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翌日、俺はなんの成果も得られていなかった。数少ない友人にあたってみるも、骨折り損だったりして早速この部活と言い切るのにはいい加減な何かの洗礼を受けているわけで、既に俺の脳内会議では退部の案が多数決を占めている。まあ、退部しようものなら留年もセットでついてくる仕様なので案止まりなのだが。


放課後、半ばヤケクソ気味に部室に向かいドアを開ける。見ると、ポーカーフェイスで置物のようになっている仙花、夏の校庭に降り注ぐ太陽光のごとき笑顔を浮かべる巡、苦虫を噛み潰したような表情の部長が同じ空間を共有してるとは思えない三者三様ぶりでそこにいた。


「見つかっただけハッピーじゃないですか!これで問題も解決しますし!」


「ま、まあそうなんだがね……」


「何がそんなに引っかかります?」


悩ましげな表情の部長を不思議そうな顔で見る巡を横目に俺は席につき、茶を飲みつつ傍観していた。察するにストラップが見つかったんだろう。さしずめ俺は成果ゼロという不手際を晒さず済んでハッピーってとこか。


「彼女、いや彼女たちとは少しばかり揉めていてね……。交渉は君達にお願いしようかなあ……」


「責任者なのに来ないんですか!?それは職務タイパンですよ!」


「新種のヘビか?」


「あっ士、いつの間に」


俺の影の薄さが証明されたところで視線が巡から仙花の方に寄っていく。SOSを求めているのだろうが、完全に相手を間違えている。


「ダメですよ、来てもらわないと」


「なんで君までそんな薄情なんだいぃぃ」


「部長は責任者ですから」


案の定迎合を拒否されたところで敵将二人に対し三度目の正直と言わんばかりに俺にちらちらと目配せしてくる部長。しかし、この世には二度ある事は三度あるなんて言葉もあったりするのだ。


「責任者、ですよね?」



「という訳なんだが……どう……かな?」


「前も言ったはずだ。生徒会はその『雑務部』とやらを部活動として正式に認可していない。よって協力はできないと」


俺たちは圧迫感に包まれていた。

生徒会室内に緊張感が漂っているのを俺たちは身に染みて感じていた。威嚇するかの如き鋭い眼差しは猛禽類のそれだ。というか、この部活非公認だったのかよ。これじゃあ豚箱とほとんど変わらない。


「業務の邪魔になる。出て行ってもらえるか?」


「ちょちょ、ちょっと待ってもらえるかい……?確かにこの部活は認可されてな」


「二度も言わせるか?」


「は、はいすみません……出て行きます……」


蛇に睨まれたカエル、とはこういうことを言うのだろう。俺らは何かに追われるかのように生徒会室を出た。


「あの人が川端那月であるなら今回の依頼は相当困難かと」


「だろうな。まさか副会長とは思わなかった。完全に俺らを敵と認知してるだろあれ」


「一学年下であそこまで怖いなんて……」


副会長に気圧されて、部室の空気まで重くなってしまっていて、部長と巡は先程の恐怖を思い出して縮み上がっていた。確かにあれを説得して件の品を頂戴するのは不可能に近い。


少しの沈黙を挟んで


「雑務部を正式なものにしてもらえばいいんじゃない!?」


閃きを伴った桜山が言った。


「実は既に申請を出しているんだけど、中々許諾を頂けなくてね」


「えーそれじゃあ手立てなしですよー」


頬を膨らませた桜山からの視線に被弾したのは俺だった。


「……生徒会の仕事を手伝うっていうのは?」


「それは……」


急に桜山の顔が曇った。俺は動揺して言おうとした言葉を飲んでしまった。

桜山の異変に気づいたのは俺だけではなかったらしく、部長もまごついているように見えた。


「桜山さん、どうか」


「わたし……帰るね」


仙花の言葉を切り裂いて、桜山は部室から出て行ってしまった。ひりついた空気が場に張り付く。

俺は現状に苛立っていた。赤点一つでここまで面倒な事に巻き込まれていることがどうしようもなく腹立たしかった。

その後誰が言い出すわけでもなく各々が自然と部室を出ていき、自然の成り行きで俺は仙花と帰路についていた。


俺は桜山が気がかりだった。

あの急な活気の無くなり様は心配になると同時にどこか引っかかるものを感じざるを得ない。


「桜山さんのことですか?」


「ん、ああ」


仙花には見破られていた様だ。流石の洞察力という他ない。


「お前の目にはどう映った?あいつの様子」


「落ち込んでいるのはもちろんですが、その原因が問題な気がします。ですが今は依頼が先です」


「桜山を放っておくってことか、それ」


俺には出来そうになかった。

誰かの気持ちを無視したまま依頼をこなして、それは本当に依頼を果たしたことになるのか?


「問題が解決するまでの話です」


「だとしてもだ。やるならまず一番身近な人

からじゃないのか」


面倒な事態になっているのは事実だ。だが、それを誰かを傷つけたまま逃げていい理由にはしたくない。


「依頼人には期間があります。そちらを優先しなければ間に合わないかもしれないのに」


「ならそっちを優先してればいい。俺があいつをどうにかする」


「どうにかするってどうやって」


「そっちには関係ないんだろ、依頼が終わるまで!」


怒声が響いた。

視界が赤く染まるのを感じてから数秒、面食らったような顔をした仙花をみてふと我に返る。


「悪い。先帰る」


俺は踵を返して仙花から逃げる様に走った。

互いの姿を隠すように降り出した雨は俺をぐしょ濡れにして、一晩中止むことはなかった。





















































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