15 いやん

「いいのよ〜。ぬいぐるみと喋るなんてかわいいわね〜」


よかったバレてないねと目を合わせる莉子と春樹パンダ。


「莉子ちゃん、ここのサンドイッチは具が大きいから、こぼさないように両手で食べた方がいいわよ」


「あ、はい。そうします」春樹パンダを隣の椅子に移動させて、両手で食べ始める莉子。


「いいなあ。私もぬいぐるみが欲し〜い。

今日から一人で寝なきゃいけないなんて寂しすぎるわ……。ねえ莉子ちゃん、後で一緒に買い物に行かない? 春樹も起こしてさ」


「えっ、一緒にですか?」


「そう、さっきのお詫びに何かプレゼントさせてよ。莉子ちゃん、来月誕生日来るし。丁度いいわね〜」


「何で私の誕生日知ってるんですか?」


「も〜。生徒手帳見せてくれたじゃな〜い」


「えーっ。一瞬しか見てなかったのに。よく覚えましたね」


「人の誕生日覚えるの好きなのよ〜。せっかく連休でいい天気なんだし出かけましょ」


「夏生さん、連休前にフラレちゃったなんて可哀想ですね」


「そうなのよ……。二人でどっか行くの楽しみにしてたのに……」


「……寂しいですね」


「誰かいい人いない? 紹介してよ」


「高校生に聞きます? どういう人がいいんですか?」


「そうだなあ。莉子ちゃんみたいに元気で可愛い人がいい」莉子の目をじっと見つめながら言った。


「あの、あんまり見つめないでほしいんですけど」


「とても可愛い目をしているよね……」さっきまでと違う低い声で莉子に話しかける。


「げげっ。声、低くありませんか? 男モードですか?」顔をしかめる莉子。


(夏生め! 俺の莉子に何言ってんだ!)

 春樹の嫉妬がメラメラ燃えた。


 カタカタカタカタカタカタ


「あら? 何の音?」


春樹パンダは貧乏ゆすりを始めた。座っている椅子がカタカタ揺れている。


「春樹、どうしたの?」莉子が春樹パンダを抱き上げた。


「そのパンダが震えてるの? なあに? マッサージ機能でも付いてるの?」


「あ、そ、そうなのかな? 昨日春樹からもらったばかりで、まだよく分かってなくて。震えはもうおさまったみたいです」


「へえ〜、ちょっと見せてもらえる?」


「だ、だめです! この子は私しか触っちゃだめなんです!」


「いいじゃな〜い。ケチ〜」


「大事なパンダなので、触らせられません!」


「え〜。じゃあそのパンダの小さな手だけでも触らせて〜。見るからに柔らかそうよね〜」


「じゃあ……手だけですよ!」


そう言って莉子は春樹パンダを夏生に奪われないようにギュッと抱きしめながら差し出した。


(おお、背中に莉子のオパーイがあたっている!)春樹は今、猛烈に感動している。


「はーい。手だけね〜」


 フニフニフニフニ 


夏生が春樹パンダの手をもみもみする。

「ホントに柔らかいのね〜」


 さわさわさわさわ 


 なでなでなでなで


(へ、変な触り方するな! ゾワゾワする!)


「耳も触ってい〜い?」


「仕方ないですねー。少しだけですよー」


 夏生が春樹パンダの耳を内側から外側に向かってなでなでする。


 さわさわさわさわさわ


 なでなでなでなでなで



「いやんっ!」

 春樹は声をあげてしまった。

(し、しまった……。)



「「へ?」」莉子と夏生が驚く。


「莉子ちゃん、今このパンダ変な声出さなかった?」


「え、えーと、そのぉ……。こ、このパンダ、耳を触ると『いやんっ』って言うんですよ! きっと!」


「そうなんだ〜。すご〜い!」と言って耳を触り続ける夏生。


(なんてこった……。さっき莉子をアホだなんて思ったバチだろうか……)


夏生が飽きずに耳を触り続ける為、春樹はしばらく「いやん」を言い続けるハメになった。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る