30 すき

春樹パンダはダメージを受けた。「莉子は夏生の膝の上。俺はドアに挟まれる。なんて日だ!」


「ちょっと可哀想だったかしら?」夏生が春樹パンダを持ち上げてソファーの上に乗せた。「ねぇねぇ〜。カエルさんとパンダさんがチューすればいいんじゃないの〜? チューで戻れるなら〜」


「ハッ。その手があった。春樹、チューしてよ」


「えっ、い、いいのか? 俺とチューしても」


「元に戻りたいの」


「莉子……。俺のこと好きか?」


「えっ?」


「チューって大事なものだと思うんだ……。好きな相手じゃないとな……」


「そんなの聞くのってズルくない? そ、そっちはどうなのっ?」


「俺は莉子のこと大好き」


「もうっ! やっと言ってくれたんだから!」


「莉子は?」


「わっ、わからないの? わっ私、春樹のこと……すっ、すぅーーっ(「す」って空気になって発音しづらい……)すすすすすきだよっ」


「やったあ!」春樹パンダは両手をふにっと握りしめた。「なあなあ莉子、俺とパンダのぬいぐるみどっちが好き?」


「ええ?」


「なあ、どっち?」春樹パンダはワクワクしながら答えを待つ。


「えっ、えっと……。その……」


「答えるの恥ずかしいか? そうだな、質問を変えよう。今夜どっちと一緒に寝たい?」


「ぬいぐるみ」


 ガーーーーーーーーーーーン

 春樹パンダは呆然としている。


「えっ、俺とは一緒に寝たくないの?」


「春樹は変なことしてきそう」


「ウッ……」


「それより早くチューしてよ!」


「ぬいぐるみとチューするの嫌じゃないのか?」


「ぬいぐるみ同士だし、いいよ。ねえ早く」


「……」


「ねえ、春樹」


「ごめん。できない」


「なんですって!」莉子ガエルは両手両足をパタパタさせた。「なんで。なんでよ!」


「俺、カエルだめなんだ……」


「えー、そんなあ。私のこと大好きだって言ったじゃん。カエルの格好してたら嫌なの?」


「ごめん。苦手なもんは苦手なんだ」


「じゃあ元に戻れない。一生カエルのまま……」


「いや、莉子。チュー以外にも元に戻る方法を考えてあるんだ」


「チュー以外?」


「くすぐりまくって意識を飛ばしてみるんだ。俺がぬいぐるみになったのも意識が飛んだからだと思うんだ」


「じゃあ、私がくすぐってあげるぅ〜」夏生が莉子ガエルをくすぐり始める。


「ウキャキャ、やめてくださいよー」


「莉子に触るな!」春樹パンダは両手をパタパタさせて怒る。


「春樹はカエルさん触れないでしょ〜」


「ウウッ」





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