28  乙女の夢

「嫌だじゃないの! 元に戻れなくてもいいの? ずっと眠ったままの高校生としてテレビ取材がきちゃうでしょ!」


「ヤダヤダヤダ! 夏生とチューはイヤダ!」手をパタパタ、頭をブンブンふる春樹パンダ。


「うるさいカエルさんにうるさいパンダさんねえ……」


「夏生さん! お疲れのところすみませんが、パンダにチューしてください!」


「え〜、なあに〜。私が〜?」


「そうです! 春樹と私がずーっと寝たきりだと床ずれできちゃいます! 脳や体にも影響でちゃいます!」


 春樹パンダは想像した。「床ずれ……脳や体に影響……。嫌だ。今までずっと健康で生きてきたのにッ」


「さあ、夏生さん! パンダにチューを!」


「私はいいけど……。莉子ちゃんのぬいぐるみに私の口がついてもいいの……? 莉子ちゃんがパンダさんを抱っこしてスリスリした時、私と間接キスにならない?」


「……!」莉子ガエルはハッとした。


「そうだぞ、莉子! かわいいパンダに夏生の汚い口が付いたら嫌だろ!」


「ちょっと〜お? 汚いって〜? その失礼な態度、ホントに春樹が乗り移ってるみたいね! 全く失礼なパンダさんだわ! カエルさん、あっち行きましょ。あ、莉子ちゃんをリビングに運ばなきゃ」


 夏生は莉子ガエルを抱えたまま、倒れている莉子本体のリュックを肩からおろさせた。


「あっ夏生! 莉子に触るな!」


「うるさいわね〜。あ、よいしょっと。」


 夏生は莉子本体を横抱きにして持ち上げた。莉子ガエルは莉子本体のお腹の上。


 莉子ガエルが感動する。「こ、これは……ゆ、ゆゆゆ夢のお姫様抱っこ!! 私の死ぬまでにしたい十個のうちのひとつ! 夢が叶った……。でもまさかスカート履いてる男の人にされるとは……!」


「はいは〜い。あと九個はなあに?」


「えーと、なんだろ? すみません、考えてませんでしたー」莉子ガエルは片手を上げて頭をななめ45度にかたむけた。気分はテヘペロなのだが舌が出ない。


「適当ね〜。じゃあうるさいパンダさん置いてあっち行きましょ〜ね〜」


「はーい」


「俺も連れてけー!」春樹パンダは体が半分リュックの中のままジタバタした。




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