第31話 暗黙のルール

この世界には妾も、既婚者同士でなければ浮気すらも法的には認められている。


それでも同時に暗黙のルールというものがある。



妾にする気がない浮気はバレないようにしろ!というものだ。考えればそりゃそうなのだが、浮気をされて嬉しい婚約者や奥さんはいない。妾にするなら、家族になるのだから仕方ないが、そうでないなら知らないままの方がいいに決まっている!



では、俺の場合は…


勿論暗黙のルールで言えばバレないようにするのが正解である。しかし、俺の中の罪悪感がバレずにビアンカといつも通りに過ごせる自信がないのだ。


浮気をする甲斐性も覚悟もないままヤラカした男の末路はベッドで答えの出ないまま唸り続ける哀れな姿なのだろう…



『ダーリン、いい加減に起きるにゃ!たかが浮気をしたぐらいで悩みすぎにゃ!ダーリンなら、これからとんでもない数の女に求められるにゃ!一々悩んでたら身が持たないにゃん!?』


『俺は、別にたくさんの女性を抱きたいなんて思ってなかったんだ!ただ、ビアンカと普通に幸せにラブラブな生活が出来たらそれだけで満足だったんだ…


どうしてこんなことになってしまうんだろうな…今回のことで俺自身、自分でも知らなかった愛のないセックスを求める汚い自分を知ってしまった。俺はジョブだけでなく、心まで本当は遊び人なのかな?』


『しっかりするにゃ!本当の遊び人だったら、そんなことで悩まないにゃ!!スキルを悪用して、たくさんの女を食い物にして、生きていくだけにゃ!


ダーリンは女性を道具とは思ってないにゃ!


ちゃんと1人1人をちゃんと見てるにゃ!


だから、苦しむにゃ…アクティーのことも何だかんだで大事に思ってるにゃ…だから今苦しんでるにゃ!完全に遊びだとか、事故だったとは考えられないにゃ。



アクティーにも幸せになって欲しいって思ってるから、アクティーのいうエッチをするだけで満足という言葉に納得出来てないにゃ!


そんなことで、アクティーを幸せにできると思えるほど自分に自信がないからにゃ…



それで苦しんで、ふて寝するくらいなら色々頑張るにゃ!!


ビアンカもアクティーもこれからダーリンが出会う全ての女性もまとめて幸せに出来るくらい男として成長してみせるにゃ!!悩んでる暇も無いくらい努力していい男になるにゃ!!!』



ましろの言葉は、正直今の俺に響いた。


今の自分に人を幸せにする自信を持てないのなら、自信が持てるように、努力して成長すればいい。


納得できるだけの努力をしている間は、ビアンカにもアクティーにも顔向けできる気がしてきたのだ…


『ましろ、俺はこれから男として成長するために様々な努力をしようと思う。俺に協力してくれるか?』


『勿論にゃ♪』



俺は早速目的が「現実逃避」ともいえる意味不明な地獄の特訓を開始した。まずはと、ましろのスピードに対応出来るように、視認出来るギリギリの速度まで手加減してもらい俺を攻撃してもらう。



『ぐはっ!相変わらず早い上に、重い一撃だな…』


『これはまだ、全力の四分の一ほどにゃ!ダーリンならこれくらい対応できるはずにゃ!!頑張るにゃ♪』


『がはっ!』

『ぐごっ!』

「ボキッ!」

『うお!骨が折れた!!ちょっと待った!』

俺は折れて、ぷらーんとしている左手を見せつつましろに待ったをかける…


『そのくらいの怪我では本当の戦闘は終わらないにゃ…それくらいで諦める覚悟では、この先誰も幸せにできっこないにゃ!』


ましろはさらに俺の全身に突撃をかます…俺も必死に避けるがその殆どを食らってしまう。


『ましろ!待て!これ以上のダメージは下手すると死ぬ…』


その言葉が言い終わると同時に、俺は大きくぶっ飛び意識を無くす…




『あれ?もしかしてやり過ぎたにゃ?』


白目を剥いて気絶する俺を見て、ようやく本当にやり過ぎたことに気付いたましろは、すぐにビアンカの部屋に向かう。



『ダーリンが大変にゃ!ビアンカ助けてにゃ!!』


『何があったの?』


『取り敢えず、急いでついてくるにゃ!』


ビアンカは半分屍となっているアランを見つけ、驚いた。


『何故こんなことになってるの?誰にやられたの?大怪我じゃない!?取り敢えず、すぐ医務室に運ぶわ!』


ビアンカに運ばれて医務室で治癒魔法を受けた俺は傷は完治したが、骨折した部分は今日は動かしてはいけないと指示を受けたらしい。


傷は命に別状はなかったが、内蔵も含めダメージは相当なものだったようだ。



『ましろちゃん、一体何があって、アランはあんなことになっちゃったの?』


『ダーリンに、ビアンカを幸せにするために、もっと男を磨くから特訓に協力してくれと頼まれたにゃ…それで手加減してたつもりだったけど、いつの間にか興奮して張り切り過ぎたのか、ダーリンはあーなっちゃったにゃ。。ごめんなさいにゃ…』


『私のために特訓?あんなになるほど無理して?うれしいけど、そこまで努力してくれる理由が分からないわね…』



俺が目を覚ますと…目の前には申し訳なくて泣きそうな表情のましろと、今いちばん会いたくなかったはずのビアンカだった。


『ビアンカ!?あれ…俺どうしたんだっけ?』


『あんたは、何かの特訓中にましろちゃんにノックアウトされて、私が医務室に運んだのよ!』



(あ~そうだった!左手骨折して、ましろの猛攻に耐えられなくて…)


『ダーリンごめんにゃ…つい、やりすぎたみたいにゃ。』

ましろが謝ってくる。


『あっ!いや…それは。。俺が対応できず、情けなかっただけで、ましろは付き合ってくれただけだしな…ただ、今度からはストップと言ったら止まってくれると助かるかな!?』



『分かったにゃ!この前本気の戦闘したばかりで、つい力が入ったみたいにゃ…今度からはもっと手加減頑張るにゃ!』



(本気の戦闘?いつの間に…)



『ましろちゃん心配してたわよ!それにしても、どうしてまた急に特訓なんて始めたの?』


『色々なことに自信が持てなくて、ましろに相談したら、男を磨けばいいだけだって教えてもらって…特訓始めたはいいけど、始めるなりあっという間に、この様だったよ。


やっぱり、俺は情けない男だよ…』



『何をそんなに不安に思ってるかは分からないけど、そこまで焦らなくてもいいんじゃないの?まだ成人したばかりなんだし、社会人になってまだ2週間よ?努力はしないといけないけど、まだゆっくりでも許されるとは思うわ。』



(やっぱりビアンカは優しいな…愛しいけど、今は辛いな。)



『ありがとう!でもせっかくましろも協力してくれるし、もう少し頑張ってみるよ。』



『頑張るのはいいけど、やり過ぎて死んだりしないでよ!結婚する前から未亡人なんて絶対嫌だからね!』



こうして、不幸中の幸いか、あのままでは、自分からは絶対に近づけなかったビアンカと会うことができ、ある程度普通に話せていた。


そこも、ましろに感謝だな!



俺とましろはそれから毎日、時間の許す限り特訓をした。そして、3日後、エリスから呼び出しがかかったのだった。



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