第2話 ジョブ【遊び人】

翌朝、俺たちはまだ日も昇る前に村を出た。


近いとはいえ片道4時間以上かかるのだ。街道は整備され、王都に近いこの辺りの魔物は兵や冒険者によってほとんど駆逐されてはいるが、それでも先日のゴブリンのように0というわけではない。


一応の警戒は必要となる。



もちろん地球のように移動に車、バス、電車は一切ない。この世界の移動は基本歩きである。


馬車もあるが、維持するのに大変お金がかかるので、荷を運ぶ商人やお金持ちくらいしか持っていない。



公共の移動は、大きな街同士を定期的に往き来する乗り合い馬車のみだ。


料金は…正直かなり高い。



定期的にと言うと日本人は何曜日の何時に出発など、時間で定期的に出るものだと思うだろうが、こちらの世界では乗り合い馬車の受付で「○○町に行く馬車に乗りたい。宿は△△に泊まっている」等必要な情報を伝え、前金を払い、引き換えにチケットを貰う。


出発に必要な人数が揃ったら、宿に翌日の朝どこに集合と連絡が来る仕組みとなる。場合によっては何日も待つことになる。



もしこの時、急ぎで早く出発したい用事があれば、残り必要な人数分の代金を急ぎたい者が負担すれば出発も可能となるのだ。



日本人が聞くとすごく不便そうに感じるだろうが、魔物も出るような世界で命を賭けて移動するのだ。少しでも損失が出るボランティア経営などありえないのだ。



とはいっても王都に近い俺たちの村からはもちろん徒歩。


この日は、何事もなく王都へ到着することができた。

門の前ではいつものように多くの人が列を作っていた。


その中には、スムーズな往来を目的にこの日を含む前後3日だけ解放される、成人の者専用の列が存在していた。俺たちはもちろんそこへ並ぶ。


『成人の証を提示せよ!』

各村や町の長が用意し、今年の成人を証明する証である。俺は誇らしげにそれを提示する。


『よし、通っていいぞ。成人の儀を楽しんでおいで!』

強面の門兵が優しい笑顔で言ってくれる。きっと俺らを通して、自身の成人の儀の日を思い出しているのだろう…




王都の中は、相変わらず人でごった返していた。大通りには屋台が立ち並び、美味しそうな匂いを漂わせている…



『ちょっとまだ早いけど、昼飯代わりに何か食べないか?』

ビアンカに提案すると


『いいわね!ご馳走になるわ♪私あの串に刺さった肉が食べたい♪』


『俺の奢りかよ!?まあ、いつもお世話になってるし、それくらいいいか…』


『おっちゃんその串2本頂戴。』



屋台のおじさんは、串を用意しながら

『いらっしゃい。2本で4ルピーね♪おっ!もしかして2人は成人の儀かい?』



この世界の通貨は、モンスターの体内にある魔石をそのままルピーとして使われる。


魔石とはモンスターの魔力の源で、モンスターが死ぬとなぜか体内から勝手に出てくるのだ。


ある意味モンスターは歩くお金製造機なのだ。


モンスターの魔力保持量によって魔石は色や大きさが異なっており、ゴブリンやコボルトなどの雑魚モンスターは大体1ルピーの魔石となる。


たまに運が良ければ、ゴブリンでも魔力量の多い個体がおり、10ルピーの魔石を持っていることもある。


魔石の価値の判別方法は国により明確に定められており、細かい説明は省くが1ルピー、10ルピー、100ルピーとして使われる。


強いモンスターのなどの魔石は、別の使い道があるので、ギルドなどで高く買い取りが行われる。


高級な物などは金貨が使われることもある。金貨は1枚は10000ルピーで交換される。


1ルピーが日本で言えばおおよそ100円の価値だと思って貰えればいい。つまり、串焼き2本で4ルピー=400円となる。



『うん!これから神殿に向かうとこだよ。はい、4ルピー!』


『そうか…いいジョブがあればいいな!頑張ってこいよ!!』


『ありがとう!』


大人は皆経験のあるこの日は、ある意味国を挙げてのお祭りなのだ。俺はどんなジョブになるんだろうな…




神殿の前には同年代の若者たちが溢れかえっていた。皆新たな自分の可能性に期待とドキドキが半分といった感じだ。中には野心に燃えて、目をギラギラさせてる者もいた…



