9 ドスケベパンダ

このドスケベパンダが! とののしられ、春樹パンダは顔をにぎりつぶされた。

布団の上であおむけに放置され、莉子が風呂から上がって来るのを待つ。


(俺を抱きしめるたびに胸を押しつけてきたくせに。あれはアピールじゃなかったのか?

あれ? ぬいぐるみになったショックで何か大事なことを忘れてる気がする。

部屋中のパンダ達に白い目で見られてる気がする。いや、みんな黒い目なんだが)

 


「ふう〜、サッパリしたあ」


頭にタオルを巻いてシャンプーのにおいをさせながら莉子が戻ってきた。バスタオル一枚だったらどうしようとドキドキしながら待ち構えていたのに、ちゃんと服を着ていた。


(髪を乾かすのを手伝うこともできないし、セクハラ発言を封印されて俺は一体なにをしゃべればいいんだ?)

 

三面鏡ドレッサーの前に座ってドライヤーで髪を乾かす莉子をじっと眺めながら途方に暮れた。





「春樹、寝てるの?」


「……ん」


「しゃべんなくなっちゃったから、どうしたのかと思った」


「寝てたみたいだ。今、何時?」


「8時だよ。洗濯物干し終わったから学校行くよ」紺のセーラー服を着ている。リボンはグレー。


「あっ俺、学校に電話しないと」


莉子の携帯スマホを借りる春樹パンダ。タップしてもぬいぐるみの手だと反応しなかったので莉子が発信してくれた。手が小さすぎて持てないので莉子にスマホを耳元にあててもらった。


学校に連絡を済ませた。


「はーあ、補習休んじゃった」ため息をつく春樹パンダ。落ち込んで猫背になっている。


「どうせ忘れてたんだから連絡できただけでもいいでしょ。補習一緒に来る? リュックの中に入れて連れてくよ」


「お、よろしく」



莉子は春樹パンダの顔が出るようにリュックに入れて背負い外に出て玄関の鍵をかけた。



「今日は良い天気だねえ。布団干せてよかった」


「のんびり歩いてて大丈夫か? 遅刻するだろ」


「急ぐね」ユッサユッサとリュックを上下に揺らして走る。


「えっ。ちょっとちょっとゆれる〜〜」

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