第25話 御披露目会

研修の翌日、俺たち同期のメンバーは貸衣裳屋さんにいた。


本日の午後は王家の人間、近衛兵の先輩たちに俺たち新人の御披露目なのだ。


本来は、王宮の警備や門の警備に回されるのが普通なのだが、ここで王家の人間に気に入られれば、王家の直属の兵となれるのだ。皆張り切るのもしょうがないだろう。


『おー!ビアンカがカッコいい!』


『アランはちょっと普通過ぎない?もっとカッコいい衣装を借りたら?』


『嫌だよ…この衣装代最初の給金から引かれるんだぜ!安く済ませなくちゃ堪らないよ…俺たちはもうエリスさんのとこに決まったも同然だし、余計な出費は抑えないと…』


『どこのケチな主婦の発想よ…たまにはカッコつけて、恋人をドキッとさせようとか思わないわけ?』


『俺がカッコつけてもビアンカはドキッとはしないって!「衣装に着られてる」って笑って言われるだけだって…』



『そうかもしれないけど、気持ちの問題よ!』


俺たちが久しぶりにいつものノリで話してると、ユーゴが話かけてくる。


『やっぱり2人はデキテたんだな!?ただの同郷にしては仲良すぎると思ってたんだよ!同じ戦士のジョブだしちょっと狙ってたのに…チクショー!』


『ユーゴさん…なんだかしゃべり方変わってません?まるでイメージ別人なんですけど。。?』


『あ~公私混合はしないようにしているんだ。あのときは研修とはいえ職務中だったからな!普段の俺はこんな感じだ♪これからも気楽に話しかけてくれよ!?』


『はい!よろしくお願いいたします!…でもビアンカは渡しませんよ!!』


『はいはい!熱いね~♪最初から彼氏持ちの子と分かってたら口説いたりしねーって!!』



『そこは真面目なのね?恋愛なんて、奪い合いだと思うけど?』

今度は、アクティーが話に入ってくる。



『言うことが大人だねー♪そんなアクティーちゃんは恋人いるの?』


『今はいないわ!でも経験は豊富かもよ?

私ならビアンカを押し倒してでも奪うかもね?2人ともまだ経験も無さそうな恋愛ゴッコに見えるし…』

アクティーは妖艶な笑みで恐ろしいことを言った…


『なっ!?人の恋愛をゴッコ呼ばわりは酷いわ!私たちは真剣につき合ってるんだから!!』

ビアンカが反発するも…


『へー!じゃー!2人はもうヤルことやってるの?』



『結婚もする前にそんなことするわけないじゃない!今はキスだけで十分なの!』


『十分なのはビアンカだけでしょ?


男はね…溜まる生き物なのよ!!…ヤルことやらないと段々苦しくなってきて、ついには爆発しちゃうの!


…バーン!ってね!!』


『そ、そうなの?』

ビアンカが驚いた顔で俺を見てくるが…俺は何も答えられない。。


その時だ。今まで黙っていたラオスが口を開く!


『お前らいい加減にしろ!午後からは披露会なのに、緊張感無さすぎるぞ!!服が決まったなら王宮に帰るぞ!』


『おー怖っ!でもラオスの言う通りだ。ここからは緊張感持っていこうか!』

ユーゴが一応年長者として場をまとめる。




御披露目会は、王家のものたちとその護衛たちが勢揃いであった。演舞場のようなところで各自数分、言葉と演舞などで自分を自由にアピールするのだ。事前に言えば、剣の技を見せる藁人形などを用意してもらえる。


遠くからハリーが一生懸命手を振っているのが見えたので、軽めに返しておいた。エリスの前にはイアンが立っている。他の王家の者は初めて見たが、皆豪華できらびやかに飾ってる。



御披露目は年齢順に行うようだ。最初はユーゴからだ。ユーゴは、衛兵として働いていた経験を生かし、大人な口上と戦士としての剣技で場を沸かせていた!


次は、アクティーだ。俺と同じナイフを使うようで、素早い動きからの的確な的への攻撃、そして何より妖艶なルックスで愛嬌をばら蒔き、場を沸かせていた!(主に男性を)


次は、ラオス。武器は片手槍と大きめの盾を扱うようだ。スピードはそんなにないが、槍を使ったスキルでは、物凄い突きを見せていた。ナイトのジョブはどちらかというと防御に特化しているのだろう。演舞では、シールドバッシュというのだろう、盾で藁人形を吹き飛ばしていた。


そして、ビアンカ。いつものように可愛らしい華奢な見た目に反する、大きな両手剣を軽々振り回し、藁人形を10こ並べていたがあっという間に全て粉々に粉砕されていた。


今のビアンカは力どれだけあるのか気になるが…怖くて聞くに聞けない。



最後に俺の出番だ。俺は今回の御披露目で昔からの地味な特技を披露することにした。丸太の木を用意してもらい、2本のナイフでそれを斬りまくる。


斬り続けること数分、ただの丸太は細かい彫刻のように、リアルなブライト団長の姿に変わっていく。俺の唯一の異常ステータスの器用を全開にした技である。


盛り上がったのか、呆れられたのかが分からない微妙な反応に終わってしまった。しまった…誰もが知ってる顔をと思ったが、美女を作るべきだったか…?


遠くから、「アランちゃんの愛は受け取ったわ❤️」という声が聞こえる気もするが、いや聞こえない…




というわけでこれで御披露目会は全て終了である。衣装を返却し、一度集まると、アレッジさんよりこれからの説明が行われる。


『お前らには明日から、2週間の休暇を与える。合格発表の後すぐに研修だったため、合格したことを親に手紙すら送れてないだろう?手紙を出すのも良し、直接会いに戻るも良し。


その間、近衛兵の寮や訓練場は自由に使って構わん。残って自主トレをするのも良い!


ただし、この休暇の後は、配属先が発表され、そう簡単に長期で休めると思うな!俺は親元に一度戻って会ってくるのを勧める。』



こうして、俺たちは2週間もの休暇をいきなり得たのである。


『ビアンカ、とりあえず報告に村に戻るだろ?出発は明日でいいよな?』


『いいけど、今からなら急げば暗くなる前に村に戻れるかもよ?』


『今夜久しぶりに、ここの寮でましろと合流する約束してるんだ!』


『あー、そういえばましろちゃん研修の間どうしてたの?』


『王都の中で、自由にしてると思うよ!王都に来てからずっと相手する余裕もなかったし、俺のスケジュールだけ確認しにたまに戻るだけで、すぐにどこかに行ってたよ!』




アランが、王都に来てから2週間の間、ましろは広い王都に渦巻くとある陰謀に巻き込まれ、大いに奮闘していたのだが、それはまた別のお話…


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