19 断捨離されてたまるかい

「莉子を夏生に取られて、ぬいぐるみの俺はゴミ収集車行きなんて絶対に嫌だ。このまま、ぬいぐるみでいることに不安だらけになった。莉子、パンダグッズ好きなんだろ? 捨てるなよ!」


「もちろん、まだ捨てる気はないけど」


「まだってなんだ。せっかく俺が莉子の為にあげたんだから、パンダを大事にしてくれ」


「うんうん、わかった」


「なんでそんなに適当な返事なんだ」


「だって未来のことはわからないじゃない。春樹が元に戻っても、ケンカしてパンダに八つ当たりするかも知れないでしょー」


「可哀想だからやめてくれ。なあ、夏生は彼女にフラレて、うちに戻って来たんだよな」


「そう言ってた」


「今だけじゃなくてずっといるのかぁ。俺がぬいぐるみのままじゃ、夏生と莉子が二人っきりなんて心配だ」


「他に元に戻る方法は分からないの?」


「あとは、うーん……。ちょっと思い付かないな……」


「そっかあ」


「だからさ、チュー」春樹パンダが顔を付き出す。


「もう、やだってばー」莉子が顔をそむけた。



トントントントンッ

 夏生が部屋の外からノックした。



「二人共、準備できた〜?」


「あっ、すみません。春樹行かないそうです。また寝ちゃいました」


「ええ〜? ちょっと開けるわよ〜」夏生がドアを開ける。


スピー、スピーと春樹の寝息。熟睡している。


「も〜、莉子ちゃんが来てるのに、どうしてこんなに眠っていられるんだか。もしかして莉子ちゃん、もう春樹と一緒に住んでたりする?」


「住んでないですよ! 今日初めてお邪魔しました」


「あらそ〜お?」


「ほんとですってば」


「はいはい。じゃあもう出掛けましょ。春樹は、ほっときましょ〜」


「はーい」莉子は春樹パンダをリュックに入れた。


「そのパンダ、気に入ってるのね〜」


「はい。春樹にもらったので」


(莉子! そうだ、大事にしろよ)と春樹。





 莉子は春樹パンダ入りのリュックを前にしょって夏生の車の運転席の真後ろに座った。


「莉子ちゃん、助手席にしたら?」


「嫌です」


「もしかして、警戒してる?」


「はい、もちろん」


「大丈夫よ〜。高校生に手ぇ出さないわよ〜。春樹にも怒られたくないし」


「んー。助手席は嫌です」


「も〜。分かったわよ。買ってほしい物決まった?」


「え〜と。このパンダのぬいぐるみを洗いたいんですけど、優しい洗い方知りませんか?」


「まだ綺麗じゃな〜い。洗わなくても大丈夫でしょ」


「なんか、かゆいんですよ」


「え〜、洗濯機で洗えばいいんじゃない?」


「それだと目が回りそうで可哀想だし、生地が破れちゃったりしたら嫌なんです」


「そ〜ねぇ。ちょっと待ってね、ケータイで調べるから」

















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る