第24話 研修

就職試験の翌日、俺とビアンカは結果を見に行った。事前に聞いていた通り、2人とも合格であった!


400人近く受験者がいたはずだが、合格者は俺たちを入れてたった5人だけだった。ブライト団長落としまくったな~。



エリスとイアンも俺たちの合格を知り喜んでくれた。


『しかし、ブライト団長が出てきたのによく合格出来たな!?あの人、気に食わないと平気で全員落としちまうしな…昔それで色々と揉めたことあるらしいぜ!』


『俺の場合は、運が良かったんですよ!

今回の試験の謎かけの答えを事前に知ってましたから♪』


『謎かけ?』

イアンが興味深々で聞いてくる


『攻撃するから、耐えろって言うのがテスト内容で、攻撃するなと言われてないので、攻撃をすることによって最大の防御とするってのがなぞかけの答えです。


勿論完璧に防御や躱すことで耐えるのも合格でしょうが…手加減されてても、あの人の攻撃をただ避けるのは辛いと思います。』



『なるほどな!よくそんな意地悪な課題の答えを知ってたな?』


『昔、本で読んだことありまして…』




『アラン、ビアンカ、これでまた一緒に過ごせるな!今から楽しみだ!』


『嬢さん、まだこれから1週間の地獄の研修があってようやくだ…アラン、ビアンカ…生き残れよ!』


イアンが不吉な言葉を残して笑っている。



『止めてくださいよ…そんな不吉なことがある研修なんですか?』


『いや、只只きついだけだ!途中で脱落したら、内定は取り消しだしな。毎年恒例の研修で、半分近くは脱落するのが通例だ!まあ、根性さえあればなんとかなる、頑張ってくれ!』


益々、嫌な顔でニヤついている。



『イアンさんでも去年クリアできたならなんとかなるんじゃない?絶対私の方が根性あるもん♪』

ビアンカが返す。


『確かにな…ビアンカには勝てそうにねーぜ!そんなビアンカに一応先輩としてアドバイスしといてやる。ほどほどに…張り切り過ぎるときついぜ!』



『何か意味ありげだけど、よく考えたら当たり前のこと言ってるだけじゃないです?』



『どう捉えるかは2人次第だ!頑張ってこい!!』




こうして、その日の午後から早速俺たちの1週間の研修が始まった。



『ではこれより、王国近衛兵の新人研修を始める!私は、この研修を担当するアレッジだ!今年は5人と少々少ないが、少数精鋭であろうと期待している。


まず始めに、お前らの今の力を見せて貰おう!そこにある砂の入ったリュックを担いで腕立て30回!無理そうな者は砂を減らし続きを行っても構わん!終わったらその重さを確認する。ただし、一度減らした砂は絶対に戻すことは許さん!では始め!!』


俺は、リュックの重量を確認する…

(うはっ!これ…30キロ近くないか?)


周りを見渡すと、俺以外の4人はそのままのリュックのまま挑むようだ…


(なるほど…この課題の趣旨が分かってしまった。イアンさん感謝です!)


俺は砂を重いが無理ない程度まで減らし、挑戦を始める。予想通りぎりぎり30回連続成功して終わる。


他のメンバーは、途中で限界が来て、腕をプルプルさせながら仕方なく砂を減らし、また挑戦をするが、既に体力と筋力を奪われているので、やはり限界がくる。砂を再び減らし、さらに挑戦を…30回をクリアする頃には砂は予想以上に減ってしまっていた。


結果、俺は1位で20キロ、他は10キロ前後という結果となった。


アレッジさんは、1位だった俺に尋ねる。

『1位のアラン、この課題の趣旨が分かるか?』


『この課題は自らの限界を知り、いい格好しよう、ライバルよりよい結果をという心理を上手く抑えられるかを学ぶためのものだと思いました。』


『半分正解で、半分足りないな!他の4人は、今アランが言った通り己を知り、もう少し頭を使うことを覚えろ!


残りの半分だが、この課題の結果は、本日の訓練のあいだ、お前らが背負う重りの重量を決めるためのものだ!



…喜べ、アラン。お前は他のメンバーの約2倍の負荷を付けて鍛えることができる。乗り越えられればそれだけ成長できるぞ!!


この課題はお前みたいな先読みする賢いやつにもいい教訓を与えてくれる!ガッハッハ。』



(んな馬鹿な…!!イアンさんのヒントが逆効果になっちまった…でもたった1日だ…気合いで乗り切れば、後は何とでもなる…はず…要はペース配分だ。)



必死に自分を鼓舞して前を向こうとした。

しかし、この研修はそんな甘いものではなかった。1日目は腕立ての後は、腹筋と背筋も30回ずつ。懸垂10回、100メートルダッシュ10本、剣の素振り100本、最後に20キロ走だった。これを20キロ抱えてこなすのだ。


他のメンバーは、次々と先にメニューをこなしていく中、俺は黙々と自分のペースを崩さずこなしていくしかなかった。


俺以外のメンバーは夕方にはメニューを終え、解散する頃、俺はようやく最後の20キロ走を4キロほど走ったところだった。


12キロを迎える頃には辺りは真っ暗になり、足の裏は豆が潰れ、1歩歩くだけで激痛が走っていた。ものすごく痛いが、一度止まってしまえばもう2度と立ち上がれない気がして、また1歩、さらにもう1歩と歩を進めるしかなかった。


