イルカと彼女の思い出と

1

 補習の次の日、


「どういうつもりだ」


「何がです?」


「何がじゃないだろ。昨日の補習の時俺の机の中に紙入れたろ」


 朝一番に昨日から抱えていたモヤモヤをぶつける。


「あれですか。一種の歓迎ですよ。気に入りませんでした?」


「気に入らなかったよ。じゃあ担任に俺が部活に入るよう煽る指示を出したのもお前か」


「ええ」


 九十九つくもは悪びれる様子もなく言う。若干綻んだ頬が何故か妙に嬉しそうだ。


「なんか嬉しそうだが」


「いや全然」


 指摘したら急に冷めやがった。なんなんだこいつ。


「はあ……。じゃあ俺は見事にめられた訳だ」


「元々の原因はあなたですから、私に非はないかと」


「その正論体質はどうにかなんないのか?お前は初めて会ったときも……初めて……」


 いつだ?九十九と初めて会った日。答えが定まらない。まるで初めて会った日が沢山有るかのように思考がバラけてしまう。一体いつ—————


「え、あの、大丈夫ですか?」


「あ、え、わ、悪い。大丈夫だ」


「何か考え事でも?」


「ああ、俺らが初めて会った日の事って覚えてるか?」


仙花はキョトンとした後、少し考え込んでこう言った。


「進級した後のホームルーム、では?」


「……そうだったか?」


その中に"ああそうだった"と首肯出来るインパクトは無かった。


「私の知る限りでは。もしかしたらその前に士が一方的に私を見つけた事があるのかも知れません」


「じゃあそういう事にしとくか……」


 チャイムが鳴る。俺は違和感を覚えつつもそれ以上九十九に突っ込まなかった。

 それよりも届きそうで届かない記憶へ手を伸ばすのに必死になっていた。記憶力が他人よりも悪いだけといったらそれまでだが、思い出せないことがあるのは気分が良くない。

授業が始まってから終業の時間までそのことで頭がいっぱいで、会話もどこか上の空になっていたことを九十九に訝しまれっぱなしだった。


解消されないもやもやを抱えながらも、放課後初めて正式な活動ということで部室へ向かっていた。本当は今頃コンビニにでも寄って飲み物でもあおっているだろうが、留年を人質に取られてはお手上げだ。あとは部長の仰せのままである。


「おっ、来たね。紹介しよう!5分前に入部してきた桜山巡さくらやまめぐり君だ」


「訳あって今日から入部しました桜山巡です!よろしく!」


新入部員であるらしい明るい彼女を見て俺はほっとしていた。仙花に部長と変人続きだった知り合いにやっとノーマル人間が加わった訳だからな。ここらで一般人が来てくれると心強い。


「俺は何某士なにがしつかさ。よろしく」


九十九仙花つくもせんかです」


「最近になって部員が増えてきたのは実に喜ばしいことだぁ。仲良くしたまえよ?」


「士とよりは仲良く出来そうですね」


「悪かったな、仲良く出来そうにない男で」


「え、仲よさそうじゃん二人とも」


「「いや、別にそういうのじゃ……」」


「ほら息ぴったり」


「「っ……」」


無邪気な指摘で虚を突かれてしまった。

いかんいかん、変に意識してしまっている自分がいる。決してこんな汎用ヒト型正論兵器とそんな関係になる事は望んでいない。


「そうそう、今日はやる事があるんだ」


「普段は部室で怠惰を極めるだけなのに今日は珍しいですね」


「中々容赦ないな君は」


どうやらこいつは気心知れたやつに無差別正論攻撃を仕掛けるらしい。仲を深める事が仇になる人類はこいつくらいのもんだろう。


「まあいい、その名も"オペレーションα"!」


「「「ださ」」」


「ひ、ひどいな!折角考えたのにぃ」


「無いセンスを必死にこねくり回しても何も出ませんよ」


「あぅっ……」


割と本気で悲しそうにしている部長に容赦なく追い討ちを仕掛ける仙花。やはり恐ろしい。


「まあまあ……。で、そのオペレーションなんちゃらってのは?」


「昼休みに1年生の子が頼み事をしに来てね。あるものを探して欲しいらしいんだ」


そう言って部長が机に滑らせた紙にはイルカのストラップが描かれていた。


「このストラップを見つけるてその子に渡す。それが今回のミッションだ」


「買えばすぐ終わりそうだけど……」


「それが限定品なんだこれが」


「オークションは?」


「傷モノしか無かったさ。新品が出るのを待つにもどうやら一週間以内にって念を押されてね。理由をいてもとにかくお願いって頑なだったよ」


「じゃあ俺たちどうすれば」


「とりあえず身の回りの人間に訊いて回って欲しい。成果があり次第報告してくれ」


















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