8 言わなきゃ
次の日の朝。窓から光が差しこんでいる。外から聞こえる鳥のさえずりが耳ざわりで春樹は目が覚めた。
パンダグッズだらけの莉子の部屋だ。
「結局、俺はパンダのままか……。おい、莉子起きろ」
莉子はパチッと目がさめて枕元のパンダの置き時計を見た。「6時かあ。あれえ春樹どこにいるの?」
「莉子の頭の下」
莉子は春樹パンダの背中の上にほほを乗せていた。
「あ、ごめーん。枕にしてた」
「わざとらしい。視界に入ってるだろ?」
「ごめんごめん、柔らかくて気持ちよかったよ」
布団から起き上がって春樹パンダを両手で抱き上げる。パンダの抱きまくらのような柔らかさとフワフワした肌ざわりで、莉子はあの後ぐっすり眠れた。眠れないんじゃなかったのかよ、とぼやく春樹パンダを置いてけぼりにして。
「俺はお前の頭の重みで苦しかった」
「あら、一緒に寝たからって『お前』呼ばわり?」
「い、嫌か? 嫌ならもう言わない」
「別にどっちでもいいよー」
「別に、かよ……。お前、昨日風呂入ってないだろ? 髪がベタついてる」
「バレてたかー」
「風呂入って来いよ」
「うん」
「……かっ、体洗うの、手伝ってやってもいいぞっ」
「な〜に考えてんのぉ? このドスケベパンダ!」
「だ、だって。お前普段あっちに干してあるパンダのスポンジで体洗ってるんだろ? アイツにボディーソープ付けて、泡モコモコにして洗ってるのかと思ったら悔しくて悔しくて」
春樹パンダの小さい手が、洗濯ハンガーにつるされた手の平サイズのパンダのスポンジをふにっと指す。
「あんな可愛いスポンジ、もったいなくて使えるわけないでしょ。飾ってあるだけ」
「ほ、ほんとか? なあ、俺とあのスポンジどっちがかわいい?」
「えー、難しいこと聞かないで。どっちもかわいいよ。そんなことより春樹。セクハラ発言ばっかりしないでよ。普通の女子だったら口聞いてもらえなくなるよ」
「えっ、セクハラだったか? ごめん」
「そういうこと言う前に、私に言わなきゃいけないことがあるでしょう?」
「えっ」
「私、ずっと春樹に言ってもらえるの待ってるの」莉子が春樹パンダの目を見つめる。
「言わなきゃいけないこと?」
「そう」
「あ……実は昨日の夜から言おうと思ってたことがあって……」
「うん」
「でも俺、莉子に嫌われたら嫌だし、なかなか言い出せなくて」
「うん」
「やっぱり、男から言ってもらえた方が嬉しいよな?」
「そりゃ……そうだよ」
「わかった」春樹パンダが莉子を見つめ、大きく息を吸った。
「莉子、ムネ大きくなってきたな」
「ちがーう! もうバカ!」
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