幸いしたのは、その痛みのお陰で気絶はせずに済んだことか…



こんな訓練現代科学の世界ではあり得ない!逆効果じゃないのか?と頭の中では、現実逃避なのか、そんなことばかり考えていた。


残り3キロを迎えるころには、いつまでも戻らない俺を心配してビアンカが戻ってきていた。ボロボロの俺の姿を見て、


『アラン…もうボロボロじゃないの!?そこまで頑張らなくてもいいじゃない!元々近衛兵志望でもなかったんだし…こんなの酷すぎるわ!!』


と、ビアンカが泣いてくれている。その涙が俺に力を与えたのか、もういいだろ?諦めよう。。このまま床で寝てたい…とばかり考えていた俺は、残り3キロを意地でも走りきることを誓うのだ。


それから約2時間後、ようやく最後まで走り抜き、俺はそのまま気絶した。俺には記憶にないが、アレッジに抱えられ医務室に連れてこられたそうだ。



俺が目を覚ますと、

『よく、1度も泣き言も言わず、最後までやり通した!俺はお前を見誤っていたことを詫びよう。


先読みできる賢いタイプの人間は基本根性がないのだ。ちょっとしたら、すぐやれこんな訓練意味ないだの、身体を壊すだけだの、辞める理由ばかりを考えて、諦める。。


しかし、それではいかんのだ!

王家を…王国を守るためには、どんな苦境に立っても最後まで諦めず足掻き続けねばならん!


特に人に指示を出す賢いタイプの人間はそれではいかん!!それが出来ないやつは、いざ状況が劣勢に陥ると自分だけ先に逃げ出すのだ!そんなやつ、王国近衛兵にはいらん!


今日の訓練はそれを教えるためのものだったのだが、お前には最初からそれを備えていたようだ!』



『いえ、俺はそんな出来た人間ではありません。。


頭の中ではずっと止める言い訳ばかりを考えてました…


それと同時に俺が近衛兵として立派に研修を終えることを待ってる友の応援の声を思い出していたんです。


そして、最後は俺の大切な人ビアンカを1人残して俺がここを去る訳にはいかないという、男の意地だけでした。。』


『いい理由じゃねーか!大切な友を、恋人を守るために命を賭けても戦う!下手な綺麗事よりも分かりやすくていいぜ!それと、やっぱりお前らデキてたのか…研修中は、イチャつくなよ!』



こうして、研修1日目はなんとか終わったのだった…




2日目…


全員、全身筋肉痛で動きが重い。俺も昨夜は医務室で回復魔法を受け、足の怪我は完治したのだが、全身筋肉痛で痛すぎてロボットのようにしか動けない。回復魔法は傷は癒せるが、疲労は回復しないのだ。


『おはよう!今朝はまず最初に、自己紹介をしてもらう。ラオスから時計周りで』


『俺は、ラオス・モーガン。12歳、今年成人だ。ジョブはナイト。兄が同じ近衛兵で働いていてる。俺も兄のように立派になれるよう頑張りたい。』


『私はアクティー、16歳よ。ジョブは内緒♪今までは、実家の家業を手伝ってきたけど、今度就職することにしたの♪よろしくね!』


『俺は、ユーゴ。18歳だ。ジョブは戦士だ。今まではこの王都で衛兵をしていた。少し俺が年上だが、気にせず仲良くしてくれ!』


『私はビアンカ。12歳、今年成人よ。ジョブは戦士で、王都の側にあるラトルという村の出身よ。よろしくね!』


『俺はアラン、12歳で今年成人です。ジョブは内緒です。ビアンカと同じラトルの村出身で幼なじみです。よろしくお願いします。』


『よし!自己紹介終わったな。しかし、ジョブを内緒とは珍しいな?最近はジョブを隠すのが流行りなのか?俺の若い頃は、みんなにジョブを自慢してたもんだが!!』


アレッジさんが楽しそうに言ってくる。



『俺の場合は、ちょっと悪い意味で、珍しいジョブでして…よっぽど仲良くならないと恥ずかしいのであまり教えたくないなーと…』


『世の中に恥じるようなジョブなんて1つもないはずだがな…まあ、無理に聞こうとは思わんが、これから一生相棒になるものだ。せっかく手に入れたジョブを嫌いにならんようにな!』


『はい。ありがとうございます。』


『さて…そろそろ身体も少しは楽になってきた頃か?では、今から訓練を開始する!今日からは重りはないが、内容は昨日なんて比じゃないから覚悟しておけ!まずは…』



俺たちの地獄の訓練はこうして本格的に始まった。


内容は地味だが、地獄…


徹底的に体を苛めぬくだけのものだった。初日の俺のように、訓練が終わると気絶することもざらで、誰も口を聞く体力もなく、同期で仲良くなって青春なんてことは、欠片もなく1週間が過ぎた。


俺とビアンカですら、朝の挨拶しか会話する余裕すらなかったのだから仕方ない。



結果は、全員耐え抜いた。

この1週間の特訓で、体力、力は格段に上がった。そして、忍耐力も…



研修を終えると、イアンが会いに来てくれていた。


『ご苦労だったな。その様子じゃーかなり搾られたようだな?』


『無茶苦茶きつかったわよ!去年イアンさんがあの研修を乗り越えてたなんてとても信じられないわ…』


ビアンカが失礼なことを言ってるが、俺も気持ちは分かる…



『なんだ、俺のアドバイス役に立ててなかったのか?この訓練は初日以外は、頑張れば頑張るほど内容がきつくなっていくから、ほどほどで頑張り過ぎるな!ってアドバイスしてやってただろうが…』



(…っえ?そういうことか。。)


『もっと分かりやすく説明しろー!』×2



『いや…どう考えても、かなり分かりやすいヒントだったぞ?』



こうして、俺たちはようやく正式に近衛兵として雇われることになったのだ!


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