22 コインロッカーに入れる気かい?
し、しまった! 声出ちゃった……! 春樹パンダは、ぼう然としている。が、ぬいぐるみなので顔に出ない。
「あら? 今の誰の声?」夏生が周りをキョロキョロする。
「気が早いゼ。ナツキ!」
「えっ? 莉子ちゃん、何してるのよ〜」
莉子はリュックの中から春樹パンダを取り出して腹話術を始めた。「マダ連絡先交換しただけだゼ!」
(莉子、腹話術作戦か! 機転がきくな。莉子に後ろから両手つかまれてるぞ。なんかドキドキする)
「そうよね〜。私はお友達でもいいんだけど〜。どうなるか分からないわよね〜。腹話術できるなんてすごいわね」
「仲良くしてやってクレ!」(ハジメテ腹話術やったゼ……。よかったゼ。春樹がしゃべったって気づいてないゼ……)莉子は安心した。
「腹話術どうやるの? おしえて〜」夏生が春樹パンダに触ろうとする。
「だめです。この子は私しか触っちゃいけないんです」
(そうだそうだ。莉子にしか触られたくないぞ!)春樹パンダが両手をパタパタさせる。莉子が夏生に気づかれまいと春樹パンダの両手をギュッとつかむ。(あっ、動いちゃった。ああ、なんか秘密を共有してる感じいいなあ)
「も〜。わかったわよ。じゃ、そろそろこの店出ましょ」
「はーい」莉子は春樹パンダをリュックに入れた。夏生がお会計を済ませる。
「クリームソーダごちそうさまでした」
「どういたしまして〜」
「ちょっとトイレ行ってきます」
「は〜い。あっちの化粧品売り場で待ってるわ」
(えっ女子トイレ行くの? 俺も付いていっていいの?)
莉子は夏生から見えないようにコインロッカーの影に隠れた。「ちょっと春樹。しゃべったり動いたりしないでよ」
「ああ、ゴメン……」
「ちょっと我慢しててね」春樹パンダをリュックごとコインロッカーに入れた。
「えっ、何するんだ!」
「私トイレ行くし、またさっきみたいに腹話術するのやだから、ここでしばらく休んでて」
「ヤダヤダヤダヤダ!」
「うるさいなー」
「ヤダー!」春樹パンダはリュックの中でバタバタしている。
「大丈夫ですか?」警備員のおじさんに話しかけられた。
「えっ?」
「今、コインロッカーから声が聞こえた気がしたんだけど……」
「あっ、すみません! これぬいぐるみなんです! ちょっと腹話術の練習をしてまして……」
「腹話術?」
「あっ、はい。やって見せますね」莉子はリュックから春樹パンダを取り出した。
「警備員サン! イツモお疲れ様デス!」莉子は腹話術を始めた。
「おお。上手だね。なんだ、子供をコインロッカーに入れようとしてるのかと思ったよ。疑って悪かったね」
「イイエ! 紛らわしくてスミマセン! 警備員サンのおかげで楽しくショッピングできてマス! 感謝シテマス!」
「ははは。ありがとうね」
(虐待されてると思われてしまった。危ない)と春樹パンダ。
「すみません、警備員さん。ちょっとこのパンダとリュック持ってて頂けませんか? トイレ行きたいんですけど、荷物持って行きたくなくて」
「ああ、潔癖症なのかな?」
「はい。すぐに戻りますのでよろしくお願いします」走ってトイレに行った。
(女子トイレに連れて行かれると思ったら違ったかあ。でもコインロッカーに入れられなくてよかった。真っ暗なの怖い)
「おまたせしました!」莉子が戻ってきた。
「早いね、おじょうちゃん。はい、返すよ。」
「ありがとうございました!」
(ホッ。すぐ戻ってきてくれてよかった)
「パンダだ」「パンダかわいい」
子供達が集まって来た。
「フフッ、かわいいでしょー」
「ねえ、おばさん。パンツ見えてるよ」
「ええっ?」
「きいろだー」「きいろだー」
「ウワーッ!」
あわてて来たからスカートの後ろがウエスト部分に巻き込んでしまったようだ。
「きいろー」「おばさんきいろー」
「おばさんじゃないよッ!!」
ビクッ
子供達と春樹パンダは莉子の剣幕に驚く。「あ、スミマセン。おねえさん」子供があやまった。
「フン。分かればいいよ」
子供達は走って逃げて行った。
(えっ、莉子こわい)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます