7 ずっとこのままパンダのまま

「莉子、明日になってもパンダのままだったら、家に俺の本体のようすを見に行きたいから、連れてってくれ。明日から連休でよかったな。何か予定あるか?」


「明日学校だよ」


「なんだと」


「春樹、休むつもりだったの? 午前中に補習があるじゃん。うちらテストの点悪かったんだから」


「すっかり忘れてた。どうしよ。こんな姿じゃ、補習受けられない」


「朝、休みますって連絡するしかないね。しゃべれるから電話できてよかったね」


「どうしよ。ずっとこのままパンダだったら、授業受けられない」


「大変だねえ」


「人ごとだな。ひどいぞ」


「はい、じゃあもう寝よう。おやすみ」


莉子が電気のひもをつかんだ。


「待て待て」


「なあに?」


「シーツも布団も毛布もグッチャグチャだ。敷き直してくれないか?」


「あー、気づいてた?」


シーツは半分以上、敷き布団から外れて横にはみ出してる。掛け布団は真ん中でよじれて半分裏返し。毛布は足元で丸まっている。


「よくこれで寝れたな」


「もー、直すの面倒でー」


「ホントは二人で仲良く布団敷いたりしたいが、この体じゃ無理だ。他にも色々指摘したいところがあるが、この辺にしといてやろう」

(服はたたんでタンスに入れろよ。つーかタンスねーな、この部屋。たたむの嫌ならハンガーラック買ってやろうか。枕カバーも布団カバーもシーツもパンダ柄か。ムードねーな。

……よく見たら部屋中パンダだらけだな。なんかパンダ達に見つめられて、怖い)

 


「ねー、春樹。パンダになってから態度デカくない?」山積みにした服の上に春樹パンダを置いて、シーツを敷き直す莉子。


「余裕がないんだよ」(どうしよう。パンダになっちゃって) 


「はい、お待たせ。じゃあ春樹、腕枕してあげるね」


「お、おう」


莉子が横になりながらでも届くくらい、

長く足された電気のひもがひっぱられ、真っ暗になった。好きな女の子に密着されて眠れるなら、ぬいぐるみ生活も悪くないかも知れない、と春樹パンダは考え始めた。



「ねえ」莉子が春樹パンダのおなかをなでながら声をかけた。


「なんだ?」


「……眠れないの」


「くそっ。やっぱ人間に戻りたい」

小さい手をふにゅっと、握りしめた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る