジョブが問題だったようです。約1000年前に、俺と同じジョブを持つ者がいたらしく、この国を3代にも渡って支配し、疲弊させたそうです。
そのことから、この国では、俺と同じジョブを持つものはそれだけで大罪となるよう決まっていたそうです。
正直納得出来るはずもありません!
でも、俺はそれで、国家転覆罪で、重大犯罪人らしいです。こんなことで皆さんとお別れしなければならないのが悲しくて、辛くて……』
俺は涙が止まらなくなり、言葉が続かなかった…
『教皇ロメロ!アランはこの後どうなるのです?』
マリアが尋ねる。
『アーガイア鉱山にて、犯罪奴隷として一生国のために労働することになります。』
ロメロは無機質に話した。
一同それを聞き、絶句した。
『どうして!?何故なんです?何もしてないアランがそんな罪を負わないといけないのですか?納得出来ません!』
ビアンカが取り乱して、ロメロに掴み掛かろうとしたところを兵たちに取り押さえられる。
俺はそれを見て、せめてもの気持ちを伝える。
『ビアンカ!すまない…俺なんかと婚約してもらったのに、幸せにするって約束守れなかった。
俺のことは忘れて、せめて幸せになってくれ。』
ビアンカは俺を睨み付け、泣きながら訴えてくる。
『アランのバカ!何をもう全てを諦めてるのよ!?私は、あんたとだったら、この国を捨ててもいい!
この国でそんな理不尽な理由で罪になるのなら、どこか違う国に逃げてそこで幸せな家庭を築きましょう?
私は必ずあんたを助け出す!死ぬことになっても、絶対に諦めない!!
だから、お願い!アランも最後まで諦めないで!!約束通り私を幸せにしてよ!?』
『驚きました…まさか私たちの前でそのようなことを言うとは。。これも遊び人のジョブの魅了効果でしょうか?』
ロメロは、ビアンカの過激な発言に驚いているようだ。
俺もビアンカの言葉で目覚めるのだった。
『俺は何故諦めていたんだ…
ビアンカ!俺も、もう諦めない!!死を迎える最後の瞬間まで、この理不尽に抗ってみせる!
俺は必ずビアンカを迎えに行く!!だから、死ぬな!無理をしてビアンカが死ぬことの方が俺は怖い。。
そして、必ずお前を幸せにする!待っていてくれ!!』
その日のうちに、檻になった馬車を使って、俺はアーガイア鉱山へ向けて移送させられたのだった。
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