14 何でこんなアホなんだい

「何ですか。そのポーズは」莉子は、つまらない冗談を言われて機嫌が悪くなっている。


「右手が2で、左手も2で、22歳でっす。って22になってから年齢聞かれたら、このポーズしてるんだけどかわいくない?」


カニのポーズをし続ける夏生。カニのハサミをチョキチョキと開いたり閉じたりしている。


「かわいい人がやれば、かわいいです」


「まあっ、あなた私がかわいくないって言うの?」頬を膨らませる夏生。


「ちょっと不信がってるだけですよ。それで、お父さんじゃなくてお兄さんでオネエなんですか?」


「お父さん発言は反省してるわ。ちょっとふざけ過ぎちゃったわね。本当に春樹の兄で、女装男子なの。他にも聞きたいことあったら聞いて」


「じゃあ、確認の為に聞きますね。ご両親は?」

 

「春樹が高校入ってすぐに仕事で香港へ行ったわ」


「そうですか。続けて聞きますね、男の人が好きなんですか?」


「私こんな格好しててこんな喋り方だけど女の人が好きなの」


夏生はバッチリメイクでスカートを履いてる。4ヶ月前に彼女と同棲を始めたがフラレて戻ってきたそうだ。


「後で『本当は春樹の彼氏なの』とか言わないですよね。身分証をご提示して頂いてもよろしいですか? 私も生徒手帳を持ってきますので」


「私すっごく怪しまれてるわね」


「はい」


「仕方ないわ。私が美し過ぎるからいけないのよねぇ。それにもうちょっと私がねぇ、

トイレの便座を上げたままにしておくとか、

メンズのシャツを着て前ボタンの付き方で

『もしかして男?』みたいに思わせておけばよかったわ」


「名探偵じゃないので、そういうの気付かないです」


夏生は背が高めの女性かと莉子は思っていた。声も低くない。女装してる時は声を高めに出してるそうだ。


「じゃあ生徒手帳持って来ますね」


莉子は春樹の部屋に行った。ドアを開いてバタンと閉める。生徒手帳はリュックの中だ。


「ねえねえ、春樹」ぼーっと莉子のケツチラを思い出してる春樹パンダを抱きあげる。


「ん? サンドイッチはどうした? 俺はこの体だと腹減らないみたいだから、いらないけど」


「あの人お兄さん? 女装男子なの?」


「そう。みんな夏生の女装のことや恋愛対象とか、俺に根掘り葉掘り聞いてくるから、説明するの面倒で」


「彼氏じゃないよね?」


「は? 何でそうなる。実の兄だ。よくお兄ちゃんのがお目々ぱっちりでカッコイイって言われるが……」


春樹の目は小さくはないが普通である。


「春樹の方がカッコイイよ」


「お! サ、サンキュー! 莉子もかわいいぞ!」


「えへへ、ありがとー。向こうでサンドイッチ食べながら話聞くつもりなんだけど、私あの人苦手だから一緒に来て」


「おう! なかなか戻ってこないし、やっぱり莉子と夏生が二人っきりなのは心配だったんだ」


「何で?」


「そのうち分かる……。いいか、俺がぬいぐるみになってることはバレないようにしてくれよ」 


「大丈夫。まかせといて」莉子は春樹パンダを抱えて台所へ戻った。


「生徒手帳持ってきましたぁ……って何で服脱いでるんですか!」


夏生は上半身裸で待機していた。春樹と同じく肌が白い。おっぱいは無かった。


「女じゃなくて男ですよ〜って証明しようと思って! 免許証って性別の欄ないから。はいこれ。ここと住所違うけど」と免許証を莉子に見せた。


「はあ、あの私まだ高校生なので、急に男の人の裸とか困るんですけど」


「あら、ごめんなさ〜い。すぐに着ま〜す」


もう春樹から兄だと聞いたので免許証を見る必要はなかったが、見せろと言ったのは莉子なので見た。


「お、写真イケメンですね」


髪の短い、スッピンの夏生が写っていた。化粧をしてないので髭の剃り跡が青く目立っていた……。


「でしょでしょ。タイプだったりする? 今、メイク落としてスッピン見せてもいいわよ」


「全然タイプじゃないです。スッピンは結構です」


「あら残念、全然タイプじゃないかぁ。あ、莉子ちゃんっていうんだ〜。セーラー服かわいいと思ったら春樹と同じ高校なのね〜」生徒手帳を返す夏生。


「サンドイッチ食べていいですか。お腹すいたんで」


「どうぞ〜、食べよ食べよ」


莉子は椅子に座り、春樹パンダを膝の上に座らせ左手で抱えた。


ほほう。ひざの上か、結構座り心地いいな。ムフフと春樹パンダの心の声。


莉子がサンドイッチを食べながら、パンのカスをポロポロと春樹パンダの上に落とす。


(げっ。莉子、俺にかかってるの気付いてない?)


「あら莉子ちゃん、パンダに食べカスが付いちゃってるわよ〜」


「えっ。あ、ホントだ。ごめんね春樹」と言いながら食べカスを取る莉子。


(は? 早速名前呼ぶ? 莉子って何でこんなアホなの?)春樹は唖然とした。


「あら、ぬいぐるみに春樹って名前付けたの〜?」


「あっ! しまった!」


 






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