第8話 立体交差(それぞれの道)
直人
一人暮らしを始めた俺は、
空虚な時間を紛らわすように
仕事に逃避していた。
世の中ではブラック企業と
言われるのかも知れないが
残業100時間近いこの仕事は
俺の中に拡がる虚ろな時間を埋めるのに
結構役にたっていた。
確かに疲労もたまる、
だが、その疲れは熟睡とのトレードオフで
最近見る、おかしな夢を消してくれる
睡眠誘導剤でもあった。
ある日
あまりに根を詰める俺に見兼ねた同僚が
「おい、お前を見てると、生きる為に仕事してるのか、
それとも、仕事する為に生きてるのか、
わからなくなるぞ!」
「おまえ、たまには早く帰って、
友達と飲むとか騒ぐとか、しないんか?」
確かに
俺のことを誘ってくれる友達も、
いっぱい居た。
いや、俺のことを友達と
呼んでくれる人は確かに居た。
だが俺は、そんな時決まって、
「わりぃ、うちの会社ブラックだから、
行けねぇや、ごめんな、
次また、こえかけてくれや」
文字通り仕事ににげていた。
卒業してしばらく
研修期間なる時期は
実質、仕事などあるわけでは無いので
誘われるがまま参加していたのだが
「いやー、あん時は楽しかったよなぁー
みんなでバカやってw」
「そうそう、あんときは、
すごかったよなぁ〜 、
で、どう?、今の職場?可愛い子いる?」
「あの、学園のアイドルが、今や、奥様だってよーw」
そういった話題は
俺の中では、映画の中の一幕のようで
どこか、現実味のない窓の
向こうの出来事のようで
登場人物に混じることは出来なかった。
幸いな事に
本格的に仕事が始まり
仕事という口実が出来た俺は
その喧騒からは遠ざかる事ができ
残業代の対価に手に入れたパソコンと
スマホに非現実を求め
オフの時間を過ごすようになった 。
そんな時だった
悪夢が?
いや、夢が自分に接近して来たと
言ったらいいのだろうか?
長らく留守だった、自分の中の空席に
ひとが居座るようになって来た。
疲れからくる幻想なのか?
長い間、歪んで来た仮面の代償なのか?
自分にはどうしようも無い
引力に惹きつけられるように
その扉を開いてしまった。
奈緒
スマホ、その小さな箱は
元々、活字中毒だった私には
とても便利な道具
いつでもスマホは、好きな時に
私に活字を提供してくれた。
仕事を始め
図書館からも遠ざかってしまった私には
カバンをゴソゴソすることも無く
世の中に繋がることが出来る
便利なアイテム。
今まで、本の中にしか無かった
私の、新しい居場所になった。
ある時、
ふとした拍子に開いた、チャットサイト
それは
今まで、コミュニケーションが
苦手だった私に
夢の世界を提供してくれた。
そこでは、私は好きな自分に、
新しい出会い
そして、世界に
とても暖かい心を
もたらしてくれました。
相談や、雑談
何気ない会話
もちろん、変な人もいっぱい居たけど
そこはとても居心地良く
私を招き入れてくれました。
直人
俺の中をよぎる夢は
次第にその位置を占めるようになって
その夢に俺は
一抹の不安と怖さと
安らぎと安寧の入り混じった
不思議な感覚をもたらし始めた。
夢の中で
俺は
夢を見ていた
夢の始まりは、いつも悪夢。
小学2年の悪夢から始まった。
なおが居なくなった時の悪夢
ちょうど壊れたおもちゃのように
繰り返し繰り返し
同じシーンを再生する。
シーンが変わると
そこには俺がいた
そこに映る、俺は
ヒーローみたいに、人を癒し
寂しい人に寄り添い、
いじめに立ち向かい。
確かにどのシーンも
記憶の底には、
「あ、そういえば・・・ 」
的な感触はあったが
どこか、他人のフィルターを
通して見ているようで
俺であって自分ではないようであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます