第5話 エリス・ローラン
俺たちが付き合いだした夜は…
勿論何もなかったよ!ビアンカはベッドで、
俺は床でぐっすり…
できなかった。
昨夜の俺はビアンカの唇を思いだし、悶々としてなかなか寝付けなかったのだ。だからといって、ビアンカに何かする勇気なんて欠片もないヘタレなやつなんです。
『おはよう♪いい天気ね?今日からレベル上げ頑張りましょう!』
『おはよう。ふあ~』
アクビがでてくる。
『何だか眠そうね?昨日は床だからぐっすり寝れなかったの?』
『いあ!いろいろ考えてたら、なかなか寝付けなくて…』
『一体何考えてたのよ?ちゃんと寝とかないと今日からきついわよ!』
『いろいろは、いろいろだよ!』
君に悶々と盛ってたから寝れなかったのです。とは死んでも言えない…
『先にここの宿代の30ルピーを返しとくよ。朝食はどうする?宿で食べて行く?』
『ちゃんと覚えていたのね。朝食よりもダンジョンに早く潜りたいわ。お腹空いたらネズミちゃんを食べましょう?』
宿を出ようと受け付けに行くと、昨日の女将がいた。
『あらまあ…昨夜はお楽しみだったみたいだね♪でもまだ若いんだから、朝はもうちょっとシャキッとなさい!』
と微笑ましそうに見てくる…
『おはようございます!そ、そんなんじゃないですって。。』
『もう変な言い訳なんてしなくていいから…すぐ行くわよ!女将さんお世話になりました。』
顔を少し赤くしたビアンカに手を引っ張られる。
『もう!アランが眠そうにしてるから…
しかもあんな反応したら、いかにも肯定してるようなもんよ!
アランのせいで朝から恥ずかしい思いさせられたわ。。ほんとバカ!…』
『ゴメン!そんなつもりはなかったんだけど…』
俺の言い訳は虚しく聞き流されるだけだった。。
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ダンジョンとは、【ダンジョン核】と呼ばれる宝石が地中に生まれることによって生じる。
ダンジョン核はその誕生と同時に自らの体を作るように、ダンジョンそのものを地上へと複雑に伸ばす。
その中には多くのモンスターを生み出し、餌となる人間や動物が来るのを今か今かと待つのだ!
ダンジョンは時には人間にはとても作ることが不可能な武器や防具やアクセサリーなどの宝を生み出し、一攫千金を狙う人間の欲を巧みに刺激をして餌を集める。
そのため、ダンジョン内で死亡した場合、1時間ほどで人間もモンスターもダンジョンに消えるように吸収される。。次のモンスターや宝を作る材料にされるのだ。。
そんな欲にかられた人間たちにとって、1番の宝はもちろんダンジョン核そのものである。
核そのものを持ち帰ると、錬金術や武器作成で大変貴重な素材となるため、質が良く大きなものになると一生遊んで暮らせるほどの財を成すこともある宝物だ。
また、ダンジョンの最奥の部屋の中で結晶核を破壊すると、その時にその部屋に居たもの全員にダンジョンが溜め込んでいた魔力の一部を得ることが出来る。
つまりは魔力が上がり、魔法を使えるものはその威力や使用回数が増え、生まれつき魔力0の者にとっては現在判明している唯一魔法を使えるようになる可能性なのである。
ダンジョンから結晶核を持ち去った場合も、破壊した場合も、ダンジョンは魔力の循環が終わり、新たなモンスターは生まれなくなる。
それから数ヶ月もすると徐々に崩れ始め、1年もする頃にはダンジョンはこの世から完全に消え去る。
こちらはあまり選ぶ人間はいないのだが、ダンジョン核に初めに触れた者はダンジョンのマスターになる選択もできる。
その場合はダンジョンで循環する魔力を使い自分の好みのダンジョンに作り変えることが可能である。ダンジョンマスターになるとダンジョンの魔力の影響で体は不老となり、徐々に全能力も向上して行く。
それだけ聞くと選択する者も多そうに感じるだろうが、ダンジョンを上手に運営することは難しく、常に他の者たちにダンジョンを攻略されるリスクがある。
その場合、ダンジョン核は他人に奪われるか破壊され、ダンジョンマスターとしての能力は失われ、それまでの期間に向上した能力のみが残るのだ…
能力向上も、向上する速度が非常に遅く、核を破壊する時に一瞬で得られる魔力分の成長には約10年のダンジョン運営が必要となると言われている。
もちろんダンジョン核も自らを守るために、他のモンスターよりもはるかに強力なボスモンスターを生み出す。例えダンジョンの最奥まで訪れることが出来ても、この強力なボスモンスターを倒さない限り、ダンジョン核を得ることは出来ないのだ!
