18 莉子を守りたい

「なぬっ。何故だ。元に戻れるかもしれないのに。白雪姫も眠り姫もチューで目覚めるぞ」


「ぬいぐるみって新品でも工場のほこりとかお店の埃とか被ってて、結構汚いんだよ」


「汚いだと! 寝てる時ほっぺスリスリしてきただろーが」


「ほっぺスリスリはできても口はイヤ。そういえば、ほっぺちょっとかゆいかも」莉子はポリポリと頬をき始めた。


「じゃあ俺を石鹸の泡でモッコモコにして洗ってくれ。そしたらキレイになるからチューできるだろ」春樹パンダは両手両足をいっぱいに広げてお願いする。


「やだ。洗って絞ってぬいぐるみの中の綿がよれたり、うまく乾かなくて中にカビが生えたりしたら嫌だもん」


「そんなぁ……。せっかく莉子に体洗ってもらってチューもできると思ったのに」


「それにさっき、このままでいたいかもって言ってなかったっけー?」


「それは……。ぬいぐるみのままでいれば

ずっと莉子と一緒にいられるって、さっきは思ったんだ」


おっぱい当たって気持ちいいしとは言わないように気を付けた春樹パンダ。


「元に戻らなくてもいいんじゃない? いいじゃん、ぬいぐるみ生活! お腹すかないからご飯も食べなくていいし、勉強もしなくていいんでしょー。羨ましー。私もぬいぐるみになりたいよー」


「ぬいぐるみ生活はなぁ、よく考えてみろ。

良い持ち主に恵まれないとキツいと思うぞ。

寝てる時によだれ垂らされたりとかな」


「えっ、私よだれ垂らしてたの?」


「ちょっとだけな」


「ご、ごめんっ」


「あと、掃除のしない部屋に放置されて、ホコリだらけになったりしそうだな」


「うっ。私の部屋汚いもんね……」


「八つ当たりで殴られたりされてもヤダな。

こっちはぬいぐるみだから、手も足も出ないのに」


「そ、そんなひどいこと……。するかも」


「なんだと。莉子、DVなのか? 恐ろしい……。あとは莉子がぬいぐるみの俺に飽きて、捨てたりしないか心配だ」


「私、断捨離好きなんだよね……」


「えええ。俺は断捨離されてゴミ収集車に回収されるのか? 嫌だ、そんな未来嫌だー!」


春樹パンダは、頭をかかえようとしたが、手が短くてできない。小さな両手を上げてアタフタしている。


「落ち着いて、春樹」莉子は春樹パンダを同じ目線になるように持ち上げた。


「莉子、俺は早く元の体に戻りたい。夏生から莉子を守りたいんだ!」


「春樹……」莉子は目を輝かせた。





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