『すっごい人だな!?流石にちょっと緊張してきたよ…』


『そうね…早く終わらせてドキドキを喜びに変えましょう♪』

ビアンカは俺の手を繋いで入り口へ引っ張っていくのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



神殿の中には大きな聖堂が広がり、既に何百人もの若者が座していた。俺たち神官たちの案内で空いている席へ座った。


暫くすると、ひときわ豪華な法衣を着た神官が現れ語り出した…



『皆さん、成人おめでとうございます。私は【アリスト教】の教皇を務めさせて頂いてます【ロメロ】と申します。


本日は絶対神【アーレス】様の御許にこれだけの子供たちが集まり、新たなジョブを得られる瞬間に立ち合えることを大変光栄に思います。


選択肢の数は1人1人違いますが、多くのジョブから1つを選択することは大変難しく、未来の自分に対して責任を伴う重要な分岐点となります。決して安易な気持ちではなく、よく考えて選択するようにして下さい!


あなた達に輝かしい未来を!…アーレス』


と手を合わせお祈りを捧げている。



『では、これより成人の儀を執り行います!まずは皆さんはその場で「オータス」と念じて下さい。』


(オータス!)

皆一斉に念じる。そしていつも通りの表示がされる。


名前 アラン

種族 ヒューム

年齢 12歳

力 84

体力 73

俊敏 118

器用 168

知力 96

魔力 0


ジョブ なし

称号 転生者、神ファルスの加護を受けし者、魔物を狩りし者



『ステータスが表示がある状態になったら、続けて「プロファッション」と念じて下さい。』



(プロファッション!)

聖堂の前方にあった神アーレスの石像が光り、目の前にジョブ選択画面が現れる。



【次の中からジョブを選択して下さい】

1、遊び人

隠しステータス運が非常に上がりやすい。他のジョブにない独自のスキルはあなたの人生を楽しいものにするでしょう。全ジョブの中で1番ジョブレベルが上がりやすい。



(えっ?選択肢1つだけ?しかも遊び人って…村の人からそんなジョブあるなんて聞いたことないぞ。。選択肢もないし、これを選ぶしかないか…



それにしても遊び人か…前の世界のドラ○エ3を思い出すな。遊んでばっかだけど、レベル20まで上げたら転職で賢者になれるって有名だったな~!



この世界ではジョブの転職はできないけど、ジョブレベル40で、2次ジョブを選べるようになるらしいから、もしかしたらそこで一発逆転ができるかも?


俺魔力0の魔法の才能無しだから怪しいけど頑張ってみるかな!)




【アランはジョブ遊び人を選択した。】



ジョブを選択すると、目の前にあったステータスに変化が現れる。



名前 アラン

種族 ヒューム

年齢 12歳

力 68(84-16)

体力 80(73+7)

俊敏 129(118+11)

器用 200(168+32)

知力 78(96-18)

魔力 0


ジョブ 遊び人lv1

ジョブスキル なし

称号 転生者、神ファルスの加護を受けし者、魔物を狩りし者



(ハイド!よし、ステータスも消えたし、これで俺の成人の儀は終わりだな。ビアンカはまだ終わらないか。。選択肢なかった俺とはかかる時間が違って当たり前か…)



『先ほども言いましたが、ゆっくり時間をかけてもいいので、後悔の無いようじっくりジョブを選択して下さい。


終わった者は、「ハイド」と念じ、ステータスの表示を終えて、この神殿の中庭にいる各ジョブのギルドへ名簿登録してください。』



ちらほらと席を立つ者も現れてきたので、俺も席を立ち、中庭に向かうことにする。

『ビアンカ先に行くぞ。終わったら、神殿の外で落ち合おう』



中庭では、各ジョブのギルドが新人の仲間入りを大変喜んでいた。また、多くの職業のスカウトもいるようだ。有能な者を捕まえるチャンスだから皆張り切っているようだ。



俺はというと、遊び人のギルドが見当たらず全てを回っていた。しかし、やはり遊び人のギルドが見当たらない。仕方ないので、スタッフとして動いてる神官の方に声をかけてみた。