今回俺たちの挑むダンジョン「チューケイブ」は、ダンジョンの中でもかなり特殊な部類に入る。
全2階層で構成され、通常ダンジョンなら必ずあるボスのいる部屋、通称【ボス部屋】がどこにも存在しないのだ。そのため、その奥にあるはずのダンジョン核も未だに未発見なのだ。
どこかから隠し階段があり、3階層以降もあるのではないかと言われているが、ダンジョンが発見されて約500年、1度も発見されていない。
国も王都のそばにあり、モンスターも弱く、大量に発生し、常時食料確保できるダンジョンが存在してもらう方が助かるという事情も相まってボス部屋の探索は行おうとはしていないのも理由の1つかもしれない…
俺たち2人がダンジョンの入り口に到着すると、予想通りそこは人でごった返していた。
『神官の方いませんか?一緒にパーティーしませんか?』
『戦士、武道家、魔法使い、他火力職の方ご一緒しましょう!』
皆限られた時間に効率良く経験値を稼ぐために、パーティーメンバーを募集しているようだ。
必ずしも大勢である方が効率いいとは限らないのだが、安全性と夜営の際の見張りの負担を考えると人が多いに越したことはないのだ。
こういうダンジョンの前などではよくある光景なのだが、俺には関係ない…遊び人を募集してることなんてあり得ない。。むしろこの中に遊び人のジョブを知ってる者すら1人もいないだろう。
『君かわいいね!?ジョブは何かな?俺たちが効率良く経験値を稼がせてやるから一緒にダンジョン行こうよ!?』
『モール君はレアジョブ「ナイト」持ちなんだぞ!』
『モール君に声を掛けられるなんて超幸せ者だぞ!』
軽そうな男3人がビアンカに声をかけてくる…こういう輩もなぜか大抵いるものだ。。あからさまなナンパ目的の募集…
『俺の連れに何か用ですか?』
『何だお前…?この子の仲間か?お前みたいな弱そうなやつにこんなかわいい子は勿体ない!後は俺らが面倒みるからどっか消えろ!』
2人にモール君と呼ばれてる、おそらくリーダーであろう男が理解不能な因縁をつけてくる…
いつもなら、こんな奴らビアンカ自身がぶっ飛ばして終わりなんだが。。昨夜付き合いだしたばかりの俺としては…黙ってる訳にいかない!
『あんたらねー!』
ビアンカがいつものように動こうとするが、俺が間に入り邪魔をする…
『この子は俺自身も、俺なんかには勿体ない彼女と思うけど…れっきとした俺の彼女なんだ!
