12 誰なんだい?

莉子は苛ついてるのに、春樹パンダはフニフニして柔らかい感触。


「耳をひっぱるな! 一緒に顔も伸びるからやめろ」


「彼女いるなんて聞いてないよー」春樹パンダの顔を両手ではさんで、ぎゅーっとつぶす。


「やめろって。えっ? 彼女?」


「しかも同棲してるなんて……」莉子が涙ぐんできた。


「夏生と俺が同棲? おいおい変な言い方やめてくれ。同棲じゃないし、彼女じゃないし」


「じゃあ、元カノ? 元カノと住んでるの?」涙ぐみながらキッとにらむ。


「はいー?」


「もう、一体なんなのよー」

今度は春樹パンダの両手を横にひっぱる。耳と同じくらいの大きさで平べったい。

同じくフニフニしている。

本物のパンダと違って歩いたり物を取ったりは難しそうだ。

ただ飾りとして縫いつけられている。


「だから引っ張ったりつぶしたりしないでくれ。変形しちゃうだろ」


莉子に「ペシッ」とツッコミを入れたくても「へにょり」とした柔らかい感触しか与えられない。


「莉子、落ち着いて」へにょりと莉子の両手を触る。


「夏生は俺のア……」

春樹が説明しようとした瞬間、ドンドンドンドンドンドンと部屋のドアがノックされ

「春樹〜。ちょっと悪いんだけど出てきてくれる?」と夏生の声がした。


「無理! 出れない。お取り込み中!」

パンダのぬいぐるみのまんま出ていくわけにいかない。


「あらそ〜、じゃあ済んだら来てね」

スタスタと夏生が去って行く音がする。


「あの人ほっといていいの?」


「パンダのまま出ていったらビックリ仰天だろ。しゃべってるの見られたら、中に変な機械入ってるのかと思われて、おなか切られて解剖されたらどうするんだ。

元に戻すのもキレイにやってくれるか分からないし。早く元に戻る方法を考えよう。

俺の本体だってずっと寝てるわけにいかないだろ。体がおかしくなる」


「うん。『バレる前に何とかしないと』ってそのこと。で、あの人だれ?」


「アイツは」

ドンドンドンドン。ドアがノックされる。


「また来やがった。何だよ!」春樹がドア越しに返事をした。


「二人共、一緒にサンドイッチ食べよ〜!」


「一人で食え!」


「いっぱい買って来てあるの〜。一人じゃ食べ切れないから〜。台所で待ってるから来てね!」夏生が去って行った。


「夏生の奴こっちに持って来いよな。莉子、おなかすいたよな。取りに行ってくれるか?」


「いいけど、あの人はだれなの? 早くおしえてよ、モヤモヤするー」


「……俺やっぱ恥ずかしくて言いづらいから……自分で聞いてくれる? もう疲れちゃった」


「何それ。もういいよ。寝てれば」

莉子は春樹パンダをカーペットの上に、ポイっと投げてリビングへ向かった。











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