バタフライ -9012-

@65536

第1話 モヤシ一族

 西暦9102年、ニュースクイドタウン──。

 ネオンの光、電飾だらけのこの街に産まれ、私は一度もこの地を離れることなく三十年生きてきました。

 私はモヤシ一族の出でチョーチョーに仕えております。モヤシ一族は全部で80兆人いるらしいです。正直いって見た目の違いはないし個性もない。いや、私的には個性を持っているつもりなんですが、その他の一族には我々は十把一絡げにされています。

 いや、まあそりゃそうで、私らチョーチョー護衛部のユニホームはパンイチで、ブラックのプロレスラーみたいな、イノキみたいなショーパン一枚なんですからね。あ、なんでプロレスラーとかイノキを知っているのかって言いますと、そりゃあ理由は簡単でして、素晴らしいコンテンツは世代を超えて受け継がれるからですね、やっぱり。プロレスやイノキは私らの時代にまで受け継がれ、今尚人気です。無論、私らのユニホームのモデルはイノキのそれです。唯一履くことを許されているシューズもイノキモデルのノイキ(NOIKI)ですから。

 で、モヤシ一族は揃いも揃ってガリガリガリクソンです。だからこそモヤシ一族だなんて呼ばれるんでしょうけどホントにそう。みんな骨皮筋太郎です。白いですし、乳首からは毛が生えています。生やしっぱなしにしていると、上官に叱られます。身だしなみ整えなさいって。だから毎朝乳首の毛を刈って出勤するのが私たちの日課になっています。

 そういったなかで、僕らモヤシ一族のアイデンティティが最も色濃く出ているのがチョーチョーの護衛です。

 チョーチョーは絶世の美女で、誰もがチョーチョーの美貌に惚れ込んでいます。チョーチョーを嫁に欲しいという連中は後を絶ちません。中には力づくでチョーチョーを自分のものにしようという輩もおります。いや九割がそういった奴らです。そんな外道からチョーチョーを守るために、我々モヤシ一族は存在しています。これはイデンシレベルの話です。そう我々がケツイした、とかではなく、いわばレゾンデートルなのです。


 ***


 「この鹿鳴郭の城の中に、チョーチョーはいるんだな? ウヒャヒャヒャヒャッ!! 弟とよ! ヨダレが出てるぜ!」


 おやおや?


 「兄者こそ。まあ落ち着きなよ、見っともない」


 私はそのとき宮仕えを終え、コンビニで立ち読みをしていました(もう今後一切こうした断りはさし挟みませんが、コンビニも雑誌も今尚のこっています。ほかにもそういったものはたくさんありますので!)。


 何気なくコンビニの窓の外を見ていると、二人連れの怪しい男がチョーチョーのいる鹿鳴郭に向かって歩いていくではありませんか。

 いや、厳密に言えば片方は弟の肩に乗っていたので歩いているのは一人でした。何故弟かとわかったかというと、兄は弟の肩に乗ると相場が決まっているからです。

 私はヘッドホンを外しました。その時かかっていたのはトムキャットの「tough boy」でした、色々とっ散らかっておりますが。

 私はすぐに表に飛び出しました。もうプライベートタイムだし、うちに帰ってビールを飲んで寝るだけでしたが、そんなことなど言ってられません。


 「おい! 君たち、どこへ行く!?」


 「なんだてめえはッ!」


 兄の方が凄みを聞かせてきます。


 「ピピピッと。ん、戦闘率5パーセントのゴミじゃねえか。無視して急ごうよ兄者」


 「君たち、私の忠告を聞かないと後悔することになりますぞ」


 「あんだってえ? そんなヒョロヒョロの体で何が出来るんだ? え? キサマこそ殺されたくなかったら、ウチに帰ってママのオッパイでもしゃぶってるんだな、あははは……」と兄の方が笑っている途中でしたが私は瞬時に飛びかかり、兄の頭を鷲掴みにし

、コンクリートに叩きつけてやりました。グシャリとスイカが割れるような音がして、その切断面の首辺りから、夥しい血が吹き出し、辺り一面がアクションペインティングさながらになりました。兄の顔面の断片は笑ったままの状態です。殺られたことに気づかないで死ぬなんてなんて哀れな奴でしょう。


 「やるねえ。」


 弟は私に向かってそういったつもりだったのでしょうが、生憎私はその方向にはおりません。


 「あべしッ、ヒデブウッ!!!」


 弟の頭がブヨブヨと騒ぎだすと、間も無くデヴィッド・クローネンバーグの「スキャナーズ」に出てくるスーツの男のように、頭が見事に弾け飛びました。私は何をしたかというと、マッハのスピードで弟の鼻の穴の奥の方に、手榴弾ナノを仕掛けたのです。


 「ふう。ただのコスプレだったか」


 まあこういうことは一日に何件もあります。常に目を光らせていないと危険でなりません。以前はこんなに頻繁にチョーチョーを狙う輩が現れることはありませんでしたが、やはりチョーチョーがお年頃の年齢になられたせいでしょう。今ではモヤシ一族は寝る暇もないといっても過言ではありません。

 

 

 

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