…お前らみたいな汚い手で、人の女に手を出そうとすんじゃない!!』
1度は女性と付き合いだしたら言ってみたい「俺の女に手を出すな」…俺が言うと何だか格好良くなってない気もするが…気のせいだろう。。
『なっ!女の前だからって格好つけやがって…』
モール君はなぜか俺に殴り掛かってくる…
(なぜ彼氏持ちにナンパした奴らの方がキレるんだ?理解できん。。しかも、動きが遅すぎる…俊敏100無いんじゃないのか?殴り倒してもいいが、こいつらが万が一貴族とかだったら厄介だし、無力化だけしとくか…)
俺はモール君のパンチを躱しすれ違う…
「パサリ…」
こういうモブをやっつける時の定番のズボン落としだ!ついでにモブAとBのズボンも落としとく。俺は、俊敏器用特化ステータスだからこういうのは得意だ!
『モール君!ズボンが!!…』
『全員だよ!人の女にちょっかい掛ける暇があるんならその汚いパンツを洗って出直して来い!』
俺はどこかで聞いたことあるような決め台詞をキメてみる!
『おぼえてやがれ!!』×3
どこの世界でも小悪党の捨て台詞は同じらしい…
『アランやるじゃない!俺の女宣言、アランらしくもなく珍しく格好良かったわよ!!』
ビアンカにこれまた珍しく男として誉められた。そして、なぜか周りからは拍手が起きている。
『君やるじゃないか!とても、いい動きだった!何よりあのナンパなムカつく奴らへ決め台詞がキマッてた!!』
拍手してたギャラリーの中から、ちょっと色っぽい魔法使い風の女性が声を掛けてくる。その後ろには2人の男性が控えていた。
『ありがとうございます。えっと…』
『私はエリス・ローランだ。後ろにいるのは、イアンとクリス。多分あなたたちも先日成人の儀を迎えた同期で、これからダンジョンに潜るのだろう?
私たちは3人、貴方たちは2人、合計5人。パーティーを組むのにちょうどいいと思うのだけど、どうだろうか?』
『エリス様!そんなどこの馬の骨とも分からぬ者をパーティーに誘ってはなりません。』
『クリス黙りなさい!私が気に入った者を、何の根拠もなく卑下するのでしたら、私の側付きとして必要ない!直ぐにこの場から去りなさい!!』
『すみませんでした。差し出がましいことを申し上げました。』
『どうでもいいんだけどさ~当の本人たちを無視してっから、あの2人完全に時間止まってるぜ!?』
もう1人の男…おそらくイアンが初めて言葉を発する。
『それはすまなかったな!2人を決して無視するつもりはなかったのだが…ここにいるクリスは少し堅物なところがあってな、少々うるさいのだ。』
俺とビアンカは顔を見合せ、エリスと向き合う。
『いえ、それは全然構わないです。私たちはどこの馬の骨と思われても仕方ないとは思うし…
ただ…エリス様?とお呼びした方がよろしいでしょうか?
私たちのジョブすら確認せずパーティーにお誘いされているのが不思議なんですが。。パーティーの構成で狩りの効率は大きく変わりますので…』
ビアンカがいつもとは違い、一生懸命辿々しい敬語を使っている…
『エリスでいい。それと敬語もいらない。貴方たちは私の部下ではないのだから。
少々の効率なんてものに拘り、共に過ごす者の質に拘らないのは、余裕のない人間のすること!気に入った者たちと出逢い、共にその瞬間を過ごすこと以上の価値がその効率とやらにあるとは思えぬのでな!!』
(うわ~すごい男前!多分かなりいいとこの貴族のお嬢様なんだろうけど…これって誘われた時点で断るって選択肢すらなさそうな展開なんだけど。。)
『お誘いありがとうございます。
俺はアラン、こっちはビアンカです。お言葉に甘えて出来るだけ敬語は使わないようにしたいとは思ってるんですが、ビアンカと違ってあまりフランク過ぎるしゃべり方は得意ではないのでそこは勘弁して下さい。
それでパーティーを組む話なんですが、俺としては構わないとは思っています。ただ、心配なのは俺のジョブはちょっと…かなり変わってまして。。
ジョブのことを話して、もし一緒に行動するのが嫌だということでしたら遠慮なく言ってください。』
『ほう!変わったジョブか?それは面白そうだ。だが、ジョブのことは連携のために勿論話す必要はあるが、パーティーを組む前に聞く必要はない!
さっきも話したが、私はアランとビアンカが気に入った!だから、誘った!それでいい。
ビアンカもアランのジョブなど関係なく、一緒に過ごしたいからパーティーを組んでいたのであろう?私も一緒だ!
ジョブとパーティーを組むのではない!アランとビアンカとパーティーを組むのだ!!』
(格好良すぎて涙出そうだよ…何この人?物語から飛び出したの?)
俺たちはパーティーを組むことになった。選択の余地なし、あそこまで言われて断れる人いたら逆に尊敬するよ!
勿論ジョブの話を5人ですることになる。
『エリスだ。ジョブは【賢者】。改めてよろしく頼む!』
(しれーっと伝説級のジョブを言いやがる…俺以上に変わったジョブじゃないか。。)
『!?……え!?あの物語に出てくるあれですか?』
ビアンカは口が空いたまま固まってしまった。
『そんな大したものではない…レベルは上がるの遅いし、レベルが低いうちは普通の魔法使いとそんなに変わらない。
利点はあらゆる魔法を修めることができることくらいだ。』
『それがすごいことじゃないですか!!』
俺は自分が魔力0の魔法の才能なしだから羨ましくてしょうがない…
せっかく異世界に転生して、剣と魔法の世界にやって来たのに、魔法の才能がないからどんなに努力しようと魔法がそもそも使えないのだ…
最初にこのことを知ったときには、落ち込んで暫く復活に時間がかかった。
『俺はイアンだ!ジョブは【狩人】。弓の腕と、気配感知ができるから索敵は任せてくれ。』
『私はクリス・モーガン。ジョブは【神官】だ!回復魔法と棒術の心得がある。
最初に言っておくが、俺はまだお前たちを認めた訳ではない!もし、少しでもエリス様を害そうとしたら、問答無用で叩きのめすからな!』
『クリス!私を守るのがお前の仕事なのは分かってるが、あまり脅すでない!』
『はっ!気を付けます』
『大丈夫です。クリスさんはエリスさんのことを大事に思っての言動と分かりますので、もう怖いとは感じないです。
むしろクリスさんもクリスさんらしく振る舞ってください。私たちは大丈夫ですので。。
私はビアンカです。ジョブは戦士。前に出て、両手剣でガンガン敵を斬り倒すのが得意です。』
『俺はアランです。ビアンカとは幼なじみで、今は付き合ってます。ジョブは遊び人。
まだよく分かってないジョブなんですが、運が良くなり、変わったスキルを覚えると説明には書かれてました。
両手にナイフを持って戦います。力が低いので一撃はないですが、俊敏と器用が高いので状況に応じてうまく立ち回ります。』
『遊び人!?本当に聞いたことないジョブだな!運が良くなるのは、どの程度かにもよるが…実はすごい能力かもしれないな。努力では伸ばせない能力だしな!
ジョブを得て、何か変わった感じはあるのか?』
『このジョブの話を最初からそんなに前向きに聞いてもらえたのは初めてです。運が良くなったと感じるのは、レベル上げをした際に、エンカウント率が上がったこと、モンスターのルピーのドロップが良かったくらいです。
後は、昨夜ここへ到着した時に、どの宿も一杯だったようなんですが、女将とその話をしていたところ、ちょうどこれから出かけることになったとキャンセルが入り、部屋を取れたことくらいです。これはジョブは関係なく偶然運が良かったのかもしれませんが…』
『ほう!戦闘だけでなく、そんなところにまで影響が出るとはやはり面白い能力かもしれないな!
…さて、自己紹介はこのくらいにして、そろそろ中に入って実際に戦闘をしてみようではないか!?細かい話はモンスターを探しながらでも出来るだろう。』
こうして俺たちはダンジョンの中に入るのだった。。
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