『すいません。選んだジョブのギルドが無いようなんですが、どうしたらよいですか?』


『ギルドがどこにあるのか分からないのね?何のジョブに就いたのかお姉さんに教えて貰える?』


『はい。遊び人です。』

俺は真面目に答えた…ただそれだけなのに。。


『!?お姉さんをからかってるの?それともお姉さんをナンパしたいのかな?ごめんね…私年下に興味ないのよね。


毎年いるのよね~成人の儀を軽く考えている子って。。成人したんだからもっと真面目に行動しなさい。人生の先輩のお姉さんからのアドバイスよ!』


神官のお姉さんに呆れたような顔で説教され、俺はその場に居辛くなってしまった…


本当のことをただ伝えただけなのに…



『ふざけたつもりは決してなかったんですが、結果気分を害することになって申し訳ありませんでした。』

深々と頭を下げ、取り敢えずその場から逃げ出した。



(おそらく遊び人のギルドは存在しないのだろう。全部を回ったつもりだが、見つけることが出来なかった。そして、神官のあの反応…


俺自身も今日までそんなジョブの存在を知らなかったもんな。勇者や賢者と違って、おそらく悪い意味で特別なジョブなんだろうな…


しかし…どうしよう。このままギルドの登録を無視して、村へ帰るのは可能だろうが、どうせ後から未登録がばれる筈だ。普通の神官では駄目なら、偉い神官に確認してみるか…



それでも駄目なら諦めよう。)



俺が神殿の中に戻ると、そこにはもうほとんど成人の儀を迎えた若者は残っていなかった。奥には今も先ほど演説をしていた教皇ロメロ様がおられた。


俺は勇気を振り絞り、ロメロ様にゆっくり近づいた。運良く、他の神官に止められる前に、ロメロ様は自分に近づく俺に気付いたのか、こちらを振り向く。


『どうかされましたか?』

と優しい声で話しかけてくれる。


俺はその場で跪く。

『お言葉を頂き大変恐縮です。


本日成人の儀にてジョブを得ることができたのですが、どうやら特殊なジョブのようでギルドも存在しないようです。


他の神官の方にどうすればよいかを確認しようとジョブ名を伝えたところでふざけていると思われ、説教を頂くこととなりました。


決してふざけても、嘘もありません。これからどのような手続きを行えばよいかをご指示頂ければ幸いです。』


ロメロは興味を持ったのか

『ほう、特殊なジョブですか?何というジョブを選択されたのですか?』


『はい。私の場合は、選択肢が1つしかありませんでした。ジョブ名は【遊び人】となっております。』


『……!?遊び人ですか…確かに聞いたことがないジョブのようですね…嘘を言ってる様子もないですが、念のためあちら魔動機でジョブ名を参照させて頂いてもよろしいですか?』


『もちろん構いません。』


(ふう!これでようやくジョブ登録が終われそうだ…)



魔動機とは、水晶に手のひらを置くとステータスの一部が表示される機械だ。俺が手のひらを水晶に置くともちろん


名前 アラン

種族 ヒューム

年齢 12歳

ジョブ 遊び人lv1


と表示される。


『間違いないようです。珍しいジョブに愛されたのも、絶対神アーレス様からの何かの思し召しかもしれません。


珍しいジョブになるので、残念ながらギルドは存在しませんが、私の方で登録だけはさせて頂きます。こちらに触れながら必要事項を答えて言ってください。』


『はい。ありがとうございました。』



この王国最大の宗教であるアリスト教の最高権力者である教皇ロメロ以外に、この時話しかけていたら、未来はまた大きく変わっていたのかもしれない。



運命とは本当に不思議なものなのだ。。


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