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「めちゃくちゃ怒られたな……」
「ね」
5限の授業を見事にサボりきる事に成功した俺たち二人は職員室にて粛清を受けた。たかが授業1限分くらいいいだろ別に……。
「さっきは……なんかごめんな」
「いいよ……どのみちわたしも残んなきゃだし。遅かれ早かれこういうのはあると思うから」
「桜山も理由があって来てるのか?この部活に」
「テストで低い点取っちゃって。先生に『部活入れー』的な事言われたから仕方なく」
「同じだな」
「そうだったの!?頭良さそうなのに」
「色々訳あってな」
そんな会話をしながら教室に戻ると、もぬけの殻になっていた。急いで帰りの支度をしてその場を後にしようとしてふと隣の席を見る。俺は朝の続きを思い出していた。
俺は仙花と喧嘩をして土砂降りの中に置き去りにしたのだ。仙花が焦りと苛立ちに耐えながら回答の糸口を探っていたのに対して俺はどうだ?自分が正義であるように振る舞った挙句、仙花に怒りをぶつけて逃げた。身勝手もいいところだ。
虚しくなって立ち去ろうとしたその時、
「人の席を凝視しないでもらえます?気持ち悪いので」
聞き覚えのある声がして振り向くと見慣れたポーカーフェイスがそこにいた。
「悪かった」
真っ先に頭を下げた。それが俺のできる精一杯の謝罪であり、すべきことだと思った。
足音がこちらへ近づいてくる。何をされるだろうか。拳か脚でも飛んでくるか、そう考えていると
「顔をあげてください」
これはきっと罠だ。顔を上げた瞬間を狙うつもりだろう。
俺は覚悟を決めて顔を上げた。
しかしそこにあったのは仙花の決まり悪そうな表情だった。
虚を突かれて若干固まったが、仙花の珍しい様子の方に気を取られた。
「おとといの事ですけど……配慮が欠けてました」
「貴方に言うのは癪ですが……だから……その……す、すみません……でした」
仙花の目を見ようとするも、視線を傍にずらされてしまう。俺に謝るのがそんなに癪かよ……
「な、何か言ってください」
「こちらこそ悪かった。あんな乱暴に」
「でも……嬉しかったですから」
「嬉しかった……?」
「なんというか……意外と他人の事ちゃんと考えるんだなって……」
頬を赤らめながら髪先を指で弄びながら言う様子を見るにその言葉は紛れもない本音らしい。
普段言われることのない相手からだったので柄にもなく嬉しくなってしまう。普段からこれくらい素直な性格なら楽なんだが。
「やっぱり今の無しで」
「は?」
「ニヤついてて気持ち悪いので」
「ニヤついてねぇだろ別に。じゃあ顔赤くしてたのはどいつだよ」
「わ、私じゃないですから」
「また赤くなってるな」
「さ、最低です!しゃざ、謝罪してください!」
「悪いが断る。事実を言ったまでだしな」
「私を不快にさせたのもまた事実です」
「じゃあ今までの俺への誹謗中傷も懺悔してくれ」
「それは嫌です」
「何でだよ。プライドか?」
「プライドです」
「高いのはテストの点数だけにしとけよ」
「次言ったら溶鉱炉沈めますよ」
「俺は過去を変えるために未来から来たロボットじゃないんだが」
教室をでると、窓から廊下に敷かれた西日のカーペットが俺たちを覆ってきて思わず光を手で遮る。夕日がやけに眩しく感じた。
*
「あっ、来た来たっ」
「遅かったじゃないか。どこで油売ってたんだい?」
「別に」
「すみません遅くなって」
何事もなかったかの様に振る舞う俺と仙花。
真実を話そうものなら部長と桜山が食いついてくるのはお互い目に見えていた。
ふと目をやると部長の隣には見慣れない女子が一人。
「ところでその人は?」
「ああ、彼女が今回の依頼人である一年の
「や、弥富です。よろしくお願いします。」
ぴょんっという風に椅子から立って丁寧にお辞儀をする姿はいかにも新入生らしく、小動物の様な愛らしさがある。
「でも何で今更依頼人の方が?」
「それを今から彼女に説明するとこさ」
そう言うと部長は姿勢を正した。
「弥富君。こちらとしても君の依頼を完遂するために依頼の背景を知っておきたいのだが、教えてはくれないだろうか?以前は訊きそびれてしまったからね」
聞いた事もない様な真面目で寄り添う様な声色で言う。
「部長さんあんなイケメンだったっけ?」
「普段の程度が低すぎるからそう見えるだけだろ」
普段からこれなら少しはついていく気にもなるだろうが二つ下の副会長にビビるほどのヘタレ具合が平常運転だとその気も失せるというものだ。
弥富さんはしばらく俯いて押し黙っていたが、ついに顔を上げると、
「分かりました」
そしてゆっくりと語りだした。
雑務部の雑な日常 里海勇魚 @natane007
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