第6話 悲しみの奈緒

奈緒


私が、直人くんを初めて意識したのは


中学三年生


直人くんは、小さいけれど面白くて

いつも、みんなを笑顔にしてくれていた。


時には、ドジで

時には面白いこと話して

結構運動神経も良くて、

小学校では高跳びの選手だったって。


体育のサッカーでも、身体の大きな選手に

怖がらずにアタックしてたし


それでいて、優しくて・・・



ある時、こんな事があったの。


体育祭も終わって、みんなの心がまとまっていた時期


1人の転校生がやって来たの!


すごく綺麗で、おとなしくて

でも、みんなの輪には混ざれないでいた。


クラスが、まとまっているからこその、違和感

そこにあったのは、『よそ者!』のラベル。


でも、そんな空気の中、

直人くんだけが、彼女の元に・・・


いつもの満面の笑みで

昨日別れた友達と話すように


「ねぇ、昨日のテレビ見た?」


最初は、顔を曇らせていた彼女も

徐々に話し出して・・・

笑顔見せるようになって・・・。


そしたら、あっという間に

みんなが集まり出して


それから

学校には近くの養護学校からの

生徒も居たけど

直人くんだけは、彼らの話しを聞いてあげて居たり


いじめられている子でも

普通通りにはなしをして

逆に標的になってたり


でも

直人くんは

同じだけの時間が

身体の上を通り抜けているはずなのに

とても、大人な感じがして


みんなの中に笑顔を届けているのに

なぜか、いつもの寂しそうだった。


直人くんだけが

違う時間の中を生きているみたいで


そんな時間の中で

私は彼を見つけてしまったの。


あの頃

私はまだ外に出ることを恐れていて

人に話しかけることもできず

いつもの一人きりで、みんなを見つめて居た


周りがどんどん可愛くなっていくのに

私は、全然

可愛くなろうと、可愛くなりたいなって

思ったこともあったけど・・・


絶対似合わないし

ホラーみたいになるの分かって居たから

空想の世界にこもってばかりだった。


いつもの、本ばかり読んで

本の世界の中で遊んで居た。


私に許されたのは、本の中の世界だけ

毎週、近所の図書館で借りた本の中に

こもっていた。


本の中では、私は自由だった

強く人を助けることも

やさしさを発揮することも

笑い・走り回ることも

自由にできた。


そんな私には

直人くんは、憧れで羨ましくて

映画の中の主人公みたいだった。 


みんなは誰も気がついて居なかったけれども


直人くんは、

みんなが笑顔になると

1人 、居心地が悪そうにして居た。


いつも笑顔のくせに、

ちょうどそれは、

スクリーンに映った映画のように

どこか虚ろで 


ふとした拍子に、宙を見上げて

そこに居ない誰かを、探しているようだった


私はそんな直人くんを

こそこそと見つめるだけ


話しかけてもらえることなんて

絶対にないことを

私だけは分かって居たから


絶対交わることのない並行世界

私から見える景色は

車窓に映る異世界だったから


このころ、私が直人君を見ていた時間は

それほどなかったけど


私だけは、直人くんの寂しさと

仮面に気がついていたよ。


みんなの中で、一番小さくて

みんなの中で一番存在感あるくせに

誰とも、本気で交わろうとしていなかった。


その後、しばらく直人くんを、

目にすることはなかったけど

次に目にした直人くんは、大学生だった。


やっぱり、ひょうきんもので

みんなを笑わせていた直人くん。


でもやっぱり

どこか、危なげで

ヒビの入った鏡をみているようだった


ヒビは、直人くんの心を、

徐々に、徐々に蝕んでいるみたいで


前にはなかった、ため息と

涙をたまに浮かべていました。


時には泣き

時には笑い笑わせ


私にはできないけど

誰かの為に本気で怒ったりしていた。


うん、

私には、怒るという事が出来ない。

臆病とかそういうのじゃなくて

怖いとかでも無く


どこかで、その感情を落としてきてしまった!


私は、泡のような存在だった

悲しみと涙と、哀れみだけの存在だった

パチンと時が来たら、弾けてしまうシャボン玉


誰の目にもとまることないように

影みたいに生きて来た、


ただ、

私と直人くんには、似たところがあったから

彼は、私にきづいていたのかもしれない。

ちょうど鏡にうつる虚像のように


直人くんは、みんなの中に居たけれど


私も、直人くんも

自分の中には、誰も居なかったから!


私と、直人くんの道が交わるのは、

もう少し先の事


二人が開いた、新しい扉の向こう側で


今は、今しばらく、

また、眠りの底に・・・・

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